the other side of SmokyGitanesCafe
それとは無関係に・・・。
 





GITANES1カートンというギャラで
文章を書いたことがある。
それとは無関係に・・・。

(前回のつづき風。)

その、暗めの路地にある『ホワン』と明るく浮かんだ店。
入って右にあるカウンターの隅に座る。
いくつかの料理と飲み物を注文する。

近くの席には男女ペア、少し離れた席にも
アベック。
それぞれがそれぞれなりに、静かに笑っていた。
シンプルで落ち着いた造作の店内では
そのようなアベック、とくにオシャレした女性が
華になるのだろう。
華美な店では客の装いが死ぬ。

ごはん、注文を受けてから炊き上げるごはんが
滅法うまいと聞いた。
すこし時間がかかるというから、他の料理が
届く前だが白飯を注文した。


仕事の電話が入る。
応答せずに放置していたら、メールも届いたらしい。
電源を切る。うるさい。
スマホをチラチラ見るのをやめて人間観察でもしようか。

肉豆腐が運ばれてきた。
うまい。予想通りというか、とにかく。
そしてその味で、自分の大失敗に気づいた。


「この店では個室に座らなければならない」

肉豆腐がうまい。
当然ダシもうまい。
そして、白飯がうまいと評判だ。

こういう条件が整っているのだから
白飯にダシをかけて食うのが大正解ではなかろうか。

それなのに、私はカウンターに座っている。
目の前、カウンターの向こうにはにこやかで
寡黙なマスターがぬかりなく店内に目を配っている。
背後には静々・きびきびと動く、妙齢の女性スタッフ
が3人もいて、どんどん増えてきた客の間を
スルスルと縫い、立ち働いている。

そんな中で肉豆腐の余りダシを白飯に回しがけ、
掻き込むことができるのか。
シャンパンを飲む華やかなアベックの隣で。
マスターの前で。スタッフの真ん中でダシめしを?
自分の連れも肉豆腐を食べてから、どうやら同じ
感想を持ったようだ。

「個室にすればよかった」。

問題はもう一つあった。
肉豆腐がうまいことはわかった。
そして、白飯は15分後に炊き上がる。
ということは、肉豆腐のダシを最低15分は
温存しなければならないのだ。
もし肉豆腐を平らげてしまって、ダシだけを
温存しておこうと思っても、最後の豆腐片を
口に入れるや否や、妙齢のスタッフが風の
ように現れて
「こちらお下げします」などと、ダシが厨房
へ戻されてしまうかも知れないのだ。

今、私と連れの目の前にある肉豆腐の鉢に
ほんの小さい肉片が残されているのは
ダシを湛える鉢を持っていかれないよう
死守するためなのである。

しかし、このダシを守り通したとして
そしてやっと白飯が炊き上がって、ゆらゆらと
湯気を立ち上げながら運ばれてきたとしても、
それをそれにジュワッと回しがけて
一心不乱に箸を(ダシが纏わりついた茶色い米粒
をこぼさないほどの高速で)動かせるほどの
度胸があるのか。

ああ、
「個室にしておけばよかった」




ごちそうさまでした、とお金を払い店を出て
駐車場までゆっくり歩く。
さっきよりかなり気温は下がったが
上気したせいか少々寒い方が心地いい。

連れ
「やりましたね」

「やりましたね」

ぽかぽかするような心地のまま
しばらく夜の街を歩いた。





」」」」」」」」」」」」」」」」」」




いや、結局
ダシと白飯を目の前にした我々は同時に
「もう他人様の目などどうでもいい」という結論に
達し、数人の視線を痛いほど感じながら
肉豆腐のごく小さい肉片とダシを飯椀にかけ
もう一度
「いただきます」と宣言して食べきり
好奇の目から逃れるように素早く帰った次第である。

それがどうした文句があるか。











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