小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

江藤淳 『アメリカと私』

2011-09-11 23:59:48 | 読書
この本は、1962年、まだ29歳の若手批評家であった著者が、アメリカに渡り、はじめはロックフェラー財団の研究員として、後には教員として、プリンストン大学で過ごした二年間の経験とそこでの考察を記したものです。
アメリカに着いて早々、夫人が体調を崩して医者を探すところから、アメリカ社会での戦いが早くも始まります。そして、保険金の請求や財団への費用請求、給費額の増額交渉等に奮闘することを通じて、米国社会の内側に入り込んで行くことに。
二年間の滞在中は、公民権運動、キューバ危機、ケネディ暗殺など、激動の時代でもあり、米国の持つ様々な面を見つめています。
半世紀前という時代の流れはありますが、著者がアメリカ社会という異質な文化の中で格闘する姿がひしひしと伝わってきて、読みごたえがあります。
「適者生存」の論理はグローバリズムとして世界に拡散されましたし、「米国市民であるものに対して米国市民になることを要求している。」(『アメリカ通信』「第一信」)とか、「パシフィスト」に対する米国民の冷たい視線(同「キューバ危機の中で」)、「『アメリカ』に内在する拡張主義の本能」(同「私の見たアメリカ」)など、今でも通じるところはありそうです。(もっとも、だいぶ翳りがでてきていますが・・・)


アメリカと私 (講談社文芸文庫)
江藤 淳
講談社
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