こんな本を読んでいる

日々出版される本の洪水。翻弄されながらも気ままに楽しむ。あんな本。こんな本。
新しい出会いをありがとう。

ひこうき雲~その日のまえにから

2005年10月25日 | 読書ノート
その日のまえに

文藝春秋

このアイテムの詳細を見る

 blog Ranking へ

 誕生日に連れ合いからプレゼントしてもらった重松清の『その日のまえに』を読んでいる。短編集の一作目は「ひこうき雲」。小学6年で,不治の病(白血病?)に罹り死地に旅立つ同級生を回想しながら,施設に妻の曾祖母を見舞う作品だ。12歳と91歳。はちきれる若い命とひなびて枯れた命。奇妙なコントラストだが,二つの命の重みに差はない。

 「ガンリュウ」と呼ばれるこの女の子は,粗野で人気者というよりは嫌われ者。見舞いに来た先生や友人たちにも素っ気無い。だが,やがて強気を装う彼女の目から涙が零れ落ちる。幸いというべきか,大学を卒業するまで,身近な同級生・友人を失った経験はないが,こんな光景を目の当たりにしたらやりきれないだろうなと思う。

 一方,痴呆の進行で,自分をなくしたり取り戻したりを繰り返す老女。彼女の目からも混乱の涙が落ちる。見舞うほうもつらい。そういえば,母が亡くなる前,3月まで入院していた病院へ2~3度お見舞いに行った。着いたらすぐにでも帰りたくなるような所在なさ。だが,きっかけがつかめると不思議なことに母はよく語った。つらい話が多かったように思う。

 もっと聞いてあげれば良かったという後悔が今もある。親孝行したいときに親はなしとはよく言ったものである。しかし,仮に時間があったにしても,自分と自分を取り巻く環境と母親との距離は容易には埋められるわけもなく,結果として,後悔の念は解消されなかったに違いない。
 心の中の母に語りかけ不義理を埋め合わせる。母は許してくれるに違いない。重松清の作品をはじめて読みながらそんなことを考えた。良いプレゼントであった。感謝。 blog Ranking へ

 


最新の画像もっと見る