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『私はこうして発想する』を読んでいる

2006年02月24日 | 読書ノート
私はこうして発想する

文藝春秋

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  井深とともにソニーを興した盛田は,生涯で米国へ400回以上出張したという。復興日本にとって,アメリカ市場に食い込むことは,サバイバルゲームを勝ち抜くため必要不可欠であり,そのために盛田は体を張って米国の政財界の大物たちと膝詰め議論を戦わした。決して流暢とは言えない英語を駆使して,日米間の軋轢の取り除くことに腐心し,困難にに果敢にチャレンジした経済人。それがまさに盛田だったと大前はいう。

 米国は決して柔な相手ではない。ハンマーで日本車の窓ガラスが粉々にされたり,日本製品のボイコットが起こったり,1980年代の日米貿易摩擦における米国のヒステリーは尋常なものではなかった。このジャパン・バッシングに立ち向い,困難を凌駕し米国での地歩を確かにしたのが,盛田らを代表とする経済人たちなのである。「いくらバッシングが激しくとも,バッシングが原因でアメリカ進出をあきらめた日本企業を私は知りません。「アメリカ市場抜きでは,日本は生きていけないという信念(あるいは「悲壮感」)を全ての企業人が持っていたからです。(『私はこうして発想する』P120)」

 そういわれてみると,冷戦構造と安保条約で蜜月にあると思われてきた米国との間には,日米繊維交渉(70~72年)あり,日米半導体協定(86年)あり,日米構造協議(89~90年)ありと,特定の産業分野が抜きん出た存在になるたびに,米国の反発を招き圧力をかけられてきた。また,そのたびごとに,「バカにされても脅されても,実を獲ることだけ考えて,絶対に逃げずに頑張りぬいた。プライドなんてかなぐり捨てていました。私は半導体交渉やテレビ交渉など,主要な交渉を数多く見てきましたが,企業,政治家,官僚が一致団結し,「とにかくこのマーケットを捨てるわけにはいかない」と日本と日本人が生き残ることを第一に考えて交渉していた姿を忘れるわけにはいきません。(同書P122)」と我が先輩たちは頑張ったのである。

 また,74年の田中角栄のタイ,インドネシア訪問時の学生デモもそうだった。太平洋戦争の記憶さめやらない東南アジア諸国にとって,日本は許せる存在ではなかった。学生デモに象徴される抵抗にあったわけである。「しかし,それにめげず,日本は東南アジアの経済発展を積極的に支えました。とりわけ,資本だけ入れて現地企業を買収すると言う帝国主義的なやり方ではなく,日本科学技術連盟,社会経済生産性本部などの組織が中心となり,日本が作りこんできた製造業のノウハウを持っていったことが大きかった。(同書P118)」という。
 このころ,呉にある造船会社からシンガポールに家族で赴任した叔父は,強盗に家族を縛り上げられるという,難に会いながらも,東南アジアへの技術供与に使命感で数年間頑張った。使命感に燃えていたという叔父の述懐を思い出しながら,我々の先輩たちは,まさに,体を張って闘ってたんだと思うと熱くなってきた。
 だからこそ,「日本を先頭とする『雁行モデル』においては,日本の後をついていくことによって我々は発展する。だから日本が栄えるのは良いことだ。」という意識をもってくれた。(同書P118)」わけでもあるだ。

 中国市場を巡り,いま,反日デモや日本製品ボイコットが起こっている。だが,中国の反日キャンペーンに怖気づくなと大前は叱咤する。いわく,「日本人も近い過去の歴史や,台湾という隣国の研究をすることによって,貴重な教訓を引き出すことができます。「今こそ中国市場に突っ込む」と言う発想を持って欲しいものです。そして,その次には「インドへ」となります。
 少子・高齢化の進む日本を見るばかりでは目線が下がります。しかし,日本が戦後世界第二の経済大国になったのにははっきりとした理由があるのです。世界で最も難しいアメリカ市場を正面から捉え,どんな困難があっても逃げずに立ち向かっていったからです。日本のような,人材以外には恵まれたもののない国に生まれた者にとって,この染色体は保存しなくてはならないものです。(同書P126)」
 あまりにも単純すぎる受け止め方かもしれないが,何となく勇気づけらるメッセージだ。日本人の染色体は決して悪くない。これからも,頑張れるし頑張るぞ,と自分に言い聞かせてみた。将来を悲観的に考えるよりは力が湧いてくる。

 ちなみに,この本は,①先入観を疑う。②ネットワークから考える。③他にはないものを目指す。④歴史から教訓を引き出す。⑤敵の立場で読む。6つのメソッドによる発想法を説く。そのすべてが正鵠を得ているとは思えない。反論したいところも多々ある。だが,もとより大前の主張を鵜呑みする必要もない。そこに示されている見解に対し,個々人でかかり稽古すれば良い。要は思考の訓練の場・道場だと思えば良いのである。

 なお,同書の最初のところ,先入観の項で示されている先入観及びその先にある発想の例示は次のとおりである。この事例。さて,貴方はどんなふうに評価されるだろうか?

   ( 先 入 観 )           (その先にある発想)

・ 18歳人口減で大学冬の時代     大学院ビジネスの時代到来
・ 人口減少に即効薬なし         移民政策を推進せよ
・ 国内マーケットの縮小          中国が第二のマーケットだ

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