こんな本を読んでいる

日々出版される本の洪水。翻弄されながらも気ままに楽しむ。あんな本。こんな本。
新しい出会いをありがとう。

LTCMは何故失敗したか

2009年10月12日 | 読書ノート
不透明な時代を見抜く「統計思考力」
神永 正博
ディスカヴァー・トゥエンティワン

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  要するに,ブラック・ショールズ評価式が,「株価が正規分布」となっていることを,前提としているのに,実際の株価変動が
多きな偏りをもったものとなったため,予測に狂いが生じたからということ。

 つまり,タイ・バーツ下落に端を発したアジア経済危機に続き,1998年8月,ロシア経済危機が起こった時に,本来なら,
「株価のように,ときおりものすごく大きく変動するものに対しては,平均や分散が存在しないことがある」(P176)ことを無視
し,正規分布に基づいてリスクを見積もり,何万年に1回も起きないと考えていた大変動で,LTCMは,その資産のほとんど
すべてを失しなってしまったということ。美しい理論式の前提となる正規分布と現実の株価の偏り(べき分布)の差が,LTCM
を奈落の底に落としたのである。

 神永氏の次の2つの指摘は,誠に金言である。

1 ノーベル賞をとるような天才的な頭脳が生み出した公式だからといって盲信できないこと。「データを先に見る」と
 いう姿勢が重要であること。

2 経済現象には,べき分布が出現し,平均,分散といった基本的な統計量を定義どおりに計算すると発散してしま
 うこと。

 腐ったりんごを正規の商品と混ぜて売る,サブプライムローンに比べれば,可愛いものであるが,LTCM的なるもの,
金融工学の負の部分を分析し手当てしなかったつけが,その後のリーマンショック,世界経済の大混乱につながって
いくことを思うと,空恐ろしい。庶民には理解の及ばぬ世界である。


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