こんな本を読んでいる

日々出版される本の洪水。翻弄されながらも気ままに楽しむ。あんな本。こんな本。
新しい出会いをありがとう。

ミーナの行進

2007年08月01日 | 読書ノート
ミーナの行進
小川 洋子,寺田 順三
中央公論新社

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 コビトカバ??? そんなのいるの?

 何々,コビトカバの背に跨って通学する小学生だと?お家の庭を動物園にして,コビトカバを飼ってただって!そんなのありかよ,と思いつつ,奇想天外な仕掛けが微笑ましくお話は展開する。

 母と離れて芦屋の伯母夫婦のもとから中学に通うことになった朋子。一緒に暮らすのは,フレッシーという清涼飲料水メーカーの社長でもある伯父,ドイツ人の祖母,そして喘息を持病にかかえる従妹ミーナ。

 そして,この物語は,その一家との交流の記録。時代は1972年。春から約1年間の朋子とミーナの成長物語。川端康成の自殺,ミュンヘン五輪で金メダルの日本男子バレボールチームの活躍,パレスチナゲリラによるイスラエル人選手虐殺事件,ジャコビニ流星雨などなど。

 それらのどれもが私には馴染み深い出来事だ。何せ,物語の朋子と私は同級生ということになるのだから・・・。朋子の目を通して,30年前を思い出しているのような,ノスタルジックな感覚がよみがえった。
 そういえば,ミュンヘンで活躍した猫田選手が通った小学校に,今,息子と娘が通っている。若くして亡くなられたが,彼の遺伝子は,受け継がれているようで,件の小学校ではバレーボールが盛んである。全国大会へもちょくちょく顔を出している。

 ところでミーナの行進。単なる少女の成長譚にととまらず,気立てがよくてダンディな伯父の浮気や,それを知っていながらあえて触れようとしない家族。夫婦の微妙な緊張関係。ドイツに留学している息子との対立。など,奇麗ごとばかりではない家族の機微が,とてもナチュラルに表現されている。

 そして, ミーナの病気の克服過程とともに,朋子の一家とのお別れの時も来る。フレッシーってプレッシーを捩ったのだろうか。やがて,飲料会社も斜陽化し,芦屋の豪邸もなくなってしまうのだが,朋子の体験・物語は,ミーナの行進にパックされて,永遠に生き続ける。人それぞれの思い出も,こんなふうにパックされて永遠の生命を宿すのではないだろうか?

 でもまあ,よく,コビトカバに跨って通学するなんてこと,思いついたなあ,と感心。小川洋子さんの着想のかわいらしさに拍手。

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