大企業は儲けを使わずに蓄えに回す

2019年10月23日 22時07分44秒 | 社会・文化・政治・経済

使わないなら家計に回せ!企業「内部留保」が7年連続過去最大って…

磯山 友幸経済ジャーナリスト

増え続けているが「好循環」には遠い

企業が持つ「内部留保(利益剰余金)」が、またしても過去最大となった。

内部留保は、企業が上げた利益のうち、配当などに回されず、会社内に蓄えられたもの。2008年度以降毎年増え続け、7年連続で過去最大となった。

財務省が9月2日に発表した法人企業統計によると、2018年度の金融業・保険業を除く全産業の「利益剰余金」は463兆1308億円と、前の年度に比べて3.7%増えた。

全産業の経常利益が83兆9177億円と0.4%に留まるなど利益の伸びが大きく鈍化したこともあり、剰余金の伸び率は2017年度の9.9%増に比べて小さくなった。

安倍晋三内閣は「経済好循環」を掲げ、好調な企業収益を賃上げによって家計に回すことや、積極的な設備投資や配当の増額などを求めている。

同年度に企業が生み出した「付加価値額」は314兆4822億円。前の年度に比べて0.9%の増加に留まった。一方で、「人件費」の総額は1.0%増の208兆6088億円で、かろうじて付加価値の伸びを上回った。このため、付加価値に占める人件費の割合である「労働分配率」は2017年度の66.2%から2018年度は66.3%へとわずかながら上昇した。

もっとも、2017年度の人件費の伸び率は2016年度に比べて2.3%増えていたが、2018年度の人件費の増加率は1.0%に留まった。安倍首相は2018年の春闘に当たって「3%の賃上げ」を求めたが、結果を見る限り、程遠い実績となった。

また、企業が支払った「租税公課」は10兆8295億円と6.5%増えた。法人税率は下がっているものの、企業業績の好調を背景に、法人税収や消費税収が増えた。実際、国の集計でも、2018年度の税収は60兆3564億円となり、バブル期を上回って過去最大となった。

人件費の1.0%増という伸びは、租税公課の6.5%増、内部留保の3.7%増を大きく下回っており、「国」「企業」「家計」という3主体で見た場合、家計への分配が立ち遅れていることを示している。

企業の「内部留保」が4年で100兆円増加
労働分配率の低下はようやく底打ち

磯山 友幸

全産業の当期純利益は18.9%の増加

 企業が事業から得た利益のうち、配当や設備投資などに使わずに蓄えとして手元に残している「内部留保」が増加を続けている。全国3万社あまりの企業を調査する財務省の法人企業統計が9月1日に発表されたが、それによると2016年度末の「内部留保」は406兆2348億円と、初めて400兆円を超え、過去最高となった。

 安倍晋三首相は「経済の好循環」を実現するために、経営者らに対して、過去の内部留保や利益の増加分を賃上げや設備投資に回すよう協力を求め続けている。賃金はようやく上昇の兆しが見え始め、企業が稼いだ付加価値のうちどれだけ人件費に回したかを示す「労働分配率」は下げ止まったが、まだまだ儲けが十分に分配されているとはいえず、結果、内部留保の増加に結びついている。

 企業業績は好調さを維持している。アベノミクスの開始以降、円安水準が定着したことで、輸出企業を中心に採算が大幅に好転、利益が増えている。また、国内景気も明るさを取り戻しつつあり、内需型企業の業績も順調に伸びている。

 金融・保険を除く全産業の売上高は1455兆円と前の年度に比べて1.7%増加、当期純利益は49兆7465億円と7兆9150億円も増えた。率にして18.9%の大幅な増加だ。

 企業の儲けが大きく増えている一方で、なかなかその恩恵が従業員に及ばない。企業が生み出した付加価値の総額は5兆円あまり増え、298兆7974億円となったものの、そのうち人件費に回ったのは201兆8791億円。いわゆる労働分配率は67.5%ということになる。労働分配率はアベノミクスが始まる前の2012年度には72.3%だったが、毎年低下を続け、2015年度は67.5%にまで低下した。

 安倍内閣は企業の国際競争力を維持するためとして法人税率の引き下げを行ったが、その恩恵は従業員には行かず、もっぱら内部留保として蓄えられる方向に進んだ。ちなみに2012年度末の利益剰余金は304兆4828億円だったので、4年で100兆円増加したことになる。

 労働分配率が低下を続けてきたことには、麻生太郎副総理兼財務相らが政府の会議で苦言を呈するなど、問題視され続けてきた。安倍首相も財界首脳に対して繰り返し賃上げを要求。4年連続でベースアップが実現するなど、ムードは変わりつつある。

人件費総額は3年連続でプラスに
人件費総額は3年連続でプラスに

 2016年度の人件費総額201兆8791億円は前年度に比べれば1.84%の増加で、3年連続でプラスとなり、15年度の増加率1.18%よりも大きくなった。ようやく人件費の増加が鮮明になり始め、労働分配率の低下に歯止めがかかってきたとみていいだろう。

 一方で、これまで増え続けてきた配当が2016年度は減少に転じた。配当金の総額は20兆802億円と9.6%減った。当期純利益は大きく増えたので、純利益に占める配当の割合は前の年度の53.1%から40.4%へと大きく低下した。

 配当に関しては生命保険会社や投資信託運用会社などが配当の増額を企業に求め続けてきた。機関投資家のあるべき姿を示したスチュワードシップ・コードが導入されたこともあり、配当が十分でない企業の株主総会で議案の利益処分案に反対票を投じたり、経営トップの再任議案に反対したりするケースが増えている。機関投資家によっては、会社側提案の1割以上に反対票を投じているところもある。

 こうした「コーポレートガバナンス」の強化によって、企業経営者は利益の増加分を優先して配当に回す傾向があったが、前年度は利益の伸びが鈍化したこともあり、配当を減らす動きが強まったとみられる。

 配当を増やしてきた事に左派系政党などからは、「金持ち優遇」という批判もあったが、現実には年金の運用や生命保険の運用にとって大きなプラスになり、保険契約者の利益につながっていた。社会構造の変化によって配当の増額は必ずしも一部の資本家を優遇する事にはならなくなっている。

 そうは言っても、広く企業の利益増加の恩恵を配分して、「経済好循環」を実現するには、人件費を増やし続けていく必要がある。人件費の伸びは利益の伸びほど大きくなっていないのが実情だ。

 企業が給与の引き上げに慎重なのは、日本の場合、いったん給与を引き上げると、景気が悪くなったからと言って、引き下げることが難しいという現実がある。ボーナスならば業績連動ということもあり得るが、月々の給与を増やした場合、なかなか元に戻すことはできない。

 さらに給与を引き上げた場合、それに付随して年金保険料や健康保険料など社会保険の会社負担分が上乗せされるという現実問題がある。社員も給与が増えても社会保険料の自己負担や所得税、住民税が増えるので、恩恵を感じにくいばかりか、企業にとっても負担が大きい。しかも、年金の保険料率は毎年引き上げられており、今年秋を最終年度として引き上げ率も決まっている。

法人税率が下がっても、税収は増加
中小企業の場合、社会保険料負担のないパートタイマーの採用などを優先し、賃上げには慎重になるケースが少なくないのだ。

 では、「内部留保」が増え続けるのを止めることはできないのか。

 財務省は2012年に、日本経済が成長しない理由を分析して2つの原因があるという結論を得た、1つはグローバル化に乗り遅れたこと、もう1つは企業が内部留保として資産をため込んだために、経済循環が止まったというものだった。安倍首相が「経済好循環」を繰り返し口にし、給与の引き上げなどを求めている背景には、こうした分析がある。

 いったいどうすれば企業に内部留保を吐き出させ、経済のエンジンを回すことができるのか。

 財務省内でくすぶっているのは「内部留保課税」だ。剰余金として持っているとそれに課税されるとなれば、企業は他のものに使うだろう、という発想である。韓国が導入したほか、欧米先進国でも「資本金課税」などの形で似たような仕組みを導入しているところがある。

 もちろん、経済界は大反対である。そもそも剰余金は、利益に課税された後の残りなわけで、さらにそれに税金をかければ「二重課税」になる。利益をどう使うかという企業の自由度を奪うことにもなりかねない。

 ちなみに、法人税率を引き下げた結果、その税金分が内部留保に回っている、つまり、減税分を還元していないという主張は間違いだ。法人企業統計の付加価値構成の中には、「租税公課」という項目があるが、2016年度は11兆131億円に達している。前の年度に比べて4%増えているのだ。法人税率引き下げが始まる前、2012年度の8兆9523億円と比べれば2兆円以上増えている。税率が下がっても税収は増えているということなのだ。

 話を戻そう。内部留保を吐き出させる方法は他にもある。コーポレートガバナンスの強化だ。機関投資家はその企業に成長性があるかどうかを見極めて投資をする。あるいは長期投資している企業に対しては、経営方針が間違っていないかどうかを見極めて、議決権行使をする。

 今後、少子化が進む日本では、企業の成長を担う人材の確保が大きな課題になる。そのためには優秀な人材を採用し、つなぎとめておくだけの待遇や職場環境を保たねばならない。

 現在の企業情報の開示制度では、財務情報が中心だが、「働き方改革」が進む中で、どう従業員確保に取り組んでいくか、という方針を開示させることが大きな意味を持つだろう。例えば、労働分配率のメドを示させたり、報酬や将来の昇給に対する考え方や方針を明示させたりすれば、企業はより給与の引き上げに力を注ぐことになる。

 また、そうした会社を投資対象として「良い会社」だと機関投資家が判断するようになれば、企業経営者としては対応せざるをえなくなる。国家権力による「課税」という形で強制的に内部留保を減らすよりも、利益分配の方針を自ら開示させ、それを投資家や従業員などのステークホルダーが判断していく方が、資本主義社会の中ではより健全ではないだろうか。
増え続ける「内部留保」を放置し続ければ、批判が一段と高まり、強制的な課税などへと動いていくことになりかねない。

 

 

 

 

 

 

 


メディアとプロパガンダ

2019年10月23日 22時02分19秒 | 社会・文化・政治・経済
 

内容紹介

戦争を正当化する暗黙のシステム
産軍複合体を背景として政府に都合のよい国民的コンセンサスを捏造する――それが主流メディアの役割だ。
暗黙のうちに張り巡らされた「教化システム」を暴き、メディア・大企業・政府による専制支配を読み破る、
チョムスキーの真骨頂。現代社会への鋭利かつ根本的な分析と批判。


【目次】

新版への序文
著者序文
1. 何が主流メディアを主流にするのか
2. 「中東は嘘をつく」
3. 防御的攻撃
4. 日曜版――休ませてくれない一日
5. 民主主義という文化について
6. 第三世界、第一の脅威
7. 「民主主義への渇望」
8. 非暴力の使徒
9. UN(国連)イコールUS(我ら米国)
10. 追伸「モイニハンの木馬に乗る」
11. われらの「倫理目標意識」
12. 「われら人民」
13. 平和をもたらす
14. 責任の重荷
15. スターリニズムの死と生
16. 毒の除去
17. 「鬼畜のごとき行為」
18. 政治的に適正なる思想警察
19. 安らかに眠れ
20. おきまりの階級闘争

内容(「BOOK」データベースより)

産軍複合体を背景として政府に都合のよい国民的コンセンサスを捏造する―それが主流メディアの役割だ。

暗黙のうちに張り巡らされた「教化システム」を暴き、メディア・大企業・政府による専制支配を読み破る、チョムスキーの真骨頂。現代社会への鋭利かつ根本的な分析と批判。

著者について

[著者] ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)
1928年生まれ。マサチューセッツ工科大学教授。生成文法理論により言語学に革命をもたらす一方で、
アメリカ政府の政策やメディア・コントロールに対するラディカルな批判者として知られる。
著書に『メディア・コントロール』(集英社新書)、『お節介なアメリカ』(ちくま新書)、
『マニュファクチャリング・コンセント(トランスビュー)、『知識人の責任』(青弓社)、
『中東 虚構の平和』(講談社)、『9・11――アメリカに報復する資格はない』(文藝春秋)、
『テロの帝国アメリカ――海賊と帝王』(明石書店)、『生成文法の企て』、『統辞理論の諸相――方法論序説』(以上、岩波書店)ほか多数。

 

 
 
 
 

 

熱源

2019年10月23日 21時51分07秒 | 社会・文化・政治・経済

川越 宗一 (著)

生き延びることの意味とは

滅びゆく民と言われた樺太アイヌとロシアの政情に翻弄された人々の歴史冒険譚。

内容紹介

樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。
一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。

樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、
国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。
金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、
読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。

内容(「BOOK」データベースより)

故郷を奪われ、生き方を変えられた。それでもアイヌがアイヌとして生きているうちに、やりとげなければならないことがある。北海道のさらに北に浮かぶ島、樺太(サハリン)。人を拒むような極寒の地で、時代に翻弄されながら、それでも生きていくための「熱」を追い求める人々がいた。明治維新後、樺太のアイヌに何が起こっていたのか。見たことのない感情に心を揺り動かされる、圧巻の歴史小説。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

川越/宗一
1978年、大阪府生まれ。龍谷大学文学部史学科中退。2018年、「天地に燦たり」で第25回松本清張賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


日本とロシアの主権が交錯する時代のアイヌと東欧の民族問題。とにかくスケールが大きい。

(僕の無知を棚にあげて言うと)大隈、二葉亭、金田一に加えて南極探検隊までが登場する話が史実をもとにしているなんて、少し信じがたい位。

弱肉強食の摂理を受け入れるのか、抗うのか、生き続けるという別の答えを求めるのか、読者に突きつけたテーマも重たい。

キャラクター設定も入念で小説としてのレベルも高い。

必読。



「かわいい」のちから 実験で探るその心理

2019年10月23日 21時39分43秒 | 社会・文化・政治・経済


入戸野 宏 (著)

実は「かわいい」感情が癒しをもたらすことを直接示した研究はながなさそうだ。

内容紹介

日々の会話はもとより、メディアでもたびたび登場する「かわいい」という言葉。
日本のポップカルチャーの代表としても注目されているが、そもそも「かわいい」とはどんなものなのか。また「かわいい」ものは、私たちにどのような効果を及ぼすのか。
本書では、かわいい色や形、年齢や性別によるかわいいの感じ方の違い、かわいいものに近づきたくなる心理などに実験心理学という手法で迫り、「かわいい」の力を探る。
これまでになかった、科学的なかわいい論の登場。

出版社からのコメント

サブカルチャー、文化論とはひと味異なる、「科学的な」かわいい論の登場です。テーマはかわいいですが、決してゆるい内容ではありません。科学的なスタンスを明確に打ち出し「かわいいってなんだろう」を考えるので、データとしての裏付けをもった、とてもユニークなかわいい論となっています。普段何気なく耳にしたり口にしたりする「かわいい」の本質を垣間見たようで、目から鱗が落ちる場面が何度もありました。

著者について

入戸野宏(にっとの・ひろし)
1971年、横浜市生まれ。98年、大阪大学大学院人間科学研究科修了。博士(人間科学)。
広島大学総合科学部助手、広島大学大学院総合科学研究科准教授を経て、2016年より大阪大学大学院人間科学研究科・教授。専門は、実験心理学、認知心理生理学。認知・感情・動機づけといった心理学のテーマについて、身体的・生理的な反応も測定しながら多角的に研究している。
著書・訳書・編書に、『心理学のための事象関連電位ガイドブック』(北大路書房)、『メディア心理生理学』(北大路書房)、『シリーズ人間科学3:感じる』(大阪大学出版会)などがある。

かわいいものが好きなので、かわいい関連の本はつい読んでしまいます。

この手の本は文化的なカワイイ(少女漫画、ギャル、アニメ、キャラクターなどのポップカルチャー)の歴史やコレクションの総括になりがちですが、サイエンスとしての心理学で「かわいいとは何か?」「生物学的なルーツは?」「脳や心の反応は?」「カワイイと社会にどんな良いことがあるのか?」というのが丁寧に書かれていて驚きました。

本の見た目はポップですが、中身は実験心理学をわかりやすく伝える真面目な本でした。珍しいと思います。

心理学がこうしたふわっとしたテーマをどう扱うのか?に興味のある人にはもちろん、「カワイイと言われてもわからない」「カワイイは単に女性の口癖」と思っている人にこそグッとくるのではと思います。





虐待死 なぜ起きるのか,どう防ぐか

2019年10月23日 21時22分34秒 | 社会・文化・政治・経済

川川﨑 二三彦 (著)

虐待死の全体像を解説した書籍は本書が初めてといっていい。
本書の目的は虐待死の実態を明らかにし、それを防ぐ手立てを多くの方に実行してもらうことにある。
虐待死に至らずちも虐待を行う保護者の心情や家族背景(家族関係)と共通する部分も多い。
私たち大人は、有効な取り組みをしてきたのだろうか。
改めて考えさせられる本である。

内容紹介

2000年に児童虐待防止法が施行され、行政の虐待対応が本格化した。しかし、それ以降も、虐待で子どもの命が奪われる事件は後を絶たない。長年、児童相談所で虐待問題に取り組んできた著者が、多くの実例を検証し、様々な態様、発生の要因を考察。変容する家族や社会のあり様に着目し、問題の克服へ向けて具体的に提言する。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

川川﨑 二三彦
1951年岡山県生まれ。京都大学文学部哲学科卒業。以後32年間、児童相談所に勤務。心理判定員(児童心理司)を経て児童福祉司となる。2007年4月から子どもの虹情報研修センター(日本虐待・思春期問題情報研修センター)研究部長となり、2015年4月からセンター長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


児童相談所で長年働いてきた著者が、親が子を死に至らしめる「虐待死」の全体像、そしてどうすれば「虐待死」を防ぐ、あるいは減らせるのかについて考察しているのが本書である。
本書では様々な「虐待死」の実例が登場する。正直なところ、読んでいて辛い箇所もある。どうしてこんな酷い所業ができるのか。その理由の1つは、本書にもあるように、子どもを単なる自己の所有物としか考えていない親の考えの甘さだろう。
「虐待死」と一口に言っても、そこには様々な区分があり、まず大きく「心中」と「心中以外」に分けられるという。虐待について「心中」と言う言葉が出てくるのも意外な気がするが、子どもからすれば、親と共に強制的に死を選ばされるのだから、著者が言う「心中は虐待死の最たるもの」と言う主張も肯けるような気がする。
「心中以外」は、「身体的虐待」「ネグレクト」「嬰児殺」の3つに分けられる。それらの原因としては、養育力不足、親の精神疾患、家庭の貧困・若年の親など様々だが、単刀直入に言えば、それらの親が、子どもを育てられるような能力・資格が無い人間だったという事だ。この種の人間が余りにも多いので、個人的には親の免許制を導入してほしい。少子化がますます進みそうだが。
児童相談所がいかに頑張っても、結局虐待は家庭の中の他者から見え難い場所で行われるので、そのほとんどは防げない。それでも虐待死をなるべく防止する為にも、立入調査・臨検・捜索など、強力な措置を積極的に行うべきだと思う。他人の、親の善意に期待していたら虐待死など防げないのだから。

マスコミによるセンセーショナルな報道が過熱する虐待死ですが、全体を視野に入れて論じた本書は画期的です。そもそも、子どもの死亡登録、検証制度である「チャイルド・デス・レビュー」制度が未整備のため、虐待による死亡を全て捕捉しているわけではないのです。いつもながら後追いの法整備ですが、他とのバランスを考えるとやむを得ないのかも知れません。凄惨な事例に触れるため感情の揺れは避けられませんが、多くの命を救ってきたことも事実であることに注目したいです。最前線のソーシャルワーカーが疲弊しないためにはどうすればよいのか、簡単な問題ではありません。「正しさ」だけを追求することへの著者の警鐘を社会全体でしっかり受け止めていかねばと思いました。以下、内容理解のために目次を掲載します。
まえがき
序 章 社会を揺るがす子どもの虐待死
第1章 虐待死の検証
第2章 身体的虐待の行き着く先ー暴行死
第3章 養育放棄、放置の末にーネグレクト死
第4章 生まれた瞬間の悲劇ー嬰児殺
第5章 無防備の子どもが犠牲にー親子心中
第6章 虐待死を防ぐために
あとがき




危機を生きる言葉 2010年代現代詩クロニクル

2019年10月23日 21時02分11秒 | 野球

野村 喜和夫 (著)

詩人は決壊し、漂流しはじめている。

内容紹介

危機を生きる言葉?あるいは、言葉を生きる危機。言葉を使う、言葉とともに生きる、それが普通の人のステージなら、言葉を生きる、それが詩人のステージだ。 たとえ危機の時代にあろうとも。(「結語に代えて」) 現代詩のオデュッセイア 2011年~2018年の詩的時評「Chronicle」に、石原吉郎から小笠原鳥類までを論じた詩人論「Poets」を交差させた、2010年代詩のオデュッセイア。カタストロフィー以後の詩の岸辺を泳ぎ、未知へと開く海をわたる渾身の時評集。 装幀=中島浩

内容(「BOOK」データベースより)

2011年~2018年の詩的時評「Chronicle」に、石原吉郎から小笠原鳥類までを論じた詩人論「Poets」を交差させた、2010年代詩のオデュッセイア。カタストロフィー以後の詩の岸辺を泳ぎ、未知へと開く海をわたる渾身の時評集。

著者について

1951年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部日本文学科卒。戦後生まれ世代を代表する詩人のひとりとして、現代詩の先端を走りつづけるととともに、小説・批評・翻訳なども手がける。詩集に『川萎え』、『反復彷徨』、『特性のない陽のもとに』(歴程新鋭賞)、『風の配分』(高見順賞)、『ニューインスピレーション』(現代詩花椿賞)、『街の衣のいちまい下の虹は蛇だ』、『スペクタクル』、『ヌードな日』(藤村記念歴程賞)、『デジャヴュ街道』など。

選詩集に『現代詩文庫141巻 野村喜和夫詩集』などがある。小説に『骨なしオデュッセイア』、『まぜまぜ』、評論に『現代詩作マニュアル』、『萩原朔太郎』(鮎川信夫賞)、『証言と抒情―石原吉郎と私たち』、『哲学の骨、詩の肉』など。また英訳選詩集『Spectacle & Pigsty』で2012年 Best Translated Book Award in Poetry(USA)を受賞。



凶悪事件に発展するケースも…誰しも身近に起こりうる ご近所トラブルに潜む恐怖

2019年10月23日 20時36分32秒 | 社会・文化・政治・経済

 大阪府豊中市の住宅街で今月、女性(47)が金づちを持った男に自宅前で襲われた。女性は頭を複数回殴られ、意識不明の重体に。現場には血だまりができ、周囲は一時騒然となった。大阪府警は殺人未遂容疑で、女性宅の隣に住む無職の男(31)を現行犯逮捕。以前から女性は、男から因縁を付けられていたことを警察に相談していたという。誰しも身近に起こりうる近隣トラブルだが、凶悪事件に発展するケースも珍しくない。

【写真でみる】女性が襲われた現場

 ■現場に大量の血

 10月4日午前9時前、阪急豊中駅から東に約2キロの閑静な住宅街。いつもの平穏な朝が、女性の叫び声で一変した。

 「きゃー」。府警や近隣住民によると、叫び声を聞くなどして駆け付けた通行人らが「男が女性を金づちで殴っている」と110番。男は路上で執拗(しつよう)に女性の頭を殴打しており、通行人らが「やめろ」などと懸命に制止したが、現場には大量の血が流れ、近隣住民らが持ってきた大量のタオルで応急処置が行われた。通報を受けた警察官が到着すると、白いTシャツにジーンズ姿の男が立ち尽くしており、その場で現行犯逮捕。金づち(長さ33センチ)も押収された。

 女性は子供を幼稚園に送る準備をしていたところを襲われたとみられ、事件直前に2人が口論になっていたとの目撃情報もあるという。女性は頭蓋骨を骨折するなどし、意識不明の重体となった。

 ■「子供うるさい」

 隣人間に一体何があったのか。府警豊中署によると、男は「騒音のトラブルがあった」と供述。だが、複数の近隣住民は取材に対し、「女性宅の物音が気になったことはない」「子供の声が聞こえることはあるが夜も静かだった」と答えた。

 一方、捜査関係者によると、男は過去に、「子供の声がうるさい」などと女性の夫らに文句を言ったことがあった。男との近隣トラブルを、女性側が警察に相談したこともあったという。豊中署は相談内容や時期を明らかにしていないが、捜査関係者や近隣住民によると、ここ3年以内に騒音や敷地の境界線などをめぐってトラブルになっていたとみられる。

 ■類似ケース他にも

 近隣トラブルが凶悪事件に発展するケースは後を絶たない。

 警察庁によると、全国の警察に寄せられた近隣や職場などの身近な対人トラブルは年々増加しており、平成30年は25万2981件あった。

 21年には、川崎市のアパートに住む男が、隣人や大家ら3人を刺殺。男は「隣室のドアの開け閉めや洗濯機の音がうるさくて我慢できなかった」と供述していた。堺市東区では27年、80代の女性が隣人の男に自宅で殺害され、逮捕された男は「隣人に家をたたかれるなどし腹が立っていた」と話した。さらに、29年には松山市で男が60代の隣人男性を包丁で刺殺。逮捕された男は「騒音トラブルがあった」と説明した。

 「近隣トラブルの相談は非常に多くなっており、警察がどの案件が重大事件につながるかの見極めも非常に難しい」。近隣トラブルに詳しい八戸工業大の橋本典久名誉教授(音環境工学)はこう指摘する。

 近隣同士は物理的に簡単に離れられず、時間をかけて増長した恨みが凶悪事件につながることもあるといい、橋本名誉教授は「アメリカの一部の州では近隣トラブル解決に特化した専門機関があり、無料でサービスを受けられるところもある。近隣トラブルが増加傾向にある日本も、こうした機関が必要ではないか」と話している。

 



 

 

 

阪神・井上新コーチは鬼か天使か…開口一番「やらないヤツは放置」

2019年10月23日 19時58分39秒 | 野球

 阪神の選手たちにとって、新任の井上一樹1軍打撃コーチ(48)は天使か、それとも鬼か。

 22日午前10時、甲子園での秋季練習初日に現役時代と同じ背番号「99」のユニホーム姿で現れ、参加メンバーにあいさつ。「やりたいヤツは朝から晩までとことん付き合う。どんどん申し出てほしい。やらないヤツは放置するから」と言い放った。

 “外様”ながらいきなりラジオ、テレビの解説業で鍛えたトーク力を駆使してグイグイくるスタイルに、某選手は「気合の入り方が違うな、と。俺らの話はひとまず聞いてもらえそうなので、そこはありがたい」と歓迎。“つかみはOK”のようだ。

 この日は、初日からいきなり1人約200球のロングティーに取り組ませた。これには矢野燿大監督(50)が「モンスター(な練習量)やな~」と舌を巻いたほど。

 全体練習終盤には、井上コーチ自ら球団関係者に「ナインの動き、遅くないですか?」と相談。「練習開始を1時間、繰り上げた方がいいと思う」と提案し、早速2日目から午前10時スタートに変更された。

 別のナインは「今日は昼食抜きで3時間ぶっ通し練習だった分、1時間早いと昼食を挟めるので助かる。井上コーチからは『今日は単に打つんじゃなくて、低めに打とう。考えながら取り組んで』と。自分たちの引き出しも増えると思う」とうなずいた。

 前日に就任会見を開いたばかりの井上コーチ。練習後、慣れ親しんだドラゴンズブルーから黄色と黒の“タイガースカラー”に変わったことに、一定の違和感を認めつつ「練習中は自分で見る機会はなかなかないし…。慣れるまで待って!」と頭をかいた。

 また、選手には「オヤジ、兄貴の感覚できてもらって構わない」と優しさを見せつつ、「言うことは今日もはっきり言いました」。現役時代は星野、落合両政権下で厳しい練習をくぐり抜けてレギュラーを勝ち取っただけに“鬼軍曹”の顔ものぞかせる。矢野監督は「人間味あふれるというか、根気よく、親身になってくれるコーチだと思う」と評したが、2つの顔をどう使い分けて若虎を鼓舞するか。(山戸英州)

 




矢野監督「奪い取ればいい」大山に「4番奪取」指令

2019年10月23日 19時35分48秒 | 野球

阪神矢野燿大監督(50)が23日、大山悠輔内野手(24)に来季の「4番奪取」指令を出した。今季は開幕4番に座ったが不振のため8月中旬に打順降格。全143試合出場で打率2割5分8厘、14本塁打だった。

【写真】阪神大山(手前右)の打撃練習を見つめる矢野監督

チーム最多の108試合で4番に指名した指揮官は言う。「4番は今年に関しては経験させる感じになったけど(来年は)そういうわけにはいかない。奪い取ればいい、悠輔が」。マルテや獲得を狙う新外国人らライバルとの競争になる。

群を抜く怪力にうなったのは新任の井上打撃コーチだ。秋季練習2日目のこの日もロングティー打撃で柵越え連発。ほれぼれする弾道に「見てもパワーがずばぬけているじゃないですか。4番を打たせるのも分かる」と声を上ずらせた。今年は外部から大山を見ており「ずっと(4番を)守りきれなかったのを、お前が満足じゃなくて悔しさを持たなあかんよ。そのパワーなら体やバットを振りまくってではなく、もっと腕の使い方によって優しく。体の使い方をこの秋に覚えよう」と、本人に伝えた。

今季、43発でパ・リーグ本塁打王の西武山川らのように力みなく、軽く振っているようでも飛んでいくホームランバッターの打撃は究極の理想だろう。同コーチは「もっと優しく」という表現を用いて、続ける。「背番号3をつけて三塁守って。日本国民ならホットコーナーと誰しもが憧れる、長嶋さんみたい。自覚も持ってやれるかは本人次第」。華のあるサードへ。この秋は攻守ともに進化のヒントを探る。【酒井俊作】

 



 

 


弁護士が学校を支配する…? 「スクールロイヤー」の危うさ

2019年10月23日 16時08分45秒 | 社会・文化・政治・経済

神木隆之介主演のNHKドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(やけ弁)は、学校に常駐する弁護士(スクールロイヤー)が熱弁をふるって波風を立てる新形態の学園ドラマだった。

主人公の極端な言動には賛否が分かれる。それが制作者の狙いであろう。

このスクールロイヤーの本格導入に向けて、文部科学省は2018年度予算で調査研究費約5000万円を確保した。

しかし、弁護士が法律を使って一刀両断する手法は教育現場に相応しいのか。ドラマが投げかけた問題提起を重く受け止めるべきである。


弁護士
大前 治さん

「なんでも解決できる」という弁護士の傲慢

私は大阪で弁護士をしており、学校や教師から相談を受けることも数多くある。

「それは体罰であり違法です。謝罪と再発防止策が必要です」という助言が、教師の姿勢を方向転換させて解決につながったケースもある。

「その親のクレームに応じる義務はないですが、時間をかけて背景や真意を聴き取るべきです」という助言によって、教師が心理的な余裕をもって信頼関係を築けたケースもある。

このように、弁護士による助言が教育現場によい効果をもたらすことはあり得る。

しかし、弁護士が「法律をタテにして正論を吐けば何でも解決できる」と思うのは傲慢であろう。

司法試験の科目には教育学も教育法規も含まれていない。弁護士は教育については素人である。そのことへの自覚と謙虚さが必要である。教師やスクールカウンセラーの専門知識や経験に敬意を払い、学びながら協力しあう必要がある。

これは、そう簡単なことではない。

という思いとは裏腹に、大勢の弁護士を「スクールロイヤー」として学校教育に関与させる動きがある。本当に大丈夫だろうか。

どんな弁護士でもスクールロイヤーになれるのか

文部科学省は、2018年度に5000万円の予算を組んで全国10地域でスクールロイヤー制度の調査研究を実施する。前年度予算は300万円(2地域)だったのと比べて、予算額も規模も一挙に拡大した。

制度の概要は次のとおりである。ドラマ「やけ弁」とは違って学校には常駐しない。法律事務所で日常業務をこなしながら、学校から相談や依頼があれば応じる形態である。

法律の専門家である弁護士が、その専門知識・経験に基づき、①法的側面からのいじめの予防教育、②学校における法的相談への対応、③法令に基づく対応の実施状況の検証、をおこなう(文科省平成30年度概算要求書より)。
文部科学省 平成30年度概算要求説明資料より
弁護士は「法律の専門知識」を期待されている。しかし、教育学的知見の尊重や教師との連携が制度的に保障されていない点は問題である。

どんな弁護士でもよいのか、という問題もある。ドラマ「やけ弁」のスクールロイヤーは、法廷に立った経験のない新人弁護士であった。
難関大学に入学して司法試験にも合格できた弁護士は、成功体験に自信をもち、深刻な挫折を経験していないタイプも多い。

言語化できないストレスに苦しむ子どもや、学校に不満をもつ保護者の心情を理解できるだろうか。

そういえば、2011年6月にツイッターで「教育とは2万%、強制です」と発言した橋下徹・元大阪府知事も、2015年5月に教育委員(女性)への暴言の責任をとって辞職した中原徹・元大阪府教育長も、弁護士であった。
ともかく全国約4万人の弁護士は多種多様であり、考え方や人格のバラつきがある。

その中から誰をスクールロイヤーに選びだすのか。面接方法も採用基準も検討途上であるが、適切に人材を見極めることは極めて難しいはずである。

「弁護士の判断」が尊重されすぎる危険

弁護士から「これが法律的判断です」と言われたら、教師や保護者が反論をすることは難しくなる。

しかし、弁護士が学校で起きた出来事を正しく認識できるとは限らない。

事実を誤解した弁護士が「あの教師の行為は体罰には該当しません」とお墨付きを与えてしまい、生徒や保護者に泣き寝入りをさせてしまう危険性もある。
スクールロイヤーの言動に対して、是正と監督の手段がない点も重大である。

教師の問題行動に対しては、研修や懲戒処分による是正措置が存在する。もっとも重い免職処分を受ければ、教師は職を失ってしまう。

ところが、スクールロイヤーには本業の弁護士業務がある。スクールロイヤーを辞めても収入を失わない。だから、何も怖れることはなく、誰からも是正されずに辣腕を振るうことができる。

日常的に生徒と接することもなく、教育現場の実践と苦労を理解していない弁護士が「専門家」として招かれ、上から目線で「指導と助言」をする事態が目に浮かんでしまう。
弁護士が関わることで隠される事実

いじめ事案について、弁護士が関われば適切な対応ができるとは限らない。学校と生徒、どちらにとっての「適切な対応」を目指すかによって方向性や妥当性は変わってくる。
文部科学省が2017年3月に定めた「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」には、次のように書かれている。
「学校の設置者及び学校の基本的姿勢」より
自らの対応にたとえ不都合なことがあったとしても、全てを明らかにして自らの対応を真摯に見つめ直し、被害児童生徒・保護者に対して調査の結果について適切に説明を行うこと
このガイドラインが遵守されることを願いたい。

いじめを早期発見できなかった教師や、いじめられた生徒をさらに傷つける言動をとった教師の問題点なども、隠さずに説明されるべきである。

しかし、そこにスクールロイヤーが関わることによって生じる困難がある。それは、学校側から依頼を受けた弁護士という立場に由来する。

もし学校側と生徒・保護者側に信頼関係があるならば、弁護士が中立的な観点から事実経過の説明や解決案の提示をしやすい。しかし、厳しい対立状況にある場合は、弁護士が完全に中立公平な第三者でいることはできない。

なぜなら、保護者が学校を相手どって裁判を起こした場合、その弁護士は被告側の代理人として法廷に立ち、学校を守る立場に立たされる可能性がある。それを、裁判を起こされる前から予期しておかなければならない。

これは弁護士の職業的習性である。後で不利にならないよう言葉に注意しなさいと関係者に指示することも、守秘義務を遵守することも、スクールロイヤーの仕事になる。

民事裁判では、被害者側が「学校・教師による違法行為」を証明しない限り、学校側が法的責任を負うことはない。学校側が事実を証明する責任はない。

それどころか、勝つか負けるかの法廷闘争の場では、被害者側の証言を「事実と異なる。信用できない」と否定することも、弁護士の職務として正当化されうる。

実際に、これまでに弁護士が学校側の代理人をつとめた裁判で、「弁護士のおかげで事実が明らかにされた」といえる事例がどれだけあるだろうか。

むしろ、弁護士が事実を隠す側に立っている(ように見える)事案も散見されるのではないか。これは、依頼者を守る職責を負う弁護士にとって当然であっても、被害者側からみれば納得できない。

このように、生徒・保護者が学校と対立する場面において、スクールロイヤーが学校側を強く支えてしまい、事実の解明に否定的影響を与えることも危惧される。

もし学校での事件や事故について調査委員会が立ち上げられる場合には、スクールロイヤーの言動も調査対象となり検証されるべきである。

学校側の一員であるスクールロイヤーは、中立性が求められる調査委員会の構成員となるべきではない。
「いじめは犯罪だからダメ」と教えるべきか

文部科学省が掲げるスクールロイヤーの役割には、「いじめが刑事処罰の対象となることを教育する」ことも含まれている。

「いじめは犯罪だからダメです」と教えるのは、電車内で走り回る子どもに「怒られるからやめなさい」と言うのと同じである。なぜダメなのかという実質的な理由を教えていない。
大切なのは、処罰されるぞと威嚇することではない。いじめが人の心身をどう傷つけるのか、なぜ一人ひとりが大切にされるべきかを教えるべきである。

それに、いじめ行為には暴行罪や脅迫罪などの犯罪に該当しない行為もある。

「みんなで無視をする」とか「机の上に花瓶を置く」などの嫌がらせは、刑事処罰の対象には該当しない。

「法に触れる犯罪だからダメ」と教えることは、法に触れなければ許容されるかのようであり適切ではない。

教育の力が試されている

文部科学省は、犯罪に該当するいじめ行為を早期に警察に通報する方針を掲げている。

2013年5月の通達は、「冷やかし、からかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言う」という行為は警察へ通報するべき脅迫罪や名誉棄損罪に該当すると例示している。

すると、冷やかし行為があった場合、スクールロイヤーは「警察へ通報するべき」と判断するべきことになる。しかし、これは教育的な解決とは程遠い。教師が生徒に向き合って積み重ねてきたことが、警察への通報によって崩れてしまう。

教師や学校への正当な不満が背景にあって、問題行動が生じていることもある。問題行動の原因を除去する努力が積み重ねられていたかも知れない。そうした事情を切り捨て、ただ生徒一人を悪者にして警察へ通報することは教育の場に相応しくない。

警察に通報されると、生徒は被疑者として扱われ、犯罪捜査として取り調べがおこなわれる。刑事政策的に処遇を決定する裁判手続が進むと、学校側が生徒に対して教育的に接する機会は失われてしまう。

そんな扱いを受けた生徒にとって、学校は再び戻って来れる場所、戻りたい場所になるだろうか。

このように、スクールロイヤーによって教育的配慮のない法律判断が下される危険性は否定できない。

本稿に対しては、実際にスクールロイヤーとして真摯に奮闘している弁護士の苦労を理解していないという批判があるかも知れない。

しかし、少数かつ先進的な弁護士が関与している現状と、大勢の弁護士が関与して全国的に推進される将来状況とでは、危惧される問題とその規模は異なる。

多数の非専門家が教育に関わることによって児童生徒に否定的影響が与えられる事態は避けるべきである。

スクールロイヤー制度に対しては、教育界からも法曹界からも賛否が積極的に議論されるべきである。今後の議論に期待したい。


弁護士 大前 治

1970年京都市生まれ。大阪大学法学部卒業。鉄道会社勤務を経て2002年に弁護士登録(大阪弁護士会)。自衛隊イラク派遣違憲訴訟、大阪市思想調査アンケート国賠訴訟の弁護団に参加。2015年6月より日本弁護士連合会立法対策センター事務局次長、2016年6月より青年法律家協会大阪支部議長。

大阪空襲訴訟では戦時中の国策を解明。取材調査や国立公文書館での資料収集を行う。著書に『検証 防空法』(共著)、 『大阪空襲訴訟は何を残したのか』(共著)、『逃げるな、火を消せ――戦時下 トンデモ 防空法』など。


スクールロイヤーを全国に300人配置 文科省が方針

2019年10月23日 15時55分29秒 | 社会・文化・政治・経済

2019年9月24日 教育新聞

文科省は来年度から、スクールロイヤーを各都道府県の教育事務所や政令市など、全国に約300人配置できるようにする方針を決めた。9月24日の閣議後会見で、萩生田光一文科相が明らかにした。

財源には地方交付税による地方財政措置を充てられるよう、総務省に要求している。

萩生田文科相は「今までも各自治体には顧問弁護士がいて、何かあったときには教育委員会も法的相談をしていたが、多様な教育の問題が出てきている。教育に専門的な知識を持った弁護士があらかじめ登録をしておけば、相談しやすくなるし、的確なアドバイスを受けられる」と述べ、活用に前向きな姿勢を示した。

スクールロイヤーの導入を巡っては、先行して導入した大阪府などで一定の実績が上がっているほか、同省で活用に向けた調査研究事業を進めている。

今年1月に千葉県野田市で起きた小学生の虐待死事件を受けて設置された、同省のタスクフォースが策定した学校・教育委員会向けの「虐待対応の手引き」でも、保護者とのトラブルを学校が抱えたときに法的な相談に乗れるよう、弁護士との相談体制の整備がうたわれている。

 


教員の働き方改革はどうなる?長時間労働の実態と問題点を解説

2019年10月23日 15時51分44秒 | 社会・文化・政治・経済

2019年6月7日 副業ビギナー

長時間労働に罰則付き上限規制が設けられた「働き方改革関連法」の施行を間近に控え、働き方改革がいよいよ本格化します。猶予期間のあるなしにかかわらず、ほとんどすべての民間企業が働き方改革に対応しなければならないのに対し、法改正の適用があいまいなままにされている職種も存在します。公立校の教員などは、そのひとつとして挙げられるでしょう。
それでは、一般的に過重労働のイメージがない教員は、是正が必要なほどの長時間労働はしていないのでしょうか?もし、長時間労働の実態があるなら、その対策はどうなっているのでしょうか?意外に知られていない教員の働き方の実態とともに、教員の働き方改革の概要、問題点などを解説していきます。

働き方改革とは
公立校教員は働き方改革の対象外?
教員の働き方の実態とは?
繰り返される教員の過労死
なぜ教員は長時間労働なのか?
日本の教員はマルチタスク過ぎる?
熱心な教員ほど長時間労働に
教員の過重労働が表面化しにくい理由
教員に対する世間的な認識
給特法の存在
2014年6月のOECD調査結果の意味
教員の働き方改革とは?
学校における働き方改革に係る緊急提言
「学校における働き方改革に関する緊急対策」の公表と通知
中央教育審議会答申
教員の働き方改革は実現するのか?
教員の働き方改革実現に向けた提言
勤務の実態を客観的に把握する
首長の働き方改革への理解を求める
まとめ
働き方改革とは
働き方改革とは、社会問題化している長時間労働の是正や、非正規雇用の処遇格差などの課題を解決し、一億総活躍社会を実現することで労働生産性を向上させていこうとする、政府主導による取り組みです。
この取り組みを実現させるべく、働き方改革実現会議が設置されて以来、さまざまな議論が重ねられ、2017年3月28日に決定されたのが「働き方改革実行計画」です。この計画では、賃金などの処遇改善、時間・場所などの労働制約克服、キャリアの構築を3つの課題として挙げ、さらに9つのテーマに分類して改革への方針と計画が決定されています。
働き方改革実行計画で掲げられた計画は2018年に成立し、長時間労働に罰則付き上限規制が設けられた改正労働基準法とともに、2019年4月1日から「働き方改革関連法」として施行されます。
それでは、地方公務員である公立校の教員は、改正労働基準法を含む働き方改革関連法の適用対象となるのでしょうか?
労働基準法は、労働組合法、労働関係調整法とともに「労働三法」といわれる労働法の一部です。このうち、労働組合法・労働関係調整法は地方公務員には適用されません。また、労働基準法についても、適用されるのは一部の一般職に限られ、適用される場合も制限が設けられています。
公立校の教員は正規であれば一般職の地方公務員ですが、労使の合意が必要な労働基準法の36協定は適用されません。つまり、時間外労働に罰則付き上限規制が設けられた改正労働基準法は、教員には適用されないのです。
法律による長時間労働の上限規制がなかったとしても、一般的なイメージどおり、公立校の教員に過重労働の実態さえなければ、それはそれで問題ないのかもしれません。では、実際に公立校の教員は長時間労働をしていないのか?教員の働き方の実態がどうなっているのか、紹介してみましょう。
まず、過労死の労災認定基準として知られる「過労死ライン」は、発症前の1か月間に100時間以上、もしくは2〜6か月間に毎月80時間以上の時間外労働があった場合、とされています。
しかし、教員の勤務実態調査の多くは、1週間の「勤務時間」を対象にしているため、1か月間の「時間外労働」を明らかにするのは、それほど容易ではありません。そこで、これを踏まえたうえで「1週間の勤務時間」から「1週間の法定労働時間」を差し引き、それに4週間を掛けて1か月の時間外労働を割り出した調査がありました。
その結果は、小学校教員の72.9%が月80時間以上、55.1%が月100時間以上も時間外労働しており、中学校教員ではそれぞれ86.9%、79.8%にもおよんでいます。教員の声を拾ってみると、20・30代の9割が「時間内に仕事を処理し切れない」と答えており「ひどく疲れたことがあった」が9割「イライラしていることがあった」が8割に達するなど、民間企業では考えられない、教員の長時間労働の実態があることがわかります。
繰り返される教員の過労死

これだけの長時間労働が横行していれば、当然のことながら、過労死や心身疾患に陥る教員も少なくないはずです。事実、2016年度までの10年間で、63人もの教員が過労死で命を落としています。しかも、この数は労災に認定されたものだけであり、因果関係が明らかにされなかったものを含めれば、相当数の教員が長時間労働によってなんらかの健康障害を来していると考えられます。
2016年夏には、富山県の中学校男性教諭が、2017年6月には、大分県の中学校男性教諭が過労死で亡くなっており、それぞれ直前の1か月間の時間外労働が120時間、175時間だったといわれています。つまり、現在でも長時間労働を要因とした教員の過労死は繰り返し起こっているといえるのです。
なぜ教員は長時間労働なのか?


それでは、なぜ教員はこれほどまでの長時間労働を続けているのでしょうか?当事者ではない私たちには容易に想像できるものではありませんし、小学校、中学校などでも事情は異なりますが、大まかにその理由を解説してみましょう。
日本の教員はマルチタスク過ぎる?

実際の授業時間が教員の勤務時間の多くを占めているのは間違いありません。しかし、そのほかにも授業準備、採点などの成績処理、学習指導、学校行事、学級運営があるのに加え、教員の研修や保護者対応も行い、さらに、ほとんどの教員が学校の部活動の顧問を兼務しています。
登下校時の見回り、学校徴収金の管理、休み時間時の対応や校内清掃などにも教員がかかわり、問題のある生徒への対応で家庭訪問したり、行政との調整を行う場合も少なくありません。
日本のように、教員がこれほどのタスクをマルチに担っている国はほかにありません。これでは「時間内に仕事を処理し切れない」という声がほとんどなのも理解できます。なにしろ、教員が授業に費やしている時間は、勤務時間全体の3割程度でしかないのですから。
熱心な教員ほど長時間労働に

なかでも、長時間労働の大きな要因になるのが「部活動」です。放課後の練習などは当然のことながら、土日には練習試合などがあり、春休み・夏休みなどは大きな大会が続くため、休日もほとんど休めないという教員が多いのが実態です。
生徒達の熱意に応えたいという意識も働くのでしょう、朝練などにも欠かさず参加する教員も多いようです。先にも紹介した調査では「現在の仕事に働きがいを感じている」と答えた教員が9割にもおよんでおり、熱心な教員ほど「生徒のことを考えて」長時間労働になる傾向もあるようです。
教員の過重労働が表面化しにくい理由


しかし、こうした教員の長時間労働の実態は、広く世間に知られているとはいえないのではないでしょうか?実際、長時間労働の多い職種として教員が挙げられるケースは少ないといえるでしょう。なぜ、教員の長時間労働はこれまで表面化してこなかったのでしょうか?
教員に対する世間的な認識

まずひとつには、土日祝が休日であること(土曜授業を再開した地区もあり)夏・冬・春などの長期間の休日が学校に設けられていることで、教員は休日が多いと世間が思い込んでいることが挙げられるでしょう。もちろん生徒が休みでも、教員が休日を完全に休めるとは限らないのはすでに解説したとおりです。
これに加え、地方公務員でもある公立校の教員は、収入の安定した仕事であり、時間外労働をすれば、それなりの見返りとして残業代も出ているだろう、という思い込みもあるかもしれません。つまり、世間は教員があり得ないほどの長時間労働をしているとは「思ってもいない」のだといえるでしょう。
給特法の存在

もうひとつ、教員の過重労働が表面化しない、もっとも大きな理由としては「給特法」の存在が挙げられます。1971年に制定された法律である給特法は、正式に「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」といいます。
この給特法は、教員の月間平均残業が8時間だった、半世紀前の事情を反映させたものであり、ほかの公務員には適用されない特殊な法律です。具体的には、教員の部活動や採点などの成績処理、事務処理等の時間外勤務は教師の自発的なものだ、校長等による命令ではないと定義された内容になっています。しかし、いくらかの時間外労働は致し方なく発生するものだから、給与の一律4%を調整給として支給するという内容も加えられています。
つまり、いくら残業して業務に取り組んでも「教員が残業したことにならない」のに加え、いくら残業しても「給与の一律4%しか調整給はもらえない」という法律です。記録として時間外労働が認められていなければ、表面化するはずもないでしょう。
2014年6月のOECD調査結果の意味

表面化することのなかった教員の長時間労働に、あらためて注目が集まったのは、2014年6月にOECD(経済協力開発機構)が公表した「国際教員指導環境調査」がキッカケでした。この調査では、教員の勤務時間が参加国の平均で1週間38.3時間であったところ、日本は53.9時間で参加36か国中の最長時間を記録してしまったのです。
さらに驚くべきことに、国が投入する教育費のGDP比は、参加国中の最下位を記録してしまったのです。日本は、教育費を出し渋っている負担を教員に負わせているようなものだ、という実態が明らかになってしまったといえるでしょう。
教員の働き方改革とは?
2016年9月には、働き方改革の実現に向けた「働き方改革実現会議」が設置されたのを受け、教員の働き方改革に国も動き出さざるを得ませんでした。2017年4月、中央教育審議会に「学校における働き方改革特別部会」が設置され、7月の第1回部会を皮切りに、教員の働き方改革を推進する議論が交わされるようになったのです。
学校における働き方改革に係る緊急提言

特別部会による議論では、教員の長時間労働の実態は看過できず、今すぐに対策を講じるべきとの意見で一致、国家予算の獲得を念頭に、国や自治体に働きかけるべく、2017年8月には「学校における働き方改革に係る緊急提言」が出されました。要点は以下の3点です。
・校長および教育委員会は、学校において勤務時間を意識した働き方を進めること
・すべての教育関係者が、学校・教職員の業務改善の取り組みを強く推進していくこと
・国として、持続可能な勤務環境整備のための支援を充実させること
「学校における働き方改革に関する緊急対策」の公表と通知

続けて議論を重ねた2017年12月に、中央教育審議会から中間まとめが公表されたのを受け、文部科学省が「学校における働き方改革に関する緊急対策」を公表、翌2018年2月に「学校における働き方改革に関する緊急対策の策定並びに学校における業務改善および勤務時間管理等の取組の徹底について」が通知されました。
この通知では、広範に渡る教員の業務を整理し、業務改善による長時間労働是正への指針が示されているといえるでしょう。
たとえば、学校以外が担うべき業務として「登下校に関する対応」「放課後から夜間の見回り、生徒児童の補導時の対応」「学校徴収金の徴収・管理」などが挙げられており、学校の業務ではあっても教員が必ずしも行う必要のない業務として「休み時間の対応」「校内清掃」「部活動」などが挙げられています。
中央教育審議会答申

2018年12月6日には、中央教育審議会から教員の長時間労働などの解消策向けた答申案が提出され、2019年1月25日、正式に答申として取りまとめられ、ガイドラインが示されるようになりました。具体的には、以下のような内容がガイドラインに盛り込まれています。
・時間外勤務を「月45時間、年360時間」を上限とする
・自発的とされていた時間外の授業準備や部活動等の業務を「勤務時間」とする
・年単位で勤務時間を調整し、休日のまとめ取りする「変形時間労働制」の導入を認める
・教員・学校・地域がかかわる業務を整理して、担うべき仕事を明確にする
時間外勤務に上限が設定とされたこと、自発的な時間外の業務を勤務時間としたことなど、国がガイドラインとして提示したのは大きな前進だといえるでしょう。
一方、給特法でも問題になっている4%の調整給の改善ですが、こちらは財源が確保できないという理由で改正などが見送られてしまいました。なにしろ、日本国内の教員すべてに残業代をまともに支払ったら、年間9,000億円必要だといわれていますから。
それでは、中央教育審議会から明確なガイドラインが出されたことで、教員の働き方改革は実現するのでしょうか?現実的に、毎月のように時間外労働が60〜80時間前後発生している教育現場の実態を考えると、月平均30時間の時間外労働に収めるのは、容易ではないといわざるを得ないでしょう。しかも、民間とは異なり、ガイドラインでは罰則も設けられていないのです。
夏休みなどを利用して休日のまとめ取りをする変形時間労働制も、部活動のある教員には難しく、学期中に業務が集中すると、子育てや介護を抱える教員が困るという意見もあります。教員の担当する授業のコマ数を減らして分業を進めるなど、抜本的な対策が望まれますが、現時点では圧倒的に予算が足りないのが実情です。
教員の働き方改革実現に向けた提言


しかし、教員の長時間労働を是正していくには、できることからでも手をつけないければなりません。最後に、学校マネジメントコンサルタントである妹尾氏が提言する、教員の業務軽減に向けた最初のステップのうち、いくつか紹介しておきましょう。
勤務の実態を客観的に把握する

教員の出退勤に関して、タイムカードやICカードなどの客観的な方法で記録している学校は全体の3割以下です。つまり、時間外の業務は自発的なものであったため、報告や点呼・目視で出退勤を確認しているのです。これでは、現場の働き方の実態を把握するのは不可能です。
教員がどのような働き方をしているのは把握するためにも、まずは勤怠管理の基本でもある、出退勤を記録する客観的な方法を導入すべきだとしています。
首長の働き方改革への理解を求める

マルチタスクで業務をこなさなければならない、日本の教員の負担を減らすには、タスクの数を減らすのがもっとも効果的です。教員業務を分担できるように教員数を増やせないのであれば、ガイドラインでも示されている業務仕訳をもとに、関係各所に協力を求めていくのが有効です。
部活動の指導員、見回りや徴収金の管理を任せられるサポートスタッフ、生徒児童の補導時に対応する警察やカウンセラーなど、地域ボランティアを含めた各所の協力が得られるように、校長や教育委員会がリーダーシップを発揮し、地方自治体の首長への働きかけと理解を求めていくべきだとしています。
まとめ


地方公務員である公立校教員の働き方改革は、労働基準法に準じた民間のものとも、一般公務員のものとも異なる、独自のガイドラインに沿って進められていくものです。その実現に向けてはさまざまなハードルがあり、一筋縄ではいかない事情があることがおわかりいただけたのではないでしょうか?
教員の働き方改革への提言やガイドラインが提示されたことで、現場では時間外労働を控えるようにという指導もされているようです。しかし、結局は自宅で業務を続けるという実態があり、時間外労働自体が解決されたわけではありません。教育への予算増加など、ドラスティックな改革が望まれています。


年間5000人の教員が心の病で休職。その裏に改革できない“働き方”

2019年10月23日 15時33分43秒 | 社会・文化・政治・経済

FNSドキュメンタリー大賞2019

福井テレビ 2019年8月16日

かつて「聖職」と呼ばれ、地域の文化人、教養人として一目置かれる存在だった教員。しかし、社会の変化に伴い、いつの間にか地域での教員の地位は低下した一方で、過労死や自殺する教員が増えた。

文科省によると過労死ラインを越えて働く中学校教員は約6割。心の病を患い休職している教員は全国で5000人を超えている。

働き方改革が叫ばれるなか、半世紀前の『給特法』という法律がもたらした教員達の悲鳴が、全国の現場から上がっている。
教員の残業を管理しない学校
「もう来月が命日なので、13回忌になりますね」

5月、東京・町田市の工藤祥子さんはそう私達に語りかけた。
神奈川県の公立中学校の教員だった夫の工藤義男さんは、2007年6月、享年40歳で亡くなった。

大切に部屋に飾っている写真は、「生徒さんが『これ一番工藤先生らしい』って言って、運動会の時の写真をわざわざ持ってきてくれたんです」と祥子さんは懐かしむように話す。

高校では柔道、大学ではアメフトに打ち込み、体力には人一倍自信があったという義男さん。亡くなる2ヶ月前、異動したばかりの学校で、“校務分掌”という学校内のさまざまな業務分担が割り振られた。


生徒指導専任を受け持ちながら、2クラスの副担任、保健体育と道徳を教え、校務分掌として学年連絡会、企画会議、特別委員会、体育祭委員会、不登校・支援委員会(委員長)、部活動委員会、予算委員会、組織委員会、安全委員会など、17の業務を割り振られていた。

他にやる人がおらず、人手もない。

そんな理由から異常とも思える業務量を任された義男さんは、「最後の亡くなる前の修学旅行は、『どうしても行きたくない』と。『とにかく体が持たない』っていう風に言ったので、私もすごく驚きましたし…」と、自身の天職と考えていた教員の仕事を休むことを妻に相談していたという。

2泊3日の修学旅行から帰宅した6日後、義男さんは病院の待合室で倒れ、そのまま意識が戻ることは無かった。

直接の死因は、くも膜下出血。
祥子さんはすぐさま公務災害の申請を行ったが、当初は超過勤務の証明ができずに却下。過労死を認められるまでには4年10ヶ月もの歳月がかかった。

超過勤務の証明が難しかった理由ーーそれは学校が教員の勤務時間を管理していなかったということだった。

なぜ労働時間を管理していなかったのか。
それは『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)』という法律があるからだ。
この法律は、教員の職務の特殊性という理由で、毎月手当として基本給の4%を払う代わりに、時間外手当は支給しないというものだ。


残業170時間。選んでしまった自殺


福井県若狭町に住む嶋田富士男さん。
中学校の教員だった息子を、4年前に亡くした。

息子が住んでいた部屋を未だに触れず、当時と同じ状況になっていると嘆く。

息子の嶋田友生さんは、当時27歳。
教員を夢見て何度も採用試験に挑戦し、憧れの先生になったばかりだった。

1年目から1年生の担任と、野球部の副顧問を任され、父・富士男さんは「もう最初の頃は、もう学校には6時半ぐらいには着いていたみたいで、夜も日付変わって帰ってくることとかありましたね」と当時を振り返る。

友生さんは日記を残していた。教員を初めてすぐの5月13日。
今欲しいものと問われれば睡眠時間とはっきり言える。寝るのも不安だし、でも体は睡眠を求めて、どちらへ進むも地獄だ。

それから4ヶ月後、9月29日で日記は途絶えてしまい、その1週間後、友生さんは自ら命を絶ってしまった。

友生さんが学校で使っていたパソコンを調べたところ、自殺する前の月の時間外労働が、およそ170時間だったことが分かったのだ。

日記の背表紙に書かれた走り書きを見つけた富士男さんは、胸が締め付けられる思いだったという。

疲れました
迷惑かけてしまいすみません

富士男さんは、長時間労働などによる精神疾患が息子の自殺の原因だと、福井県と若狭町に対し損害賠償を求める訴訟を起こしている。

(その後、福井地裁は校長に安全配慮義務違反があったとして、県と町に対し約6500万円の支払いを命じた。福井県と若狭町は控訴せず、賠償判決を受け入れた)
文部科学省の統計では、精神疾患で休職中の教員が、2000年に入り急増。
2007年から毎年5000人前後の教員が精神疾患を理由に休職している。

福井市内の病院で、多くの教員を見てきたという松原六郎院長に聞くと、「学校の先生方がお見えになることは、かなり前から多くありますね。必ず1日に1人か2人は拝見してます。一番診断面として多いのはうつ病だと思います」と、実態を語る。


取材を進める中で出会った男性も、心の病で退職した元教員だった。

「他の先生方の信頼を得るために、がむしゃらにやってたら…。それで理科の実験をやりたいと思って、無理したりとかして、そしたら1か月で倒れてしまって…」

どこからが残業で、どこからが自分の生活だったのか分からなかったという。

「とどめは、その学校の中でも一番荒れている子がいたんですけど、その子から暴力を受けたことですね。残業だったり、人間関係だったり色々あったんですけど、最後のとどめはそれでしたね。自分の器も小さいですが…」

前述の松原院長はこうした考え方にも、警鐘を鳴らす。

「お見えになる先生方はもう、10人いたら10人とも、ご自分が悪いんだって。自分の力が足りないっていうふうにおっしゃるんですね」

なぜ自らを追い込んでしまうのか…。

学校での忙しすぎる日々

後編では、教職員の働き方の現状を追った。
社会科を教える、2年1組の担任澤村仁先生の1日を追った。

まず、生徒が登校する時間になると、校舎の入り口で迎える。
8時10分、職員朝礼。
本来であれば、定時であるこの時間までに出勤すれば良いという。

1限目、澤村先生は職員室にいた。
全学年の社会科を受け持ち、他に生徒会・特別活動部長などを担当し、運動部の顧問もしている。

「今日はこの時間しか空きがないので、たまたま職員室にいます。やることがいっぱいあって…、宿題を作ったりとか。あと今日生徒会でも話し合いをするんで、それの資料を作ったりですね。今日は2限目から6限目までは授業がずっとあるので、職員室に戻ってくるのは、この時間しかないかと思います」

2限目は、2年1組で歴史。
3限目は、3年2組で公民。
授業の間の10分間の休み時間に入っても生徒達に囲まれ、質問を受けたり、会話をしたり、息つく暇もない。
4限目は2年3組で歴史と、授業が続き、そのまま給食に。
給食では担任するクラスに戻り、この時間を利用して生徒達が毎日提出する連絡帳をチェックしていく。
掃除の時間も生徒達のそばについて指導。
ここまで休憩らしい休憩を取ってる様子はない。

この日の放課後は、受け持ちの生徒会活動があった。
4時40分までが定められた就業時間だが、「次は部活に…」と笑いながら走る澤村先生は、部活にも毎日顔を出している。

多くの教員が共通して抱える業務のほとんどが、普通の公務員なら時間外労働にあたるものだ。

澤村先生を1週間追ったところ、超過勤務の時間は26時間に登った。
これは1ヶ月100時間を超えるペースだ。

給特法を知っているか聞いてみると、「知らなかったです。朝来て、生徒がいる6時半まで働くと、その時点で、やっぱり残業にはなると思いますが、それが当たり前になってしまっているので…。正直そこを考えたことがなかったです」と、業務に追われてしまっている日々だという。


2年3組の担任、坂居澄美先生。
足羽中学校の全クラスの美術の授業を1人で受け持ち、他にも修学旅行などの総合学習や学活、教育相談など様々な業務を担当。

坂居先生は会社員の夫との間に、高校生と中学生二人の子どもがいる。その子ども達がまだ幼い頃、何度も教員を辞めることを考えたと明かした。

「どうしても帰れない時とかがあって、そういう時は家帰ると、ご飯も食べずお風呂も入らず床で子ども達が転がってるんです。それを見たとき涙が出そうになって」


教員の働き方改革はどうなるかー


今年1月、中央教育審議会が教員の働き方改革について、文部科学省に答申した。
示されたのは、学校の業務をスリム化して、月の時間外労働を45時間以内に抑えるというもの。

例えば、登下校の対応は学校以外が担う業務、校内清掃や部活動は必ずしも教員が担う必要がない業務に分類された。
しかしこの業務を誰がやるのか、また何かあった際の責任はどこがとるのか、課題は多くある。

国はこの答申に従い、学校現場に対し実施するよう求めた。

足羽中学校の森上愛一郎校長は職員会議で、「中央教育審議会の働き方改革部会で、学校の業務を分類しました。分類だけして、あと知らんという感じですね。『学校現場とかけ離れている。乖離している。現場のことをわかっていない』というのが率直な感想であります」と、本音をのぞかせていた。


働き方改革関連法が施行された今年4月、生徒が春休みの間も、教員達は新学期の準備や、部活などの指導で忙しく、毎日出勤。教員の休みをどう増やすばいいのか、森上校長は頭を悩ませていた。

「もううちとしては部活の休みを増やすことぐらいかなと、思ってるんだけど、でもどこの中学校の校長も悩んでると思うわこれ」

新年度を迎え、育休明けで小学校から赴任してきた中村美和先生。
中村先生は3歳と1歳の母親だ。
全クラスの家庭科を教え、3年2組の担任も受け持つ事になった。

「ちょっと子どもが小さいので、できたら担任外していただきたいとお願いはしたんですけど、どうしてもやってもらわないと学校が回らないと言われまして。やっぱり勤務時間内にパッと終わる仕事ではないので、やっぱり子どもが小さいと保育園の送り迎えの時間もありますし、周りの方の協力…」

中村先生が、保育園に子どもを迎えに行くのは5時半。会議が長引き、早速1時間以上オーバーで、全速力で保育園へと向かっていった。


足羽中学校の4月の残業時間の集計を見てみると、半数が月80時間を超えている。
中には100時間を越す教員もいた。

森上校長は、「個人的には教員の長時間労働の解消の方策っていうのは、2つしかないと思ってます。1つは教員の数を増やすこと。もう1つは学校の業務を減らすこと。やはりここに手をつけずして、働き方改革は進まない。その辺りが実感として進まない大きな理由かなと思います」と苦悩の色を濃くした。

教員の働き方について研究する連合総研の藤川伸治氏は、学校の先生の数が足りないと指摘する。

「当事者である子ども達、保護者にとってみると、先生がいないわけですよ。給特法を変えるという事は、1人当たりの労働時間の上限を決めるって事ですね。そして上限を超えたら、新たな人件費が生まれるということです。するとその新たな人件費を使って人を増やすという方向に、政策は変わってくると思うんですね。給特法を変えるというのは人を増やすためですからね」


文科省は、給特法について、「勤務実態調査を3年後にやるという提言もあるので、その数字をしっかりと見ながら、また世の中も今、働き方改革で変わっているので、そうした動きも踏まえ、この給特法の議論はしっかりと引き続き考えていきたい」と議論していくことを考えていくとしている。

教員の夫を過労死で亡くした工藤祥子さんは、今動かなくては間に合わないと強調した。

「先生が現場で死んでしまう姿を、子ども達に見せるというのは、最悪の教育だと思います。子ども達のためにも、先生の為にも、絶対あってはいけないことだと思います。今動き出さないと、10年後はどうなるかと考えると、もう今じゃないと間に合わないかなという風に思っています」

この国の教育はどうなっていくのだろうか。

働き方改革元年の今、未来を担う子ども達を育てる教員の働き方も、待ったなしで考えなければならない。

(前編:「教員の残業代は一律4%」 増え続ける仕事と、変わらない給料のワケ)


セブン、1千店を閉鎖・移転 西武・そごうも大規模閉鎖

2019年10月23日 15時31分34秒 | 社会・文化・政治・経済

神沢和敬 2019年10月10日朝日新聞

小売り大手のセブン&アイ・ホールディングス(HD)は10日、傘下のコンビニ最大手セブン―イレブンの不採算店約1千店の閉鎖・移転などを柱とするグループの構造改革策を発表した。不振が続く総合スーパーのイトーヨーカ堂や百貨店のそごう・西武でも大規模な店舗閉鎖を進め、グループで計約3千人の削減に乗り出す。百貨店やスーパーに続いて、成長を続けてきた主力のコンビニにもリストラの波が押し寄せ、日本の小売業は大きな曲がり角を迎えた。
セブン、店舗閉鎖でしのげるか 異次元と闘う小売業
「セブン、年700店の閉鎖を予定」 会見の一問一答
 構造改革策には、人手不足を背景に24時間営業のビジネスモデルがきしみ始めているコンビニのフランチャイズ(FC)店に対する支援も盛り込んだ。FC契約を結ぶ加盟店が本部に支払う加盟店料を来年3月から減額し、加盟店の収益改善を図る。この見直しにより、加盟店1店あたりの利益が年平均で50万円改善する一方、本部の利益は約100億円減るとしている。店舗運営に苦しみ、本部との対立が顕在化している加盟店の不満を和らげるため一定の譲歩に踏み切る。
 セブン&アイHDの井阪隆一社長は記者会見で「加盟店が安心して経営に専念できる体制づくりが優先順位の一番だ。オーナーのモチベーションが中長期的な成長の力になる」と述べた。
 セブンの不採算店の閉鎖や移転…


急拡大するデジタル市場 巨大ITの影響懸念

2019年10月23日 15時18分10秒 | 社会・文化・政治・経済

巨大IT規制、GAFAへの影響は? 成長鈍る懸念も

2019/4/24 日本経済新聞
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巨大IT(情報技術)企業はインターネット通販サイトやアプリストアなどをテコにした急成長が鈍る懸念もある。新規制によって事業モデルに一定の制約がかかる。

「ポイント還元の販促効果よりコスト増が重い」「ポイント費用分の値上げをせざるを得ない」。アマゾンジャパン(東京・目黒)は2月、出品事業者用のサイトで新たなポイント還元策を通知した。出品事業者が原資を負担して全商品にポイントを付ける内容。事業者の反発が広がった。

規約変更の通知が一方的で、出品者の同意をきちんと取れていなかったことが問題視された。公正取引委員会が独占禁止法が禁じた「優越的地位の乱用」にあたる可能性を指摘し、業界の一斉調査に乗り出した。批判を受けアマゾンは4月10日に全商品にポイントを付与する施策を撤回した。

政府は規制案で取引条件の開示を義務付ける新法をつくる方針を示した。IT大手は取引条件を変更する際に丁寧な説明が求められるようになる。事業環境の変化に対して、臨機応変な対応が難しくなる可能性もある。

日本の既存規制は欧州の一般データ保護規則(GDPR)に比べて軽く、米IT大手にとってグローバル戦略上の警戒度は低かった。2018年11月の政府有識者会議の聞き取り調査では、フェイスブックとアマゾンが出席を見送った。

政府による規制強化の流れが広がるなか、日本市場への対応に変化の兆しもみられる。アマゾンジャパンは昨年12月に経団連に加入した。消費者の利便性を追求することで成長を続けてきたプラットフォーマー。当局や業界団体を含めて幅広い利害関係者への目配りが不可欠になっている。

巨大ITの規制、政府強化へ データ集中・市場独占懸念
西山明宏 2018年11月6日朝日新聞

 政府は米グーグルや米アマゾンなど、「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業への規制を強化する。個人情報や知的財産などのデータがこうした企業に集中して市場の寡占が進み、公正な競争環境をゆがめかねないためだ。欧州連合(EU)などの規制強化の動きと歩調を合わせる。
 7月から議論を進めてきた経済産業省や公正取引委員会などの検討会が5日、中間論点整理案を公表した。年内に最終案をとりまとめ、年明けから具体的な規制方法の検討に入る。
 検索やSNS、ネットショッピングなどのサービスを展開するIT企業は「プラットフォーマー」と呼ばれる。このうち、グーグルと米アップルに加え、米フェイスブックとアマゾンの4社はその頭文字を取って「GAFA(ガーファ)」とされる。こうした企業はこれまで、個人や事業者の取引を生む場を提供しているにすぎないとして、日本では規制の対象とみなされていなかったが、検索サービスやネット通販が普及するにつれ、個人の検索履歴や買い物履歴などのデータが集中し、市場の寡占も進んだ。
 一方で集めた情報をどう取り扱っているかが不透明なまま、ほかの企業が不利な取引を強いられるなど、不公正な条件にさらされているとの懸念も出てきた。
 そこで政府はプラットフォーマーに対し、企業との取引条件などの開示を義務づけることを検討。データを独占して市場をゆがめていないか、専門家を集めた監視組織の設置も議論の対象とする。
 プラットフォーマーが企業を買収する場合、公取委は買収相手の企業が持つ情報も加味し、個人情報や特許などのデータがどの程度、集積するかを審査対象に加えることも検討する。
 先行するEUは今年4月に専門の監視組織を発足させ、プラットフォーマーの規制案も公表している。