巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
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この世界の片隅に

2016-11-21 00:52:40 | 
私の親友はペンと絵の具
どんなに美しい風景も
あなたの寂しげな顔も
描写することができる

友達であっても貴方を愛することができたなら
誰よりも優しくなれる
誰にでも優しくなれる
そう疑いなく信じてた

私が私のすべてを失ったとき
誰よりも貴方が悲しんでくれた
その悲しみに暮れる表情を見て
私は今まで以上に強く生きねばと誓った

私の分も全力で生きている貴方に
手負いの私がしてあげられることを
探し出そうと懸命に頭を巡らせる
私はいつも以上に時間をかけて
私が貴方と私の間に空けてしまった穴を
埋め合わせようとする

暴発
突如怒りの感情が溢れ出す
幸せな日常を過ごしていた私達が何故
幸せの在り処を必死で探さねばならないのか
理不尽な人生、身勝手な社会
世の中のすべてを恨みたくなる

そんなときも貴方は笑顔だった
まるで絶望する私を諭すかのように
優しくその腕で私の疼く傷痕をさするのだ
私は一切の感情を棄てて泣き叫ぶ
誰にでも優しくなれると信じた私は何処へ

二人でひとつになろう、貴方は言った
もはや貴方を支えることなどできぬ私を
貴方は包み込むように、優しくそう囁いた
泣きたければ泣いていいんだよ
無理しなくていいんだよ
たとえ世界が僕達の敵に回ろうと
僕達の絆は永遠なのだから

彼は誰よりも優しい微笑みを浮かべて逝った
数え切れない優しい温もりと私ひとりを残して
彼の優しさを全身に浴びながら
私は彼の魂を吸い取っていたのかもしれない
彼は私に有り余る愛情を注ぎながら
迸る熱情を日増しに失っていた
私はそんな彼の変化に気付きながらも
彼の世界に浸り、甘え切っていた

彼が逝った後の世界は
何事もなかったかのように時を刻んでいく
私はその空虚な空間に身を沈め
誰も訪れない私の心にシャッターを降ろす
二人の絆を誰にも断ち切られないように