発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

で、私の祖先は幕末維新の時期、一体何をしていたのだろう

2019年07月20日 | 本について
◆幕末から明治六年までの、筑前宗像郡のある百姓の目から見た世の中


 新刊『百姓組頭・井上勝次』発売中。写真は福間駅前の伊原書店。

 幕末は、時代小説や歴史小説や時代劇でよく取り上げられるテーマである。坂本龍馬、中岡慎太郎、高杉晋作、桂小五郎、西郷隆盛、大久保利通、勝海舟、近藤勇、土方歳三……ちょっと思いつくだけでもたくさん名前が出てくる。いろいろなお話にヒーローとして何度も登場し、さまざまな方向から活躍に光が当てられている。そういうものを読んだり見たりしていて、ふと、こう思ったことはないだろうか。

 で、私の祖先は幕末維新の時期、一体何をしていたのだろう。

 江戸時代のご先祖は、両親あるいは祖父母あるいは曾祖父母の生家周辺で、主に一次産業に従事していた、という人が一番多いのではないか。この本では宗像郡の人々がどのように暮らしていたのかが丁寧に描かれているが普通に生計を立てることの困難さに目をみはる。天候によっては働き者であっても命を落とすのだが、ともかく勤勉でないと生きられない。厳しい時代の中を懸命に生きのびた人々の末裔であることは誇るに足ることである。     
 
 明治維新は、近郷一の知識人をして「これから何が起こるのかわからん」と言わしめる事態だった。歴史に翻弄される人々は、村の人々に限らない。戊辰戦争にかりだされる武士団が話に登場する。彼らとて、何が起こっているのかよくわかっていない。

◆人生の選択、世の中を選択
 江戸時代の人々の人生と、現代との一番の違いは、個人的選択の範囲である。彼らの生き方は、生まれたときから定められている。縛りが多い。主人公が農閑期の副業として宿場間の運送業(馬子)を開始するにあたっての手続きの煩雑さに驚く。所属の村庄屋を伴って、宿場担当の庄屋を訪問しないといけなかった。

 明治維新は、実は自分で生き方を選べる時代のはじまりだったのである。あのころ、四民平等とはそういうことだ、と、教えてくれる人はいなかったし、いたとして、200年以上続いた価値観の呪縛から解放されるのには時間がかかったはずだ。だから、悪いことばかり起きていると多くの人が思ったのは想像にかたくない。

 今は、一揆を起こさずとも、投票で世の中の方向性を決めることができる。すくなくともデモよりも投票の方がはるかに効力が大きい。なのに投票率は低い。ここに何度も書いてきたが、何度でも書く。昭和のはじめまで貧乏人には投票権はなかった。だから軽んじられていた。戦争が終わるまで女性には投票権はなかった。だから軽んじられていた。投票しない層は軽んじられる。それをよしとするのか?

 ところで、明治になる前に、普通選挙を提言していた人物が日本にいた。あまり知られていないが赤松小三郎。この先進性はどうだろう。暗殺されなければ、憲政も普通選挙ももっと早かったかも知れない。

 

                                        

 

 

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