発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

今さらですが「風立ちぬ」美しいから飛ぶのか、飛ぶから美しいのか

2014年08月07日 | 映画
◆ブロジェクトX
 このアニメ映画は零式戦闘機やYS11を設計開発した堀越二郎の話だけど、彼の人生そのままと飛行機にまつわる話を追うだけでは「プロジェクトX」になってしまい、BGMは「地上の星」、田口トモロウのナレーションとなる。ユーミンの「ひこうき雲」をエンディングタイトルに使うジブリアニメにするために、その上から「風立ちぬ」的味付けをした映画、だと思った。
  本当は操縦したかったんだけど近視なのでそれは無理ということで技術屋に。堀越少年は少年のときからメガネくんである。丸いメガネといえば、坂本龍一か大江健三郎か東海林太郎か……それと、忘れてはいけない野比のび太。

◆計算尺
 1970年頃までの技術屋にとって、計算尺は大事な道具だ。この映画では、主人公の仕事の道具として印象的に登場する。震災のケガ人には添え木となり、列車移動中には、片手で操作できるモバイルな仕事道具ともなる。
 うちにもあった。父が使っているのを見たことがある。大きくなったらぜひ使ってみたいものだと子供心に思っていたが、私が使い方を知るよりも前に、関数電卓が普及し、普通の計算尺は世の中から消えた。電卓以前は、算盤とセットだったはずである。また、オフィスにおいては腕抜き(黒い事務用袖カバー)とセットだったと思うが、算盤と腕抜きはアニメには登場しなかったような? おしゃれではないからかしら。

◆おしゃれ堀越くん
 で、「風立ちぬ」的味付けとして、胸を悪くしている良家の令嬢菜穂子との恋愛と結婚である。これまた戦前恋愛物語のテンプレ的パターンである。(と、書いてはみたものの、読書傾向に偏りのある私は、戦前恋愛な物語などほとんど読んでいないことに今気がついて少し反省)。下宿先上司夫妻と新郎新婦だけの急ごしらえではあるが古式ゆかしい婚礼が味わい深い。髪に花をひとつ飾った花嫁。もちろん菜穂子ちゃんが普段着てる大正昭和レトロな洋装もとてもステキ。夏には麻と思われるスーツに帽子で登場する堀越。帽子は近年少し復権してきているが、麻のスーツの普及率は現在はどのくらいなのだろうか。上下揃いでワードローブにしているのはよほどのおしゃれさんではないかと。冷房のない時代は結構着てる人は多かったのだろうか。


◆美しいから飛ぶのか
 それにしても、登場する汽車やバスなどの乗り物に心ひかれる。国内乗り物のみならず、欧州の汽車なども登場する。航空機の美しいことは言うまでもない。
 九試単座戦闘機、逆ガル主翼の特徴的に美しいデザインがなければ、このアニメは成立しなかったかもしれない。自動車を美しくしているのは空力性能だと思っている。いわんや空力性能の極致である航空機をや。美しいから飛ぶのか、飛ぶから美しいのか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今さらですが「アナと雪の女王」まるで悪魔の実の能力者だっ!!!

2014年08月04日 | 映画
◆アナと雪の女王ですよ。
 ありのまま……蟻のママ? 必ず女王蟻だわ。
 ともかく、買い物に行くとヘビロテでかかっているのが「アナと雪の女王」の劇中歌(吹き替え版松たか子)で、エンディングタイトル(同MayJ)にも使われている。とりあえずレンタルDVD鑑賞。
 松たか子歌うまいよね。
「ありのままで」の歌は、エルサが、じっと閉じ込めていた雪の魔法の力を解放して、山の上に雪と氷の城をつくるときの歌なのね。

 とぼとぼと雪山をのぼって
 手袋をはずし、力を解放する決意をする。
 雪だるまを一瞬にして作り、
 雪のアラベスク模様を空中に咲かせ、
 マントを脱ぎ捨て、崖に向かって走り出す。
 雪で作った階段は駆け上っていくと固くピカピカ光る氷の階段に変わる。
 足を踏みならすと地面に巨大な六花の結晶が伸び、見るまに氷の宮殿が出来上がる。
 人間界の女王としてのティアラを投げ捨て、
 結った髪をおろしてドレスも
 氷のマントをまとったアイスブルーに変わる。
 孤独な雪の女王エルサの誕生。

「雪は天から送られた手紙である」と言った中谷宇吉郎も、これを見ればさぞ驚くことであろう。
 この画面が一番人気があるみたい。たしかにすごいCGアニメだ。この時期は特に涼しげで良い。

◆もし、エルサが「ワンピース」の世界に行ったとしたら……
 これを見て思ったのが、この力は、アニメにもなってる大人気マンガ「ワンピース」の悪魔の実の能力みたいね、ということだ。「カチカチ」も「サラサラ」もできるから、ここは「ユキユキの実」の能力者ってところかしら。いや、「ユキユキ」も「ヒエヒエ」もすでにあるらしい(そんなに続けて読んでるわけじゃないからなあ)。だけど、なかなか華麗な能力ではある。まあ暫定ユキユキの能力としとこう。雪の女王なわけだし。
 「ワンピース」の悪魔の実の能力者は、この音楽をバックに、それぞれ能力を解放するアニメを作れそうな気がする。ゴムゴムの実の能力の持ちルフィは悩んだりしないからこの歌にはならないけどね。
………雪と氷を自在に操る能力者であることがわかって、町を出て行ったエルサは、海賊王争いに参戦する。海でエルサの能力は最強である。海軍の軍艦も一瞬にして氷に閉じ込められ身動きできなくなる。そしてエルサは、ゴムゴムの実の能力者ルフィと戦うことになる……というストーリーで、「ワンピース」の物語の中に入り込めそうである。液体窒素実験なんかで、ゴムは低温で凍ると脆くなる様子を見たことがある。ゴムゴムのルフィよりもエルサの方が強いかも? 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

思い出のマーニー こんな不思議な夏があったっていいじゃない?

2014年07月08日 | 映画
思い出のマーニー 試写会 天神東宝

◆ひと夏の経験なのよ
 10代20代の頃には、毎年違う夏が来ていた。夏が終わって、同級生が全く別人になっていた、なんてことはないんだけど、ともかく、夏休みアニメのテンプレ、女の子のひと夏の経験というか冒険のお話。
 中学生女子、安奈は、札幌市在住。絵を描くことが好きだけど、学校では孤立してる。喘息持ちということと、母との関係から、ちょっと距離を置いた方がいいかも、ということもあってか、空気の良い、母親の親戚の家で夏を過ごすことになる。
 母親といっても、安奈は養女であるので「おばさん」と呼んでいる。「おばさん」の夫は出張が多く、不在がちだ。集合住宅に住む、ごく普通のサラリーマン家庭のように見えるが、自治体から安奈養育に関する補助金が出ているのを知った彼女は、お金目当てで自分を育てているんじゃないかと疑っている。愛されてない気分が、「私は、自分が嫌い」と言わせている。
 いやいやいや、いいお母さんじゃないか。何が不満? と思う。幸せは幸せを感じる力そのものだと思っているが、安奈ちゃんは、それに欠けている。この夏にそれを取り戻すお話なのだなたぶん。

◆マーニーが出なくても、それなりになんとかなりそうな
 で、転地療養先、これ、最高である。滞在先の大岩家のおかみさんと旦那さんは、気のいい夫婦で、トマトがたわわに実る家庭菜園つきのおうちの、その家の娘が独立して出て行って空きになっている部屋で安奈は過ごすのだが、その部屋もステキ。海が見えて、気持ちのいい風が入る。安奈が近所の中学生とトラブルを起こして、その母親が押し掛けてきても、まあ理想的な対処をしてくれるし、安奈のことをきちんと気にかけていてくれるが、あまり干渉しない。超居心地が良さそうっ!!と、思うのは私だけではあるまい。 こんなとこで、自転車の距離に図書館なんかあれば最高だね、自分がここでひと夏過ごせる中学生だったら、宿題やって、本読んで、写真撮って、紙工作作って、昆虫採集して過ごすだろうなっ、と思った。
「ここでひと夏過ごした安奈は、すっかり元気になって札幌に帰りましたとさ、めでたし、めでたし」。
 違ーう。それでは「思い出の大岩家」になってしまうではないか。マーニーを登場させないと。

◆だって、ジブリだからね
 ここで、非現実的なファンタジーが展開されるのだ。
 地元中学生とトラブルになって海辺に逃げてった安奈は、置いてあった誰かの手漕ぎボートに乗り、入江の向こうの湿っ地屋敷と呼ばれる空き家に行くと、マーニーという金髪の少女が待っている。安奈はなぜかこの洋館を見たことがあるような気がしている、彼女はなぜ安奈が来ることを知っていたのか。ふたりはすぐ仲良くなる。ピクニック、レトロな夜会、雷雨のサイロ。マーニーが異界の住人であることはすぐにわかる。現実世界では、洋館には新しい住人が入ってしまうが、マーニーの部屋だったところに住むことになった少女は、なぜかマーニーのことを知っている。マーニーは、実は安奈の空想の中の住人、というわけではないのだ。そのうちにマーニーはまた出現する。
 マーニーは何者? 謎を解きながら鑑賞しましょう。

 こんな不思議な夏があったっていいじゃない?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春を背負って

2014年06月10日 | 映画
春を背負って 試写会。都久志会館。先日の「WOOD JOB 神去なあなあ日常」に続き、山のお仕事の映画。標高はさらに上がって舞台は冬でなくても雪が残る標高3000メートルの山小屋。

◆立山とわたくし
 原作小説では秩父の話らしいけど、映画の舞台は立山連峰。立山黒部アルペンルートは、ずいぶん前だけど、ちょうど今の季節に行ったことがある。映画にもチラっと出てくる、雪の壁の間を通る道だ。もちろん歩きの登山などしてない。
 ここ十年は、自力登山といえば鴻巣山(福岡市中央区)くらいのものである。

◆山小屋へおいでませ
 それなりの装備が必要な登山をしないと到達不可能な標高3000メートルの有人食事宿泊つき山小屋の四季を、ドラマと絡ませた映画である。小屋開きの準備から、営業の様子、そしてそのシーズンの山じまいというか小屋じまい。冬は雪に埋もれるので営業しない。必要な資材は原則ひとが背負って運ぶ。ベテランさんなら1回に60キログラムくらいは運ぶようだ。ファイトいっぱつが普通ですが何か?という世界なのである。
 戸締まりをしていてもうっすら中に雪が積っている。壁に凍り付いた雪をはつるところから始まる。荷物を運び込んで、布団を干して、さあ、お客様を待ちましょう。予約のお客様、天候の変化に避難してくるお客様。
 ともかく、圧倒的に美しい山の風景の移り変わりを楽しむことのできる映画である。

◆元・山ガールと山ガール
 登場人物はおしゃれである。アウトドアの山スタイルは、たいがいは、おそらくはモンベルあたりのシンプルなウエアである。登山のときのサングラスが皆さんファッショナブル。民宿経営のお母さん(檀ふみ)のステキな作務衣。蒼井優のバッチワークスカートとか。山の空気にびったりな気がする。

◆主役は山ですね
 山はひとを哲学くんにするのか、人生訓的な台詞が多い。気になる方はスルーして山を楽しみませう。ストーリー自体は、たんたんと進む。山小屋の主人をしていた父(小林薫)が山で事故死して、金融トレーダーをしていたひとり息子(松山ケンイチ)が、ちょうど取引で大穴を開けたところ(やめるときには、その穴も小さくなってたみたいだけど)だったこともあり、郷里に帰って山小屋を継ぐことにした。それからその翌年の山小屋開き準備までのお話。気まぐれ風来坊山男(豊川悦司)とか、料理上手な訳あり娘(蒼井優)とか、無茶をする客とか、山岳警備隊の人々とか。大体予定調和内でお話は進みます。物語にケチをつける向きもあるでしょうが、この映画は、山が主役なのだと思います。だからいいんです(たぶん)。 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

千秋真一の白いシャツ

2014年06月02日 | 映画
◆5月は忙しくて、新聞も、ニュース放送も途切れ途切れにしか見聞きしてない。

◆何か音楽聴きたいっ!! と、レンタルビデオに行くも、お気に入りの「オーケストラ!」がないっ!! 「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」もないし、まてよこれは笑う映画じゃなかった。それでテレビ版「のだめカンタービレ」を1本(2話)ずつ借りて、仕事のあいまにバソコンで鑑賞。面白い。車じゃ、サラ・ブライトマンとフィリッパ・ジョルダーノと溝口肇をヘビーローテ。

◆玉木宏の声はいいね。「真夏のオリオン」(2009年)という映画で倉本艦長(玉木)の台詞に「オーケストラの指揮者になるのが夢だった」というのがあって、爆笑したのをおぼえている。

◆「のだめカンタービレ」は、クラシック音楽の世界の、若い音楽家たちの物語である。言わずと知れた大ヒットコミックで、実写テレビ、映画と、アニメにもなった。主役は天才ピアニストの野田恵と、指揮者をめざす千秋真一である。実写版の登場人物はなかなかおしゃれである。野田恵の、母手作りの服もおしゃれだけど、これは自分で縫うか、縫ってくれる人がいないとムリなので、参考になりにくい。今回は千秋真一のスタイルについて書いてみる。
 放映から数年経ったが、何の違和感もない。

◆千秋真一の白いシャツ
 白いシャツしか原則着ないのが、千秋真一だ。まだ6話までしかみてないんだけどね。
 常に白シャツ長袖。ノーネクタイ。たまにグレーVネックTシャツ。白シャツの種類は多そう。ドビーなど織り柄の縞模様だとか、ピンタックもあり。でも白一色。学生の分際でダブルカフスのシャツを普段に着たりするが(勤める会社のドレスコードによっては、スーツを着る職場であってもダブルカフスを定年まで着ない人も多いのではと思う)ダブルカフスでないものは、ユニクロのだったりする。つまり高いものとは限らない。要するに誰でも真似できる。
 アウターは黒かグレー。ニットはVネック。カーディガンもよく着る。模様編みのこともあるが無地。あ、アーガイルチェックもあった。パンツも黒~チャコールグレー。たまにベージュ~オイスター。
 これらの組み合わせは、どれとどれを合わせて着ても大丈夫そう。誰もがこんな格好をすれば、たぶんお洋服業界は不況になってしまうだろうけど実に合理的なワードローブに思える。
 中の人、玉木宏のような男前さん、というわけにはいかないにしても、姿勢正しく着れば、誰でもなんとかなるような気がする。常に第二ボタンまではずし、下には何も着てない、というのを真似するかどうか、は別の問題として。
 あ。ピンタックやダブルカフスやドビー縞を着るとか、そういえば、ボタンダウンは着てなかったような、とか、ネクタイをしないってのは「一歩間違えて、まるで高校の制服」になっちゃわないため、かもね。
 千秋真一のワードローブがシンプルなのは、脳内のほとんどが音楽(=好きなこと)でいっぱいだから、なのだと思う。おしゃれに時間をさきたくないけどおしゃれしたい青年は、参考にできるのではないかと思う。
 ドラマでは、千秋真一の真似しようとして失敗しちゃってる例(大河内くん)も出てくる。そういえば、大河内くんの服装は、高校の制服っぽいな、と。






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万能鑑定士Q モナリザの瞳

2014年05月22日 | 映画
◆モナリザとわたくし
 子どものころ、母が定期購読していた月刊誌には、一枚ずつ、当時としては良いカラー印刷の複製画がついていた。
 黒田清輝の「湖畔」、モネの「睡蓮」、ラファエロの「ひわのマドンナ」などとともに、印象深く記憶に残っているのが、モナリザだ。「ジョコンダ婦人」という別名もあることもそのころから知ってた。タイガースの「モナリザの微笑」という歌の「モナリザ」とはこれのことか。眉ないし、怖いし。これが美人? と思ってた。

◆「万能鑑定士Q モナリザの瞳」試写会、都久志会館
 万能鑑定士Qという鑑定のお店の主人、本編のヒロイン凛田莉子(りんだ りこ)は、どうも、古美術商や質店みたいなところの鑑定も行っているようだが、信用調査というか、審査のような仕事もする万能鑑定人である。
 ミステリーなので、詳しくは書けないけど
 レストランから、貸し切りパーティーの依頼人の鑑定を依頼され、怪しいということでパーティーに出て、そのバンケットにしくまれた陰謀について鮮やかに解明してみせる。そのことで、ルーヴル美術館の臨時学芸員の採用試験に招ばれるのだが、こんなに経費をかけて臨時学芸員を養成してどうするんじゃ、とツッコミを入れたくなる。
 真贋を鑑定する訓練のあと、鑑定眼が狂いだした莉子。それがどんな陰謀であるのか、どんでん返しのあと、大団円となる。
 もうひとつツッコミを。高層ビルというからには、そこはあなた、スプリンクラーでしょう普通。消防法もあることだし。あ、切ってあったの? まあ誰かが真似をしようとしたら失敗する仕掛けなのかな。

◆おしゃれ鑑定士
 凜田莉子=綾瀬はるかの衣装が不思議だ。全体的にトラッドというかコンサバだけど、上品だが甘くない、媚びてない。でも男の子トラッドをスカートにしたってのとは違うし、若い娘のコンサバスタイルにありがちなおばさんっぽさもない。とてもかわいい服だよ。初音映莉子の令嬢スタイルもかわいいね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

WOOD JOB! (ウッジョブ!)~神去なあなあ日常~試写会

2014年05月08日 | 映画
WOOD JOB! (ウッジョブ!)~神去なあなあ日常~試写会イムズホール。

◆「海猿」伊藤英明の、新シリーズ「山猿」スタート!!!
↑嘘です。ごめんなさい。
 ですが、この映画では、伊藤英明が「海の男」から「山の男」に大変貌をとげています。しかも、ワイルド過ぎ。ちなみに主演は「永遠の0」で、大石さんを演じていた、染谷将太くん。

◆林業生活にご招待
 大学受験に失敗し、彼女にも逃げられた平野勇気(染谷将太)くんが主人公。傷心どん底のときに見かけた「緑の雇用制度」パンフレットの表紙の美女(長澤まさみ)めあてで山村に行く。紀伊半島(と発音して、野際陽子の歌声が脳内再生される私は古い)三重の奈良県寄り。鉄道は一両のレールバスが一日三往復やってくる。そんな場所で林業一ヵ月研修を修了し、さらに奥地、町まで車で二時間の、れいの美女の所属すると思われる中村林業の一年研修に行くことになるが、なんとそのステイ先から迎えに来たのは、研修のときに実演していた山仕事に卓越していてワイルドかつ凶暴な林業者、ヨキ(伊藤英明)だった。おまけに美女の仕事は林業ではなかった。
 というわけで、林業生活にご招待な映画である。

◆100年スパン産業
 まあ、ヨキや、たくさんの林業者たちと、植林、間伐、枝打ちを行う新人平野くん。逃げようとしたこともあったけど、ともかくがんばるのだ。
 材木市場で、中村林業の丸太が高値落札されるのをまのあたりにして、平野君は林業って儲かるんだぁとばかりに舞い上がるのだが、社長たちはまったく冷静である。
 農林水産業、あるいは農林業と括られて呼ばれているものの、林業収入「山林所得」は、その特異性から、課税方法に他の産業にない特徴がある。
 木を伐採もしくは立木を譲渡して得られる所得「山林所得」の税は、国税庁のホームページによると、他の所得とは離して、5分5乗と呼ばれる、かなりユルい累進で課税されることになる。
 日本の所得税は、中学の公民の時間で習うとおり累進課税で、500万円の所得にかかる税率は、100万円の所得にかかる税率より多い。山林所得の5分5乗とは、簡単に説明すると、500万円所得があったとき、100万円にかかる所得税率で税金を計算する方式、つまり5で割って5を掛ける5分5乗となるのである。要するに税率が通常の所得よりも低い。
 なぜなら、林業というのは、植えてすぐに利益が出るものではない。植林してから100年以上を経てやっと伐採となったりするからだ。その間には、こまめな間伐や枝打ちなどの丁寧なメンテナンスが必要なのである。
 投下した資本や労力は、ほかの産業と比べて際立ったロングスパンでの回収となる。高値で売れるからといってどんどん伐採するわけにはいかないし、売れたからと言って浮かれて浪費するわけにはいかない。アブク銭とは対極にある売り上げなのであるから。
 ちなみに取得後5年以内に伐採または譲渡して得られた所得や、山の土地を売った所得は、フツーに課税されますので念のため。

◆自然の一部、なんですよ
 まあそんなで木は自然が育ててるようなところもあるから、山で働く人々は、山の神様に対する畏敬の念が半端ではないのである。人の力がおよばないことがあること(じつはそれはあたりまえで、人間はすべて地球の間借り人に過ぎないんだけどね)を毎日自覚しながら生活してる。それで神隠しだとか、山に入ってはいけない日だとか、プリミティブに思えるお祭りもあるんだけど、それは映画の中で。恋のゆくえも。
 「銀の匙」が農業で、この映画は林業のお話。第一次産業の映画が続く。次は漁業映画かしら。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「神様のカルテ2」 仕事と幸せについて

2014年04月10日 | 映画
◆労働と余暇の問題
「神様のカルテ2」試写会、都久志会館。
 先月鑑賞して時間が経ったんだけど、その感想を。
 医師という専門職の労働問題がテーマである、と私は思った。労働と余暇に関する問題は、私の学生のときからの研究テーマである。
 この映画の主人公、櫻井翔演じるところの栗原一止医師は「年に3日しか休んでいない」のだそうな。確かに、普通の被雇用者が年に3日しか休めないとなると、心身にどこか異常が出てくるのは想像にかたくない。私がこれまでやったことがあるいかなる雇われ仕事も、年362日行うことを強制されるなど、考えるのも恐ろしい。塀の向こうのお仕事たる懲役刑でさえ土日祝はお休みなのだそうですよ。

◆お仕事が好きならなんとかなる、かな?
 栗原医師が正常さを保っているのは、結局仕事が好きだからであろう。好きな仕事をしている人にはあまりお休みは必要ない。憂さ晴らし気晴らしの必要が少ないから。
 医師というのは理科系の秀才で、しかも臨床をしているからには対人スキルもある程度持っている人であろう。つまり就こうと思えばほかの仕事にも十分就けた人である。だが医師を選んだ選べたということである。中には仕方なく医師をしている人もいるのかも知れないが、医師は、生命がかかってて手加減できない仕事の最たるもので、義務感と責任感と報酬のために仕方なくやるには辛すぎはしないか。そもそも仕事が嫌いな人は映画に出て来るような24時間営業の病院に勤めたりしないと思う。

◆実は休んでいる、とツッコミを入れてみる
 それから、栗原医師は、病院にいる時間中診療したり専門文献を見てばかりいるわけではない。彼はヒマさえあれば病院の廊下を二宮尊徳よろしく文芸書を読書しながら歩いているではないか。職場にいるというだけで、それは余暇時間ではないのか。たいがいの職種の被雇用者が就業時間中に読書することは困難である。それが許される職場であるので、精神的均衡が保てるのである。患者さんは急にやってくるものの、その程度の自律は許容されるのでやっていけるということである。

◆まっ、しょうがないな
 結局家族にしわ寄せが向かうという話であるが、この映画に出て来る3人の妻のうち医師でない2人は「まっしょうがないな」という感じである。医師自身の病気の発見が手遅れになってしまっても、悔しさに歯軋りするというより「まっしょうがないな」という感じ。仕事が好きな相手が好きで一緒になったのだろうから、好きな仕事で本人のことがあとまわしになってしまって残念だけど仕方がない、本人も本望だろうと。

◆ただ子育てとなると
 問題は、夫婦とも医師の場合で、どちらも忙しくて、しかも親に頼れない場合子育てが大変であるということである。

◆仕事と私とどっちが大事なの問題について
 ともあれ「仕事と私とどっちが大事なの」と配偶者なり恋人なりに言われてしまうようなら、自分自身の中途半端な仕事への姿勢を反省しなくてはなるまい。相手も大切だが、仕事は自分の大切な要素であるということが相手に伝わっていてそんな戯言を言われるわけがない。
 人生の幸福は、その人が自分の仕事を好きであるかどうかがある程度決定づけるものである。向いた仕事を探す能力や、目の前にある仕事を楽しめるというか好きになる能力自体も、幸せの資質であると思う。
 仕事が好きか、報酬はどうか、余暇時間はどうか、と、その人の幸福とは、どのような函数で表せるのだろうか。ずっと考え続けようと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やがて3月が去る/DVD「日本以外全部沈没」ほか

2014年03月27日 | 映画
◆慌ただしく3月が終わる。
◆3月の映画は「LEGOムービー」「神様のカルテ2」、DVDで「ロボジー」「日本以外全部沈没」それから公開時に劇場で観たけど「スカイ・クロラ」。映画はしっかり観てる。
◆「日本以外全部沈没」は、「日本沈没」のパロディーで、筒井康隆原作。日本以外が全部沈没してしまい、世界中のVIPが日本列島に押し寄せ、物価は上昇し、大騒ぎになる。2006年の映画だけど、特撮の低予算ぶりが60~70年代の懐かしいテレビ番組を思い出させる。オチは想像通りであったが、実のところ日本以外が全部沈没すると、沈んだところの原発が世界中を汚染して地球に人など住めなくなってしまうんだよね。
◆ところで2月の映画で感想書いてないのは「偉大なるしゅららぼん」(冒頭に出た、その町の支配者の名前のついた事業所の看板だらけの風景に、A元首相の地元の町を少し思い出した)、「ジョバンニの島」(戦争と国の都合に翻弄される家族の物語。キャラクターに最後まで目が慣れなかった。アニメで客を呼ぼうと本気で考えるなら可愛くなきゃ)。
◆福岡市内のスーパーで、巻き寿司いなり寿司の小さなセットを「ハーフ助六」と書いて売ってた。半分サイズの助六ということなのだろうけど、アニメ「ぜんまいざむらい」に出てくる「ピエール」というキャラクターを思い出す。
◆前原の蒲鉾店でギョロッケを買う。魚のすり身にパン粉をつけて揚げたものである。魚コロッケでギョロッケなのだが形態はコロッケよりもうどんに乗っている丸天に近い平たい食べ物である。これはサンドイッチにする。ホットサンド専用の道具も持っているけど、もっと簡単に作る。耳のついたパンでトーストを作り、半分に切り、切り口から調理バサミを入れて袋状にして、具を入れていくのである。普通のサンドイッチと違って押さえておかなくてもバラバラにならないし、なんといっても常備してある食パンで簡単に作れる。5枚切り推奨だけど6枚切りでもなんとかなる。内側にバターなりマヨネーズなりを塗って、好きなものを入れる。今回はソースを塗ったギョロッケと、マヨネーズで和えたスライスオニオン。おいしいのよ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀の匙 理不尽な現実

2014年03月03日 | 映画
◆「銀の匙」試写会。都久志会館。
 北海道の農業高校のお話。
 少年向け雑誌で大ヒットしたコミックが原作の映画で、実際すごく観てて楽しいのだが、ファンタジーの要素が少ないという点で、近年のヒット作とは全く異なる。死神ノートを手にした少年とか、悪魔の実の能力者とか、スポーツの天才とか、未来から来たネコ型ロボットは登場しない。
 主人公のメガネ男子八軒くんは、中高一貫の進学校からドロップアウトして、不仲な家族から逃げるように全寮制の農業高校に入学した。都市のサラリーマン家庭に育った彼にはびっくりすることばかりだ。これは八軒くんの成長物語であると同時に、私達を北の農業高校に招待してくれる映画である。
 主人公の八軒くんを演じる中村健人はジャニーズの人らしい。彼がほのかな恋心を抱くアキちゃんの広瀬アリスちゃんがカワイイ。Sっけたっぷりの女教師、富士先生役の吹石一恵も、馬術部顧問の先生中村獅童もぴったりはまっている。校長役の上島竜兵は、いい味出てる。

◆農業とわたくし
 高校生くらいまでは、二学期の中間試験の後の日曜は、稲こぎの手伝いをしていた。その時期だけ父方の田の仕事をしていたのである。両親は田の仕事はほかの季節も手伝い、自分の家で食べる分くらいの米はそれで得ていた。父方ファミリーは、戦前は柑橘農園をしていて、ネーブルオレンジも当時から栽培していた。砂糖が統制されると、祖父はさっそく小規模な自家用だが、養蜂で蜂蜜の甘味を得たという。私が子供の頃は、本家から離れた海沿いの土地にある自宅の周囲はミカン園だった。私がまだ小さいころ祖父が亡くなってミカン園は終わった。おそらく祖父の代で農家は終了し、自宅用のみの水稲と家庭菜園となったのだと思う。
 稲作の手伝いを私は完全に面白がっていたが、そういえば姉もイトコたちも手伝ったりはしてなかった。当時農業改良普及所長という県の役人をしていた伯父が、冗談かどうか知らないが良い農家を見繕って嫁がせるようなことを言い、それを聞いたからかどうか、母は、進学先から郷里に戻った私に田の仕事をさせようとはしなかった。数年して伯父は亡くなり、父方ファミリーは水稲栽培から完全に離れ、我が家的に食料自給率は大幅に低下した。
 母方の祖父母の家には農協関係の婦人雑誌『家の光』というのが置いてあった。こちらは母方の伯父(故人)の代までは農家だった。祖母が私にヤギ乳を飲ませようとして(当時は偏食児童だった)逃げ回った覚えがある。葉タバコの栽培をしていて、納屋でタバコの葉を干す匂いが好きだった。当時の『家の光』には、政治的、経済的な問題は、かなり省かれているというか、全然書いてないみたいな?と思った。食料自給率とか、農産物の自由化とか、日々新聞やテレビを賑わせているのにどういうことだろうか、これは、農家の嫁が舐められているからに違いないと、子供なりに思った。とんちんかんかも知れないけどね。(今はTPP問題など、政治的な記事にもページが割いてあるし、産直ショップやオーガニックについての記事、美輪明宏の人生相談もあり、なかなか楽しい雑誌である)

◆現実的
 物語の核心にも触れますが↓映画の話に戻りましょう。
 「銀の匙」八軒くんの同級生たちはほとんどが農家の子弟で、農業後継者としての自覚を持ってやってくる。全寮制であるため、なんとなく入学するという生徒は希有なのである。
 農業高校には現実があふれている。進学校の勉強というものは、すべてとはいわないが、かなりリアリティーから離れたバーチャルなものだと思えてくるくらい、現実的である。
 現実とはすなわち理不尽なものなのである。
 学校の敷地は広く、実習用の農場や設備が揃っている。
 産卵成績が悪いニワトリは即刻肉となる。乳の出の悪い牛もしかり。
 経済動物たる家畜に名前をつけては駄目だと同級生たちが言うのに、八軒くんは実習農場の子豚に名前をつけて成長を追ってしまう。
 この映画では、屠畜場の解体の見学シーンもでてくる。まったくもって現実的である。もちろん生徒は強制参加ではない。たぶん生易しくはない画面だがほとんどの人は許容範囲だろうな、という感じに編集されているので、皆さんもぜひ映画で見学を。可愛いブタさん牛さんトリさんと、食べているお肉は同じものなのだということは、人として知っておくべきことだ。
 見学した八軒くんは、名前をつけた豚が成長して出荷されるとき、夏休みの農場バイト代を使っての買い取りを申し出る。飼い続けるわけではない。食肉加工されたものを、である。その豚「豚丼」は、教師に×印をスプレーされ、間違いなく別口で送り返すよう依頼される。豚を見送る場面は切ないね。
 戻ってきた一頭の食肉、50キロあまりを、彼は、食品加工科の先輩に教えてもらってベーコンにする。大量の豚肉をタコ糸で巻いて燻すその画面は「喪の仕事」のように見える。そしてそれを学校の生徒や先生方とおいしくいただく。まさに理不尽の味だ。
「銀の匙」というタイトルは、その高校の食堂の入口に飾ってあって、時折校長が磨いている銀のスプーンにちなむ。銀の匙をくわえて生まれた子供は、一生食べるに困らないという言い伝えに基づくものだが、校長はそのことを八軒くんに話したあと「……そう願いたいものです」とつぶやく。農家に生まれたら食べるに困らないというわけではない現実がある。
 映画で銀の匙についての由来が説明されたそのあとに、親の経営する農場が倒産して離農し、高校も中退する同級生の話が出て来る。そういえば、バイト先農場の同級生の家から、隣家であるその同級生の家まで4キロあるのだが、その間に、昔に離農したと思しき別の廃屋の映像も画面に入る。
 親の仕事を尊敬し、中学を出る時点で後継者となる決意をしている子供たちに、食べるに困るというようなことが起きるということは何と理不尽なことか。
 友情、努力、勝利のテンプレートと、現代日本の農業の抱える諸問題を同時進行で見せてくれる映画であるなあ、と思いながら、帰宅したのでありました。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする