きらく堂日記

鍼灸師の喜楽堂が日々の出来事、過去の思い出、趣味にまつわる話などを綴った日記帳(=雑記帳)です

実践刀法研究(2)三十郎vs半兵衛の決闘シーンの??

2012年06月28日 | 居合・日本刀
黒澤明監督の「椿三十郎」のラストでの三十郎と半兵衛の斬り合いについて・・・

Why?その1:なんであんなに接近した間合いになったのか?

 あの間合いは斬り合いをする間合いではない。通常斬り合いでの間合いは二足一刀か一足一刀、つまり二歩踏み込むまたは一歩踏み込んで刀の届く距離が最短距離となります。あの間合いは斬り合いをするには近すぎる。殴り合いや組討の間合いですし、脇差や匕首で刺す間合いです。

 若侍達に聞こえないように、ヒソヒソ話をする風を装って、懐手でずかずかあの間合いに踏み込んだのは三十郎であり、三十郎はその間合いで斬り合える手段を持っていた訳で、意表を突かれて、というか つられてその間合いを許した時点で半兵衛の負け!なわけで、なんでそんな間合いを許したのか理解できません。出会い頭の斬り合いではないのですから、言ってみれば士道不心得ですね。

充分な間合いをもって抜刀するのが立合いの基本です。


Why?その2:半兵衛はなんで羽織袴をぞろりと着こなしたままで斬り合ったのか?

 あの場所で待ち構えていて、斬り合いを挑んだのは半兵衛の方であり、その割には斬り合いの準備がまったくなされていません。羽織は脱ぐべきですし、下緒での襷がけや汗留めの鉢巻は必須です。
 斬り合いに着物の袖がいかに邪魔なものかは居合いをやってる人なら分かっています・・・自分の刀の柄が袖にひっかかる時がある。刀を振りかぶる時に袖で視界がさえぎられる時がある・・・演武会で抜刀の時に袖を引っ掛けて左手を切ったのを見たことがあります。

 また足さばきを良くするため、袴の股立も取るべきでしょう。あのタコ頭に鉢巻は似合わないので良いとして、ほんとに勝ちたいなら新撰組のように鎖帷子は着込むべきでしょうネ・・・この点で半兵衛はやっぱり士道不覚悟。新撰組なら切腹ものですネ。冷静沈着な策士である半兵衛が「俺を、コケにしやがって(怒!)」と顔を引きつらせて情動に流れた時点で勝負ありでしょう。

Why?その3:なぜ半兵衛は真っ向斬り下ろしにいったのか?

 抜刀の命はスピードであります。従って鞘走った刀の運動方向を変えずに抜きつけの勢いを活かして、そのまま斬ってしまうのが基本です。一旦刀を身体に引き付け、上方に抜き上げてから、頭上で方向転換をし、両手で握ってから真っ向に斬り下ろす刀法では、抜く動作と斬る動作が不連続となるため、どんなに早く動作しても抜刀としては遅い技になります。

さらにあの場合には間合いが近すぎるため、半兵衛はほとんど足を動かしておらず、あたかも据物斬りや試し切りの土壇斬りのように、足を踏ん張って、腰をおとして全力で斬り下ろしていますので、二の太刀の動作に移行できません。

 ある意味で一撃必殺の技ですが融通無碍の刀法ではありません。言ってみればどうとでもなれの技であります。実際には殴ってしまう、組み付いて脇差で刺してしまう、脇差で片手逆袈裟に斬り上げる、左足を大きく引いて間合いを広げると同時に大刀で片手逆袈裟に斬り上げる・・・などが考えられますが。映像的には地味過ぎて面白くないかもね。

Why?その4:ほんとに左逆手で刀は抜けるのか?

 すばやく抜刀するためには鞘がしっかり腰間に固定されていることが必要であり、さらには鞘引きすることで早く強い抜刀が可能となります。両手を垂らした状態からいきなり左手で柄を握り、鞘を返して、上方に抜刀するなどは、不合理、不可能といって良いでしょう。何時、鯉口を切ったのでしょう。否、すでに鯉口を切って落とし差しに刀をさしていた・・・としても、2尺3寸5分を定寸とする刀を左手で抜くのは、大村昆の「とんま天狗」だけでしょう(古い!!!古すぎる、白黒テレビの時代の人気番組!!)。

 実際、三船敏郎も抜けなくて、あのシーンだけかなり短い刀を使用したと言われています。ついでに、あの場合 左手は刀を抜くだけで、けして左手で斬っている訳ではありませんね。フィギュアからも分かるように、左手は抜いたあと肘をまげ、こぶしを左肩口まで引きつけて、これを支点として、右手を峯に添えて押し切っていますが、現実的に無理な斬り方ですね。

Why?その5:血潮はなぜ半兵衛の正面に噴出したのか?

 三十郎の斬り方でいけば、刃は半兵衛の右腹部から入って、上方に斜めに走って右背部に抜け、肝臓だけでなく腹大動脈まで切断したのでしょう。傷口からすれば血潮は半兵衛の右横に噴出すはずで、三十郎はその血をたっぷり頭から浴びることになりますね。

前方に出た血しぶきは、あくまで映画としての作り事ですね。さらに云えば三十郎は斬ってから半兵衛が倒れるまで斬り終えた姿勢のままでいますが、これも変ですね。通常は一の太刀をあびせたらすぐさま二の太刀の揮える位置に移動するのが定法です。

以上、勝手なことを書きましたが、映画はあれこれ考えずに右脳で見たほうが良いようですね。現実ではなく芸術なのですから。兎にも角にもあのシーンは最高でした。はい。

<戸山流居合道>
<鍼灸マッサージサロン・セラピット>

最新の画像もっと見る

コメントを投稿