夜窓より ☆私の考えなり流儀なり☆

日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』に連載中の教育への雑感をまとめておきます。夜間定時制高校の教師の視点です。

理想の学校作りへ 2

2015年02月07日 | 教育

≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
 『中・高校教師用ニュースマガジン』(中高MM)☆第3296号☆
                   2015年1月14日:水曜日発行
   編集・発行 梶原末廣     sukaji@po.synapse.ne.jp
  http://www.synapse.ne.jp/~kanoyu/sukaji/index.html
http://www.synapse.ne.jp/~kanoyu/kyoushi/index.html
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
=====★☆INDEX★☆============================================================
■「理想の学校作りへ」(2)瀬尾公彦(愛知県)
==================================================◆◇========================

【連載】
 

■「理想の学校作りへ」(2)


     瀬尾 公彦(愛知県)
     seo@ksn.biglobe.ne.jp


9月1日が最初の授業であった。生徒は超初心者のAさんとまあ初心者のB
さん。そこに大学院に通う通訳の女性のCさん。場所は彼らの住むアパート。
当初2時間くらいという話で始めたが、初日から結局2時間半となり、以後
も2時間半を目処に授業が継続されている。2時間半、あっという間。毎回
時間は足りないのである。私の勤務時間外の金曜日の午前中で、彼らもその
時間は日本語勉強が優先であり仕事は免れる。技能実習生は就労時間に制限
があるのでそこは無理のないことであるらしい。

最初の授業まで、本を読むのが武器の私は、日本語関係の本を何冊か買い込
み、いくつかの図書館で本を借りまくり、一夜漬けの感じで、外国人への日
本語教育の内容とはどのようなものであるか次第に感触をつかんでいった。

最初に考えたのは、授業の位置づけである。例えば漢字を覚えるのはこれは
わざわざ授業でやる必要はなく、週に一度の授業ならではの内容を考えなけ
ればと言う事である。そして、まず相手の実力を計ることと、相手にこの勉
強を意味のあることと認識させて、更に楽しいと感じさせること。何よりも
私という人間の認知のようなところ。この辺りは夜間定時制高校のノリでな
んとかなるかなぁという感じであった。

本などのマネではなく、やはりオリジナルな教材で手探りしようと、まず最
初に行ったのは「千と千尋の神隠し」のDVDを見せて、その内容を日本語
であらすじを述べさせるというものであった。そして、その事を私と会話練
習した。今から思えば、私の要求水準は高すぎて、Cさんの力を借りつつ、
力業で何とか成立したという印象である。次に、ドラえもんの漫画の一話の
あらすじを日本語でどういう内容か書かせるということをやった。ドラえも
んは彼らも良く読んでいて、身近なものであり、そのような会話のやりとり
をしたのを覚えている。彼らは興味をもって取り組んだが、単語の意味がわ
からず、辞書を引きながらの理解なので、彼らにとっては私が考えていた以
上の難解さであった。そこで、今後は宿題として一週間に一話漫画を渡して、
あらすじを書かせると言うことをやった。

彼らが自ら勉強しているテキストの、「みんなの日本語 ベトナム語版」の
内容を見つつ、彼らが一週間で学ぶことを理解していった。この日私が宿題
として課したのは、5つある。1.毎日書く日記。2.ドラえもんのあらす
じ3.連絡帳4.漢字ノート5.天声人語の書写 やらせてみて、結果から
言えば、4,5は難しすぎて全く手が出ず、3も1で精一杯でできず。何と
か毎日の日記とドラえもんができたという感じであった。彼らは本当によく
勉強する。時間的にも集中力も日本の受験生を越える印象がある。日記はこ
の9月1日から現在まで一日も欠かさず書いており、授業の際、その1週間
分の添削をする。ドラえもんは慣れるにつれて随分わかるようになった。た
とえば、日本語のわからないところはベトナム語で書いておきなさいと言う
指示を出して、Cさんの力を借りて説明していったりした。

ただ初日から超真面目超緊張の彼らに対して、定時制の無表情な生徒達に対
してもふざけ続けるパワーを持つ私の力が発揮でき、なかなかフレンドリー
な関係ができて、個人的には非常に楽しく初日の授業を終えることができた。
翌週の二回目の授業ではカルタをやったり、私がドアを開けて入ったところ
から、会話を続けていきなり練習させた。Aさんは「おはようごじゃいます」
と「ざ」がうまく発音できず何度も繰り返し練習した。彼らの話ではベトナ
ムの日本語学校の先生がそう発音していたという。ベトナム語との関係で、
この「ざ」と「つ」がうまく発音できない特性があるという。「つ」は「ちゅ」
という感じとなる。Cさんの話では現地での日本語学校の実情はレベルが低
いという話であった。発音について言えば、教師が日本人で普通に発音でき
ることだけでも価値があるのだと言うことがわかった。
 
その後の授業では、例えば「神は細部に宿りたまう」という言葉を説明しな
がら、日本文化の小さいものや些細なことのこだわりなどについて、私の所
有していた螺鈿のからくりの小箱や、江戸時代の矢立てなどを見せて彼らの
興味を引いた。又「泣くなはらちゃん」というドラマの挿入歌の「私の世界」
という歌を聞きながら説明をした。「世界中の人に降参させ戦う意志はない」
というような歌詞を取り上げながら、彼らと平和について話したりした。宿
題として、Cさんがカラオケで歌うと話していた「世界で一つの花」の意味
を調べるように指示した。当初は毎回歌を流しながら授業を進めた。更に広
重や北斎の浮世絵を持っていき一緒に鑑賞した。授業の最後に「ババ抜き」
「神経衰弱」などのトランプをやり、少しトランプのマジックを披露したり
もした。そして毎時間、必ず会話の時間をとった。例えば、ベトナムに来た
日本人に観光の案内をするなどの、設定をして行った。パソコンでその風景
の画像を見ながらの楽しいものとなった。

そのようにして、幸いにも彼らも私も金曜日の午前中が楽しみになっていっ
たのである。



==============================================================================

===編集日記=== 
  皆様に支えられて「日刊・中高MM」第3296号です。

 瀬尾公彦さんの「理想の学校作りへ」、お届けします。

・例えば「神は細部に宿りたまう」という言葉を説明しながら、日本文化の
 小さいものや些細なことのこだわりなどについて、私の所有していた螺鈿の
 からくりの小箱や、江戸時代の矢立てなどを見せて彼らの興味を引いた。

 通常のテキスト入門書のような類書よりも、それぞれの成長段階に応じた
 展開で興味深い。また、その意欲はさらに高まることは間違いないようだ。
 さらに連載が楽しみになっている自分がいる。
 
       皆様のご意見・ご感想お待ちしています。
       sukaji@po.synapse.ne.jp
       梶原末廣【インターネット編集長】