夜窓より ☆私の考えなり流儀なり☆

日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』に連載中の教育への雑感をまとめておきます。夜間定時制高校の教師の視点です。

「夜窓より」(21)

2012年08月02日 | 教育
「夜窓より」 (21)

瀬尾 公彦(愛知県)
seo@ksn.biglobe.ne.jp

(海外修学旅行の話 1)

先回予告したようにかつての学校での遊び心的な「実践」について書いて
みたい。定時制の修学旅行は学校によって異なってくる。ない学校さえある。
修学旅行だけでなく、体育大会、文化祭、球技大会など全日制高校のように
当然あるだろう学校行事さえも学校の特色のうちで運営方法は様々である。
 その理由は生徒数の少なさや、どちらかというと集団指導に見合わない生
徒達の特色、それを言い訳に出来てしまう教員側の楽を求めてしまう心性な
ど様々である。
 夜間定時制の生徒達に社会的に求められるのは、全日制以上に単に学力で
はない。社会性や自律性、「人間」として生きていく為に必要な何とか。そ
こから考えると、授業以外の活動こそが重要になってくるが、意外とそうは
なっていない制度であることが少なくはない。単に「問題」が起きずに時間
が過ぎていくことが優先される価値観である。

 さて、職員と言っても10人そこらの教員集団である。大まかな言い方を
すれば、その当時、割合、生徒の「教育」に熱心な先生方が集まっていたと
言える。修学旅行は各学年が生徒達の声を聞きつつ、行き先も決めて行って
いた。ちょうど私が2年生の担任をしていたときに、規制緩和の一環であっ
たか新聞に「愛知県、修学旅行、飛行機利用可」みたいな新聞記事が出た。
修学旅行は三年卒業制度以降、3年生に設定している。学年と言っても私の
クラス1クラスである。最初は長野にスキー旅行を計画していたが、可能な
らばと言うことで飛行機利用を検討した。旅行代理店と折衝すると、経費的
にも見合うということで、沖縄に旅行先を変更した。初めて飛行機に乗る生
徒も少なくなく、向こうではグループでタクシーを利用しながら生徒達も大
満足の修学旅行となった。他の学校の先生方からもしばらく問い合わせがあ
り、次第に愛知県内の定時制高校の修学旅行の行き先は沖縄が増えていくこ
とになる。

 さて、今回の話はそれから4年後の話である。上記の年から沖縄の修学旅
行が継続していたが、これも又何かの縁で「愛知県、修学旅行、海外旅行可」
という発表があった。最初は冗談で「修学旅行、海外にしてみたら」と同僚
に言われたが、「面白そうだな」と言うことで現実に検討し始めた。ただし
沖縄の時とは異なりいくつかのハードルがあった。思い出すままに書けば、
①経費の問題 ②パスポートの問題(外国人生徒の存在)③どこに行くか
④どのような内容で行くか、などなどまずは自分の中でいろいろと検討し始
めた。

そして、学校内で了承を得て、教育委員会に提出した趣意書である。

平成14年度 修学旅行企画趣意書
      
①定時制高校における学校行事の捉え方
 学校行事の捉え方は各定時制高校様々である。修学旅行、体育大会、文化
祭、球技大会、その他、実施の有無、内容とも、各学校によってまちまちで
ある。独断を恐れずに言えば、学校行事に力を入れない学校、年度ほど、生
徒の学校帰属意識は希薄となり、学校の定着率も落ちるようである。
 実際、集団指導の伴う学校行事は、教職員にとって、かなりの負担にはな
る。定時制は教職員数も少数のため、分掌の仕事の配分等も多く、それを言
い訳としつつ、行事の「精選」と言う名目のもとに、ややもすると行事がみ
るみる消えていく学校もある。教職員の意識が学校のあり方や生徒のあり方
から離れ、教職員自身の苦楽に移るとそういった傾向が出てくるように思え
る。逆もまた真である。教職員が学校行事、生徒会活動、部活動など、力を
入れれば入れるほど、学校は活性化し、生徒の学校に於ける活躍の場所が拡
大する。授業の縦糸に、このような横糸が絡んでいくことによって魅力ある
学校が織りあがっていく。

②定時制生徒の特質について
 ご存じのように、現在、定時制高校には大きく三つの種類の生徒が通学し
ている。まず一つ目は、小、中学校時代のいわゆる長欠の不登校生徒たち。
(理由はメンタルの問題から、非行まで様々であるが)二つ目は全日制、通
信制などの不合格者を含め、低学力の生徒たち。そして最近増加傾向にある
他校からの転退学を経験した再起組たち。若干の例外はあるが、大半はこの
三つの流れの中にあてはまると思われる。そして共通して言える事は、ある
種の敗北感、劣等感と、定時制高校に通学していることの負い目の意識であ
る。親や周囲の意識が強く反映している場合も少なくない。入学時、この意
識を強く持って入学してくる生徒が、現実の学校生活での学習を契機に、そ
こを乗り越えていく手助けを教職員がしていくことになる。生徒個人個人で
見れば、自分の場所を得て、自信を回復(?)しつつ、やがては自分の所属
する学校に誇りを持てるようになることで、劣等意識を少しでも払拭してい
く、と言うところを教職員側は企図する事となる。

③本校に於ける修学旅行の意味と現状
 さて、学校嫌いの風潮の中、幸い本校の生徒の何人もが「学校は好き」
「学校に来るのは楽しい」と言ってくれる。友人や教職員と関わりを持ちな
がら、「学校」という小社会に、自分の生きる場所があることがそう言わせ
ていると推測できる。
4年生の現代文の授業で、例年卒業を前にして全員に、原稿用紙15枚程
度書かせている。一人一人の文を読むと、いかに彼らの人生の中で、この学
校生活が重要であったかが伝わって来る。その中でも楽しい思い出として、
多くの者があげるのが修学旅行なのである。小中学校時代を「つまらんかっ
た。」の一言で片づけて。延々と修学旅行について楽しげに書き続けた生徒
もいる。高校時代から漸く薄日の射してくる感の生徒もやはり少なくない。
愛着ある学校生活の象徴としての修学旅行が、浮かび上がってくる。
しかし、引っ込みがち、面倒くさいことのいやな生徒を修学旅行に連れて
行くことは、なかなか大変である。「行かないといくら戻ってくるの?」と
言う質問から、例年、担任は、修学旅行に向けての戦いが始まる。行ってし
まえば、「先生、楽しかったわ。」と言うことになるわけだが、目先の返金
に不参加を決め込む生徒もいる。実際、観光旅行に殆ど行ったことのない者
や、飛行機に乗ったことがなく、乗るのが怖いから行かないと言う生徒まで、
多種多様の生徒がいて、毎年思わぬ気遣いが必要となる。

④平成14年度修学旅行企画の目的
そのような実状をふまえつつ、より魅力、特色ある学校作りを念頭に置いて、
海外の修学旅行を企画してみた。安全性、学習の場としての適正、気候、費
用など様々な面から総合的に検討した結果、目的地はグアム島(アメリカ)
とした。以下順を追って、企画意図をご説明したい。

 a 国際人としての自覚を身につける
国際化時代の流れは、定時制生徒においても免れない。外国の風俗、習慣等、
知見を深める事を通じて、国際人としての教養を育成する。
 b 世界の人々と交流することで自信をつける
ややもすると、日本の中においても、意志表示の苦手な生徒たちに、海外と
いう一過性の場を得て、自ら他者へ関わっていく積極性を養う契機とする。
今後、可能であれば、現地高校とのスポーツ交流(バスケットボールの試合)
を計画したい。
c 英語学習
日本に最も近い英語圏であるグアムにおいて、日常学習している英語力を試
し、学習することの意味と有効性を再確認させる。
 d 平和学習
1941年より44年までの日本占領時代の歴史を平和記念公園等を見学す
ることを契機に、戦争と平和についての学習を深める。
 e歴史学習
16世紀にマゼランに発見される以前より存続していた先住民のチャモロ族の
4000年の歴史を持つ文化に触れ、その後、スペイン領としての文化と融合さ
れた独特の文化や生活習慣を学ぶ。
 f生活体験
地元のスーパーマーケットなどで、グアムに住む人々の日常生活を学び、物
価の違いなど、日本と異なる文化、生活習慣に触れることで、日本と言う国
のあり方を外から再認識させる。
 g社会的な制度、きまりを学習する
海外に旅行するための渡航手続き、両替等の仕組みを自ら行うことを通じて、
社会的な制度を学習する。
 h自然に親しみ、自然の中で体を動かす喜びを知る   
広大なミクロネシアの海、熱帯の自然の景色に触れ、その中でアクティビィ
ティを楽しみつつ、日常、体育等の苦手な生徒たちも体を動かすことの爽快
感と喜びを学習する。また、日本と異なる気候や景色についても学習する。
 i 学校生活の感動的な思い出とする
3泊4日という期間を友人たちと海外にて過ごすことにより、友情を深め、
生きていく上で励みとなる、一生心に残る思い出とする。

⑤旅行に関わる予想される諸問題
a 安全性の問題
治安の良いとされるグアムではあるが、交通、宿泊、食事など事前対策とし
て安全性を優先して選択し、最新の安全情報を入手しつつ、緊急の場合の対
策も現地旅行代理店と24時間体制で連絡のネットワークを構築する。文部
省の「修学旅行における安全確保の徹底」に関する通達の遵守を基本とする。
なお、参加者全員、海外旅行参加者保険、並びに海外航空機欠航補償保険に
費用の内側で加入し、病気や不測の事故など万が一の事態にも万全の体制で
臨めるように配慮する。
b 費用
県基準を守り、その中でも無理のない設定に心掛ける。概算として、国内旅
行を想定して現在徴収している学年積立金との不足分は、約1万5千円と想
定される。これを平成14年度の学校徴収金として月額1000円程度を目
途に増額し、その不足分は4月に徴収する。これについては、正式に決定次
第、各関係者の了解を得る努力をする予定である。保護者並びに生徒に関し
ては、無理のない範囲として了解が得られそうである。
 c事前指導
実施の約一年前よりできるかぎり早めに継続して事前指導に取り組む。でき
る限り詳細に旅行に行くための手続きや現地での必要な知識等の学習を深め
ていく。

⑤修学旅行日程表について (日程表補足)
☆1日目
 9時     名古屋空港集合
 11時10分 名古屋空港発
 15時45分(現地時間)グアム到着 (所要時間3時間35分)
          専用バスにて、ホテルへ
ホテル到着後、設備利用等の確認、諸注意。
18時 ポリネシアンディナーショー
   (代理店の予定では2日目となっておりますが、変更予定です。)
     現地先住民族のダンスを見ながら食事をします。 

☆ 2日目
 この日は、歴史、平和教育に役立つ名所旧跡をまわります。
細かい日程は今後検討しますが、ホテルにて朝食後、バスで団体行動します。
午後2時頃までに、見学をして、有志でも良いので、現地の高校へ赴き、ス
ポーツ交流等をしたいと思います。途中。マイクロネシアモールにて、昼食
を挟んだ自由時間を設定する予定です。ホテルに戻ったら、休憩させつつ、
夕方から班行動で、ホテルの前の海辺で落日の景色を楽しんだり、安全性の
高い、タモンの街を散策します。

☆3日目
 ホテルにて朝食後、PIC(会員制の総合スポーツリゾート)にて終日、体
験学習。熱帯魚とともに泳げる水族館や公認資格を持つインストラクター
の指導のもとの体験ダイビングなどのウォータースポーツ、陸上のスポー
ツなど30種類以上のアクティビティを外国人と交流しつつ体験する。敷
地は11ヘクタールと広大であるが、各アクティビティにはそれぞれ専門
のスタッフがつき、安全である。昼食も敷地内にて費用に含まれている。
午後5時までこの施設で体験学習し、その後ホテルに戻り、荷物の整理等
翌日の出立の準備をし、班行動にて、タモンの街の散策。

☆4日目
 午前5時  起床 
5時半 ホテルを出発し空港へ
7時半 グアム国際空港出発
10時10分(日本時間)名古屋空港到着
空港にて解散式

実際は交渉していく過程において、現地の学校との交流の内容など変化し
ていったが、このようにしてスタートしていったのである。

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 僕の目の前に小さな空洞がある
 この空洞は僕の作品とも言える
 僕はただ
 頭に来て
 キレて
 壁を殴っただけだ
 とうさんやかあさんに
 説明する言葉を僕は持っていない
 ただ
 こういう暗黒の世界に
 通じてしまうような空洞が出来るとは
 全く思ってはいなかった
 この空洞は空洞として
 僕は生きていくしかない
 1年半くらいまえから僕は調子が悪い
 でも僕はこの空洞と
 もう一つ階段の横に作った空洞とを
 併せもって
 静かに静かに生きて行きたいと思う 
 
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