「夜窓より」 (18)
瀬尾 公彦(愛知県)
seo@ksn.biglobe.ne.jp
桜の遅かった4月も漸く終わろうとしている。何かと大事な4月である
が、何とインフルエンザB型にかかり、土日を挟んで5日自宅でじっとし
ていた。学校で見ると3日間休んだわけであるが、微妙に出遅れ感があ
る。目には見えにくいところなのだが、例えば野球部の新入部員につい
て言えば、入学式からずっとめぼしい一人一人に声をかけ続けて、少し
ずつ集まってきた矢先であったので、戻ってみると結局2人だけが続い
ている状態になっていた。そこからまた声をかけたり、誘わせたりして
、漸くまた少しずつ増えてきた。ただし、最初は不慣れな学校生活やア
ルバイトを優先させて大目に見ていたが、この時期に来て「毎日来てし
っかりやるなら続けなさい。できないならやめなさい。」と言うことで
迫って、一人一人微妙な均衡状態にあるが、(簡単に言えば、今夜やめ
るというかもしれない生徒もいる)結果として、通常より多い7人が入
ってきている。
ただし中には、まだ私の授業に一度も出席して事のない、休み癖の既
についている者たちもいて、昨夜も「おまえたちがみんな続いて4年生
になったら強いチームになるぞ。まず絶対に学校続けろよ。授業きちん
と出ろ。」みたいな話をしたところである。
野球部の話を続けたい。そう言う新入生なので、とにかく部活動に来
たら、それなりの楽しさも味わわせなければ続きはしない。全日制のよ
うな、一年生だからと言って球拾いばかりをやらせるという事をしてい
れば、間違いなくやめていく。そこでバッティング練習もノックも上級
生と一緒にやる。練習試合をやれば、現在総勢18名なので(多い!)
打順を13番まで設定して、一年生を二人一組にして、13番目が来た
ら、順番に打たせると言うような工夫をする。守備はなかなか難しいが
それでも2回レギュラーが守ったら、1回は控えの選手が守る、という
ように少しでも多くの生徒が参加できるような工夫もする。
全日制やあるいは少年野球でさえ、当たり前の事が、当たり前には行
かない。例えば一緒に顧問をしている、高校時代に野球部のマネージャ
ー経験のある顧問の養護の先生と話していて、「なんでグランド整備を
手伝わないか理解に苦しむ。」というような話を聞いたのだが、普通の
野球部では当たり前のことが定時制ではなかなか指導するのに力がいる。
現在の状況を簡単に話すと、練習場はグランドではなく、学校の校庭
である。マウンドもなければバックネットもない。整備用のトンボは、
全日制の都合でその場所に3から6本くらいが置いてある。練習が終わ
ると円陣を組んで私が話をして声を出して終わる。もう一人の顧問の先
生が何も言わずに簡単にマウンド中心に整備を始めてくれる。そこへ下
級生(現2年生)3人、そして気の良い先輩が手伝う。という感じであ
る。新入生が来たので今は新入生も手伝う。そう言う作業をさぼる生徒
もいる。部室なども汚れていき、次第に足の踏み場もなくなる。
客観的に見れば、夜間定時制には、ある種の秩序感覚や倫理観の欠如
している者も少なくはない。中学校で見るとやはりある種の偏りのある
生徒達であるのであろう。家庭環境や嫌らしい話であるが親の年収など
も決して恵まれていない。場合によってはDVの経験している生徒もいる
し、育児放棄に近い幼児期を送った生徒もいる。しつけの部分を満足に
受けてない者もいる。
その養護の若い先生と雑談していて、「何か彼らが野球の楽しいとこ
ろだけをやって、そうでないところをさぼるのはおかしいですよね。」
というような言葉を聞くと、それはなるほどそうだな、と思ってしまう。
グランド整備や部室の整理などまで力が及んでいないのが現実である。
ただもっと正確に言えば、私が少し強い言葉で、それらを強制的にすれ
ば、たとえばその物事だけはきちんとすると思われる。自問してなぜそ
うしないのかと考えたときに、なかなかすっきりしたかっこよい言葉は
出てこないのであるが、それは問題だなあという意識はあっても、私の
中に更に優先すべき物事があるのである。たぶん、野球なりグランド整
備という物事よりも人間の部分に焦点があっているのであると思う。形
としての結果よりも、むしろプロセスに拘る教育観がある種の秩序感覚
を後回しにさせているのであろう。
その話をした日に、転勤してきた別の先生と話していてしきりに「彼
らはえらいですよね。」と言う話を聞いた。いろいろと話したが、ここ
では一点、授業料の話。民主党の授業料無償化も定時制においては、授
業料は二千円くらいで、その他の学校徴収金はあまり変わらず、学年に
よって、給食費など、六千円から一万円弱の徴収金がある。少なくない
生徒達が、自分のアルバイト代からそのお金を支払う。延滞して注意さ
れると、「25日まで待って。バイト代出るから。」と言うようなやり
とりをする。彼らは殆どが15才~20才前後の高校生である。全日制
の生徒でたとえアルバイトをしていても、自分のお金で授業料を払う生
徒は稀であろう。私自身、大学の授業料まで、何の疑問もなく親に支払
わせて当然の意識でいた。多くの者がそうであろう。確かにこの点に関
しては彼らはえらい。
さて、大学まで親の金を出して当然という意識であった教師が、ある
種の倫理観の欠如している彼らに注意をするという構図である。彼らに
敬意を表しつつも、だめなことはだめと教えるのが我々の仕事である。
「おまえら、親に甘えて、親から子供の時にしっかり教えられているく
せに、えらそうに威張るな。」とか言う幻の声を聞きつつ、進むしかな
いのである。
今までどちらかというと放置していたグランド整備や部室の事に関し
て、今考えている道筋は、何かを大事にする、大切にする。と言う道筋
である。まずは自分を大切にする。自分の彼女を大切にする。自分の原
付なり、車を大切にする。一生懸命やっている野球を大切にする。仲間
を大切にする。グローブを大切にする。練習したグランドを大切にする。
今晩そう言う話が出来ればと思う。
***************************
あんたシンナーはもうやめときいよ
あたしが十年前にこの学校に最初に来て退学したころ
あたしの目の前で、友達死んじゃったの
あんたの気持ちもすごくわかるけど
あの頃やっていた仲間で
何もなっていない子 一人もいないのね
失明した子もいるし、幻覚や幻聴の子もいる
あたしだって、今になっても精神的に落ち着かない
その時は全然わからなかったけどね
でもね、でもね
本当に、もうやめとき
自分かわいかったら、やめとき
絶対に苦しむから
100%苦しむから
今やめたら、少しでも早くやめたら
その分影響少ないから
あたしは十年後のあんただから
本当にもうやめとき
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瀬尾 公彦(愛知県)
seo@ksn.biglobe.ne.jp
桜の遅かった4月も漸く終わろうとしている。何かと大事な4月である
が、何とインフルエンザB型にかかり、土日を挟んで5日自宅でじっとし
ていた。学校で見ると3日間休んだわけであるが、微妙に出遅れ感があ
る。目には見えにくいところなのだが、例えば野球部の新入部員につい
て言えば、入学式からずっとめぼしい一人一人に声をかけ続けて、少し
ずつ集まってきた矢先であったので、戻ってみると結局2人だけが続い
ている状態になっていた。そこからまた声をかけたり、誘わせたりして
、漸くまた少しずつ増えてきた。ただし、最初は不慣れな学校生活やア
ルバイトを優先させて大目に見ていたが、この時期に来て「毎日来てし
っかりやるなら続けなさい。できないならやめなさい。」と言うことで
迫って、一人一人微妙な均衡状態にあるが、(簡単に言えば、今夜やめ
るというかもしれない生徒もいる)結果として、通常より多い7人が入
ってきている。
ただし中には、まだ私の授業に一度も出席して事のない、休み癖の既
についている者たちもいて、昨夜も「おまえたちがみんな続いて4年生
になったら強いチームになるぞ。まず絶対に学校続けろよ。授業きちん
と出ろ。」みたいな話をしたところである。
野球部の話を続けたい。そう言う新入生なので、とにかく部活動に来
たら、それなりの楽しさも味わわせなければ続きはしない。全日制のよ
うな、一年生だからと言って球拾いばかりをやらせるという事をしてい
れば、間違いなくやめていく。そこでバッティング練習もノックも上級
生と一緒にやる。練習試合をやれば、現在総勢18名なので(多い!)
打順を13番まで設定して、一年生を二人一組にして、13番目が来た
ら、順番に打たせると言うような工夫をする。守備はなかなか難しいが
それでも2回レギュラーが守ったら、1回は控えの選手が守る、という
ように少しでも多くの生徒が参加できるような工夫もする。
全日制やあるいは少年野球でさえ、当たり前の事が、当たり前には行
かない。例えば一緒に顧問をしている、高校時代に野球部のマネージャ
ー経験のある顧問の養護の先生と話していて、「なんでグランド整備を
手伝わないか理解に苦しむ。」というような話を聞いたのだが、普通の
野球部では当たり前のことが定時制ではなかなか指導するのに力がいる。
現在の状況を簡単に話すと、練習場はグランドではなく、学校の校庭
である。マウンドもなければバックネットもない。整備用のトンボは、
全日制の都合でその場所に3から6本くらいが置いてある。練習が終わ
ると円陣を組んで私が話をして声を出して終わる。もう一人の顧問の先
生が何も言わずに簡単にマウンド中心に整備を始めてくれる。そこへ下
級生(現2年生)3人、そして気の良い先輩が手伝う。という感じであ
る。新入生が来たので今は新入生も手伝う。そう言う作業をさぼる生徒
もいる。部室なども汚れていき、次第に足の踏み場もなくなる。
客観的に見れば、夜間定時制には、ある種の秩序感覚や倫理観の欠如
している者も少なくはない。中学校で見るとやはりある種の偏りのある
生徒達であるのであろう。家庭環境や嫌らしい話であるが親の年収など
も決して恵まれていない。場合によってはDVの経験している生徒もいる
し、育児放棄に近い幼児期を送った生徒もいる。しつけの部分を満足に
受けてない者もいる。
その養護の若い先生と雑談していて、「何か彼らが野球の楽しいとこ
ろだけをやって、そうでないところをさぼるのはおかしいですよね。」
というような言葉を聞くと、それはなるほどそうだな、と思ってしまう。
グランド整備や部室の整理などまで力が及んでいないのが現実である。
ただもっと正確に言えば、私が少し強い言葉で、それらを強制的にすれ
ば、たとえばその物事だけはきちんとすると思われる。自問してなぜそ
うしないのかと考えたときに、なかなかすっきりしたかっこよい言葉は
出てこないのであるが、それは問題だなあという意識はあっても、私の
中に更に優先すべき物事があるのである。たぶん、野球なりグランド整
備という物事よりも人間の部分に焦点があっているのであると思う。形
としての結果よりも、むしろプロセスに拘る教育観がある種の秩序感覚
を後回しにさせているのであろう。
その話をした日に、転勤してきた別の先生と話していてしきりに「彼
らはえらいですよね。」と言う話を聞いた。いろいろと話したが、ここ
では一点、授業料の話。民主党の授業料無償化も定時制においては、授
業料は二千円くらいで、その他の学校徴収金はあまり変わらず、学年に
よって、給食費など、六千円から一万円弱の徴収金がある。少なくない
生徒達が、自分のアルバイト代からそのお金を支払う。延滞して注意さ
れると、「25日まで待って。バイト代出るから。」と言うようなやり
とりをする。彼らは殆どが15才~20才前後の高校生である。全日制
の生徒でたとえアルバイトをしていても、自分のお金で授業料を払う生
徒は稀であろう。私自身、大学の授業料まで、何の疑問もなく親に支払
わせて当然の意識でいた。多くの者がそうであろう。確かにこの点に関
しては彼らはえらい。
さて、大学まで親の金を出して当然という意識であった教師が、ある
種の倫理観の欠如している彼らに注意をするという構図である。彼らに
敬意を表しつつも、だめなことはだめと教えるのが我々の仕事である。
「おまえら、親に甘えて、親から子供の時にしっかり教えられているく
せに、えらそうに威張るな。」とか言う幻の声を聞きつつ、進むしかな
いのである。
今までどちらかというと放置していたグランド整備や部室の事に関し
て、今考えている道筋は、何かを大事にする、大切にする。と言う道筋
である。まずは自分を大切にする。自分の彼女を大切にする。自分の原
付なり、車を大切にする。一生懸命やっている野球を大切にする。仲間
を大切にする。グローブを大切にする。練習したグランドを大切にする。
今晩そう言う話が出来ればと思う。
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あんたシンナーはもうやめときいよ
あたしが十年前にこの学校に最初に来て退学したころ
あたしの目の前で、友達死んじゃったの
あんたの気持ちもすごくわかるけど
あの頃やっていた仲間で
何もなっていない子 一人もいないのね
失明した子もいるし、幻覚や幻聴の子もいる
あたしだって、今になっても精神的に落ち着かない
その時は全然わからなかったけどね
でもね、でもね
本当に、もうやめとき
自分かわいかったら、やめとき
絶対に苦しむから
100%苦しむから
今やめたら、少しでも早くやめたら
その分影響少ないから
あたしは十年後のあんただから
本当にもうやめとき
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