夜窓より ☆私の考えなり流儀なり☆

日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』に連載中の教育への雑感をまとめておきます。夜間定時制高校の教師の視点です。

「遠景のモノ語り」(7)

2022年07月15日 | 教育
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■「遠景のモノ語り」(7)瀬尾公彦(愛知県) 
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【連載】

■「遠景のモノ語り」(7)

     瀬尾公彦(愛知県)
     seo@ksn.biglobe.ne.jp


*さるぼぼのストラップ*

 

5月に入り、近県の旅行の割引きの「県割」が始まり、週三日

勤務、毎週ゴールデンウイーク状態の私は旅三昧の日々である。

簡単に書けば、1万円が実質3千円で泊まれてしまうわけである。



さて、久々に岐阜県の下呂温泉に泊った。基本的には早めに宿に

入り本や漫画を持ち込み、温泉入りながら美味しいもの食べなが

らのんびりするという作戦である。



投宿してふと下呂で働いている卒業生を思い出した。

「久しぶり?元気?思い出したので連絡してみました」と今も使わ

れているかわからない連絡先にメールすると、すぐに返信が来て会

うことにした。



会って数えてみるともう24,5年ぶりとなるらしい。本当に何年か

に一度、近況を伝えてくれていたりしていて、最後にやりとりし

てからも10年以上たっている。



思い出してみると、彼の一年担任をして私は転勤となった。

彼は二年生で退学する。そのあとも相談に乗りつつ、数年して復

学し、高校卒業をする。



奥さんが下呂の出身で、30歳くらいからこちらで生活して農協で

働いていたが途中で、私も知っている有名企業に転職する。もう

15年余りとなるらしい。娘の小学校のPTA会長をしていると照れな

がら話してくれる。



会うとすっと話が弾み、淀みなくあっという間に1時間余りが過ぎ

た。夜美味しい店に、と言う有り難いお誘いを、私は下戸でもあり、

奥さんもいるし飛騨牛も待っているのでと固辞すると、では何かお

土産物でもと店に入ろうとするのを少し止めて道で話をした。



実は親を亡くして5月から一人暮らしを始めた生徒がいる。

私も役所に同行して、生活保護の手続きや担任の先生と、「あしなが

奨学金」の手続きをしたところである。しかし先週、生徒と話をし

ていると、引っ越しでお金がなくなり、今、本当にお金がない、と。

「でも大丈夫、学校の給食と、あと米は買ってあってふりかけで食

べている」と。その生徒は借金は絶対にしたくないと言っており、

5月からバイトを始めて、そのあと学校に来ている。しかし、バイ

ト代は来月まで入らず、奨学金が認められるのももっと先である。



朝は自分でおにぎりを作ってるという。奨学金が来たらそこからひ

くからと説得して、一週間いくらで持つ?と聞くと「2000円」と答

えるので、とりあえず、お金を渡してきた。



で、良ければその生徒にご飯のおかずになるようなものをお土産と

して買ってあげて欲しい、と話すと、お店にある「飛騨牛しぐれ」

などいくつかのお土産を買ってくれた。そして又別に店に入り、

「その子は今絶対についていないから」と言って、飛騨の名産のさ

るぼぼを厄除けにと買ってくれた。悪いことが去る(猿)というこ

とらしい。



そしてその卒業生と別れて(ホテルまで話しながら送ってくれた)

温泉に入って出ると、彼からメールが来ていて、今ホテルに向かって

いるので、と言う。ホテルの前で会うと、箱いっぱいの食材を持って

きてくれて、「がんばれ」と言うメッセージとともに5千円の現金の

封筒を渡された。そして「又大きくなって困っている人がいたら、そ

の人に何かしてあげて」と言ってくれた。一緒に来ていた小学生の娘

さんはバレー部のキャプテンであるという。それを説明する父の顔は、

本当に幸せそうに見えた。



生徒にそれを渡しつつ、メッセージを伝えると、大変喜んで、「ペイ

ファワードだね」と私の授業で感想文を書かせた映画の題名を口にし

た。



自分が親切にされたら、3人の人に親切を伝える。授業の「世界を変

えるには」と言う課題に、中一の少年が考えた答。未見の方は是非お

薦めです。



「絶対に将来困っている人がいたら、その人につなげるから。」

いい笑顔でした。



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===編集日記=== 
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  皆様に支えられて「日刊・中高MM」第4911号です。

 瀬尾公彦さんの「遠景のモノ語り」、お届けします。

 ・さるぼぼのストラップ
 ・「ペイファワードだね」

 遠景のモノ語りの真骨頂、人間の特性ですね。羨望の思いもするが、
 読者の皆様にきっとありますね。この「遠景のモノ語り」で作品を
 エッセイを書く授業も出来そうですね。ほのぼのとした良い気持ち
 で読み終えました。瀬尾さん感謝します。


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