夜窓より ☆私の考えなり流儀なり☆

日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』に連載中の教育への雑感をまとめておきます。夜間定時制高校の教師の視点です。

■「遠景のモノ語り」(12)

2022年12月05日 | 教育
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■「遠景のモノ語り」(12)瀬尾公彦(愛知県)(最終話)
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【連載】


■「遠景のモノ語り」(12)

    瀬尾公彦(愛知県)
    seo@ksn.biglobe.ne.jp

 ◆遠景のモノ語り(12)(最終話)◆


 *紙の靴の箱に放り込まれた言葉の数々*


定年の時に、100通を超える生徒や保護者からの手紙は一通り目を通して処分
した。そのときに処分できなかったのが、この箱の中身である。


これはほんとにちょっとしたメモであったり、ノートを小さく折り畳んだもの
であったり、恐らく何かの品物に添えられたりしたものたちである。


記名のあるものもあればないものもある。古くは教育実習の頃から、最近では
転勤していった先生たちからの「先生には大変お世話になりました」みたいな
メモまである。


ちょっとした、心のこもったそう言うメモはやはり捨てられず、いつしか靴の
箱に放り込んでいくようになった集積である。「ありがとう」と言う言葉にも
リアルではなかなか向き合えずに来ているが、ここにある感謝の言葉にはしっ
かりと今、向きあえもする。


なぜ捨てられなかったかと言えば、その一つ一つに思い出があり又、なかなか
面白いのである。


「先生、わざわざ相談に来たのに、なに学校さぼってんの」と机上に置かれた
メモや、新任の頃に「お弁当作ってきたから食べて」など、一つ一つが既に忘
却の彼方のできごとが多い。古いものは誰が書いたのかさえもわからない。



私は腰痛のせいもあり、当時10万円くらい奮発して、イームズのアーロンチェ
アという座り心地の良い椅子を自分で職員室に持ち込んで現在も使用している。
もう20年以上使っていることになる。大きいので他の先生には迷惑だったりも
する。学校の職員室にもよるが、生徒が割と職員室に来る学校では、私がいな
いと、その椅子に座って、そう言うメモとか絵なんかを書いて置いていくこと
も結構あった。

定時制ならではのアットホームな雰囲気がかつてはあり、そういうものが今次
第に損なわれている気がしている。職員室がある生徒たちにとってディズニー
ランドであったって、教育的に考えれば困ることはない。


若い先生たちからの言葉も結構残っている。職場の仲間との海外旅行もトータ
ル10回は超える。特に若い頃はよく遊んだ。ほぼ毎日の麻雀やスキー、テニス、
ゴルフなど、よく職場での仲間たち遊んだ。来年閉じようと思っているゴルフ
コンペは30年を超えて、テニスも細々30年以上継続している。まあ今も結構遊
んではいるのだけれど。


しんどい状況があるほど、主義主張を超えて、協力して目の前の問題に対処せ
ざるを得ない。職員会議では仲の良い人とも、熱く意見を闘わせてきた。私は
常にそうありたいと思い、そう相手してくれた仲間たちには感謝している。


このメモの集積に私のかつての生き様があると言っても良いだろう。言葉を読
み返すと、うれしさを感じると共に、正直、時の移り変わりのさびしさも感じ
てしまう。言葉には新鮮な力があり続ける。


この年齢になり、いつか自分が葬られるときにこの言葉たちと一緒に葬っていた
だくと考えることはなかなか幸せなことである。


              (完)


ご笑覧いただきましてありがとうございました。また梶原編集長にも編集日記の
みならず、添えられてくるお言葉や個人的にメールなどをいただき、励みにもな
り、おかげさまで何とか12回書き通すことができました。

この場をお借りして深謝申し上げます。また、まだ一つの通過点ではあると思い
ますが5000号発行という偉業を達成された梶原さんに心から深く敬意を表したい
と思います。

===編集日記===
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  皆様に支えられて「日刊・中高MM」第5004号です。

 瀬尾公彦さんの「遠景のモノ語り」、お届けします。

 *紙の靴の箱に放り込まれた言葉の数々*

 瀬尾公彦さんの最終話です。「瀬尾さんらしい」と言えば、それまでですが、
 不思議な時代を生きています。昔ならば、往復書簡のような形が電子媒体で
 成立しているのです。紙と電子媒体の二刀流を駆使しながらやっているので
 す。これまでの人間の倍速で生きているのかもしれません。生身の人間は、
 きっと肉体が滅びてしまえば、それまでですが、ふっと他のものに移りゆく
 魂こそが不滅なものとしてあるのだと信じています。瀬尾公彦さんとは実際
 にお目にかかっていますのでなおさらです。又いつの日か、瀬尾公彦さんの
 作品がこの中高MMに連載される日があることを願っています。ありがとう
 ございました。

 
 2022年もあとひとつきとなりました。この師走をゆっくりと振り返りな
 がら暮らしたい。


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