夜窓より ☆私の考えなり流儀なり☆

日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』に連載中の教育への雑感をまとめておきます。夜間定時制高校の教師の視点です。

■「理想の学び舎作りへ」(13)

2015年11月09日 | 教育
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 『中・高校教師用ニュースマガジン』(中高MM)☆第3524号☆
                  2015年11月9日:月曜日発行
   編集・発行 梶原末廣       sukaji@po.synapse.ne.jp
  http://www.synapse.ne.jp/~kanoyu/sukaji/index.html
http://www.synapse.ne.jp/~kanoyu/kyoushi/index.html
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■「理想の学び舎作りへ」(13)瀬尾公彦(愛知県)
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【連載】


■「理想の学び舎作りへ」(13)


     瀬尾公彦(愛知県)
     seo@ksn.biglobe.ne.jp


NPO「ベトナムに理想の学び舎を!」発足である。

前述した私の教え子が理事長。私は副理事という名目で関わっている。
4月に申請して、7月に認可された。理事は数人いて、愛知県内の理事
によって話し合いがなされつつ進んできた。ある意味、素朴に素人の集
まりである。手探り的な進み方である。そこから出てきた、今抱いてい
る、今後のおおまかなイメージである。

校舎は現在の家を改築して教室を新築する。先日理事長がベトナムで見
積もり等してきて、来年の1月に着工できたらと考えている。

そして、6月には完成させて、開校予定。生徒たちは、今年の夏休み前
に日本語教材を希望者に無償で配布して、この10月にそこからテストを
する。参加者は三十数名。年齢は中学生、高校生。なかなか手応えはあ
った。非常に良くできた1人は医者になりたいと言う。

大変な事はたくさんあるが、やはり先生の問題。現在2人候補がいて、
週に一度は日本語学習とは別に「ステキな先生養成講座」を、Skypeに
て、実施中。1人は日本の大学に呼んで留学中。

さて、「理想」と銘打つ以上は、先生にその「理想」の意味を伝えな
ければならない。日本語教授法の推移を伝えると共に、教育観を伝え
ていく。これまでに取り上げたテキストは、パウロフレイレから始ま
って、斉藤喜博、林竹二、灰谷健次郎などなど。

まだ日本語の本を読めるレベルではないので、教育観のエッセンスを
伝える感じで、甚だ心許ないながら少しずつ積み上げている現状。

NPOとしてやりたいこと、支援していきたいことはたくさんあるが、
こちらの力も現実として認識していなければならない。当面まず、重
要になってくるのは教師の育成。つまり、教師の希望者こそ優先的に
支援していかねばならないというのが現在の認識である。
 
この学び舎を出て、ホーチミンなりハノイなりの日本語学科の大学に
進学する。そこで四年学び、その間も日本に呼ぶなどして支えて、そ
して学び舎の先生になる。そう書くだけで、その段階までに4~5年
はかかる。ある意味ではそこからがスタートである。

単にお金を出して、箱物としての学校を作るのではない。単に日本語
のみのスキルを伝えるのでもない。

少し見方を変えれば、日本で行われている学校教育においても何が習
得されているかという視点は案外疎かにされている。教科教育という
ことで言えば、何が習得されているか。

習得の一つの定義として、あるものごとを、かなり狭義に捉えても半
年なり一年なり身についている、覚えていることとすれば日本の学校
システムで何が習得されているか。教科教育で言えば意図されている
学習の半分を理解している人は半分もいない。そしてその事は誰もが
知っている。

冷静に分析すれば、一つの教科の一つの知識という意味よりも人が何
かに努力をして、その努力をした成果を感じる、という意味、そのよ
うな体験の意味こそがより有益であるとも言える。

であるとすれば、日本語というスキルをアップするという営みの中で、
そのような体験、言語によって他文化を持つ他者を認識し、そのコミ
ュニケーション媒体としての言語を学ぶと言うことを、一つの人間的
成長の機会として位置づけつつ、その学び舎の存在意義として設定し
たいと考えるのである。

日本語を学習することが楽しい、と私の周りにいるベトナム人は言う。
そこから、学び舎に行って勉強することは楽しい、という地平はさほ
ど遠くないとすれば、人生を生きていくことは楽しいという認識もそ
の延長線上にあると考えるのはあまりに楽観的すぎるであろうか。


夢のような話ではあるが、一歩一歩進んではいる。

NPOの会員パンフも漸く刷り上がった所である。

その中の言葉をご紹介して今回は終わりにしたい。



 <白い空の下でうつむく少年

  青い海の前の少女の吐息

  あなたたちが翼を持つための場所としての

  ささやかな学び舎

  今は言葉の上のほんの夢であるとしても

  ・・・・・・>


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===編集日記=== 

  皆様に支えられて「日刊・中高MM」第3524号です。

 瀬尾公彦さんの「理想の学び舎作りへ」、お届けします。
 
 ・NPO「ベトナムに理想の学び舎を!」発足

 おめでとうございます。嬉しいですね。瀬尾さんにお話を伺って何年に
 なりますかね。それほど昔ではなかったですね。

 ・日本で行われている学校教育においても
  何が習得されているかという視点は案外疎かに

 ・日本の学校システムで何が習得されているか。
  学習の半分を理解している人は半分もいない。

 ・日本語というスキルをアップする
  言語によって他文化を持つ他者を認識し、その
  コミュニケーション媒体としての言語を学ぶと
  言うことを、一つの人間的成長の機会として位
  置づけつつ、その学び舎の存在意義として設定
 
 ・学び舎に行って勉強することは楽しい、という
  地平はさほど遠くないとすれば、人生を生きて
  いくことは楽しいという認識もその延長線上に
  あると考える

  
  長い引用で誠に恐縮ですが、すてきな言葉があふれているのです。
  原点回帰というか、この150年で日本人が忘れてきたことども
  がここにはある。そんな気がするのです。見てみたい、体験して
  みたいものですね。


■「理想の学び舎作りへ」(12)

2015年11月06日 | 教育
■「理想の学校作りへ」(12)瀬尾公彦(愛知県) 
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=☆★【10月11日に中高MMは3500号の発行です。】☆★=
   <10月座談会&12月望年会&2月朗読Cafe> 
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【連載】


■「理想の学び舎作りへ」(12)


     瀬尾公彦(愛知県) 
     seo@ksn.biglobe.ne.jp
  

 先回のベトナム訪問は3月の話である。今これを書いているの
は9月下旬である。4月にNPOを申請して,それが7月に認可され
た。現在は様々なところで準備を進めているところである。

NPO「ベトナムに理想の学び舎を!」

 この名称に伴い、この拙文も「理想の学校作り」から「学び舎
作り」に勝手に変更させていただいた。「学校」には「学校化社
会」と言うように使われてしまうイメージがある。既成のの概念
もある。実際に私たちが目指すのは垢にまみれていない「学び舎」
の方がふさわしい気がしている。

 さて、4月より大学院に通うことにした。相談に行くと、「普
通に入学しても良いけれども、こういう制度が今年からできまし
た。」と勧められたのは、科目聴講生。そこでの単位は10単位
まで、後に大学院入学後認められるという。ちなみに大学院卒業
単位は30単位で、これを含めて3年間で卒業するというプラン
の方が。まだ現職で不安定要素の多い私には相応しいと思い、科
目聴講生として入学した。

 後から思うと、高校も転勤となり、結構ばたばたしていたので
これくらいが限界で、丁度良かった。科目は3科目6単位分を前
期履修習得した。


 前期が終わった現在から書かせていただくと、大学院の講義は
なかなか新鮮であった。ただ、日本語を教える為の学部のために
言わば、高校国語教師の私だけが、その知識もなく、学部から進
学した大学院生や、海外や社会で日本語教師の経験のある方々や
海外の日本語を専門としている交換大学院留学生の人たちの中で
悪戦苦闘もした。

 結構厳しい授業もあり、予習にも時間を取られて、仕事の関係
で午前中の講義しかとれず、朝も早いので、職場でダウンする日
もしばしばあった。講義自体は面白かったが、やはり大学院の専
門性は細部に関わることが多く、自分の問題意識とはどうしても
かみ合わない感じで進んでいった。

 最初は本当に余裕がなく、職場も新しいので、授業が終わると
高速道路でダッシュで職場に向かう日々であったが、後半になる
と共同研究もあり、同級生と一気に仲良くなり、このことが一つ
の財産となった気がしている。

 大学院のクラスメイトの多くの人が、日曜日の私のベトナム人
への授業に顔を出したり、授業を手伝ったりしてくれた。ベトナ
ム人とのSkypeにつきあったり、8月にいっしょにベトナムに同行
してくれた人まで出てきた。簡単に言えば、極めて仲の良い若い
仲間たちができた。

 海外からの留学生の人たちとの交流も面白かった。半期留学の
メンバーが甲子園に行きたいと言うので調べてみると、帰国する
前日が開会式で、それでも行きたいというので車で行って、大阪
でカニ料理を食べたりしたのも実に楽しかった。一度経験したい
というゴルフ練習場やバッティングセンターにも行き、先日はベ
トナム人といっしょに諏訪湖の花火大会にも同行した。いろいろ
と1人1人の話を聞けた時間も私にとっては有益で、基本感心し
つつ、若者たちから刺激を受けることとなっている。

 そして、大学院の中で教授の勧める、日本語学会にもできるだ
け参加したが、これも得るところがあった。

 ただ現在後期も受講し始めたところだが、来年から1年100
万円のお金を払って入学するかは迷うところである。純然たる学
問として行けばそれなりに楽しいとは思うが、ベトナムの事をや
りつつと考えると、今更論文書きでもなかろうと考えてしまうの
である。

 私にとって大学院卒業の資格も別に不要ではあるし。その分2
00万円使えば、ベトナムに一戸建ての日本人向けの宿泊所さえ
できてしまうのも現実である。

 大学院は、研究して論文を書くのがメインとなる。穿った見方
をすれば,それは儀式のようにシステマティックである。物事を
大きく捉えると言うよりは、細部について、先行論文を遺漏なく
押さえつつ、たかだか2年間くらいでできる内容について、テー
マを設定する。私の関わった大学院生の多くはその事について、
多かれ少なかれ疑問を持ってはいる。しかしそれが日本のみなら
ず、そういう現実がある。

 例えば、ベトナム人は、「つ」を「ちゅ」と発音してしまうこ
とがある。そのことの誤用研究というテーマがある。そのような
先行研究の論文はあるだろうし、ベトナム語の発音から研究しつ
つ、母語の影響などを研究しつつ論文を書くことは興味深い事と
は思う。しかし、例えばそれが私が二年かけるテーマかというと、
決してそうでもなかろうと思えてくる。

 そのようなことを考えながら、それでも大学院なり、大学とい
う機関や人材との関わりの、「いいとこどり」をしたいと考えて
いるのが現状である。

 とりあえず、前に進もうと思う。


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===編集日記=== 

  皆様に支えられて「日刊・中高MM」第3499号です。
 
瀬尾公彦さんの「理想の学び舎作りへ」、お届けします。

 ・NPO「ベトナムに理想の学び舎を!」
 
 瀬尾先生は一歩も二歩も前に進んでいる。そのエネルギー源は
 どこから来るのか、はたまた彼をして突き動かすものは何か。
 刺激的で興味深い。是非、着実なる展開を期待します。

  

■「理想の学校作りへ」(11)

2015年11月02日 | 教育
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■「理想の学校作りへ」(11)瀬尾公彦(愛知県)
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【連載】


■「理想の学校作りへ」(11)


     瀬尾公彦(愛知県)
     seo@ksn.biglobe.ne.jp
 

ベトナムの旅の最終日前日と最終日に、「日本語セミナー」という
日本語の授業めいたものを企画した。場所はホテルニッコーサイゴ
ンという日系の一流ホテル。そこの大きな会議室を借りて、初日は
初心者約100人の受講生が集まった。すべて、口コミ。しかもほとん
どがチャム族。彼らの結束の強さが窺われた。「何人くらい良いで
すか?」「何人でも良いですよ」というやりとりはしたが、想定外
の多さであった。研修生を受け入れている社長さんも数人参加。


 簡単な挨拶練習からはじめて、「一期一会」のような四字熟語。
日本で教えている研修生達に日本での生活をDVDにまとめたものを
作ってもらって、それを流した。仕事風景。勉強風景。そしていっ
しょに行った奈良の旅行など。見ていて懐かしくなった。彼らも又
日本からSkypeで参加。通訳もいつもの彼女にSkypeを通じて行って
もらう。


 なんか目がぎらぎらしていて、新鮮さがある。あわてずゆっくり
話しながら進めていく。全員に日本語の基本的なテキストを渡す。
それを、「6月頃にテストをします。日本語に興味のある人は勉強
してきて下さい。勉強してきた人の中から来年の研修生を選びます」
と伝える。


 最後に、日本的な面接の練習をパフォーマンスと言う形で行った。
全員を大きな部屋から出して、社長さんにも協力して頂き、4つに
分けて、1人ずつ面接。「**と申します。よろしくお願いします。
」礼をして、「有り難うございました。」という最初と最後だけの
簡易面接。上手だった人にみんなの前でもう一度やってもらう。


 二日目は、この春から日本に来る研修生対象に簡単な授業。不安
な彼らに質問してもらって、今日本に来ている研修生達に答えても
らう。セミナーが終わって、社長さん達と会食して、私はタクシー
で約30分かけて空港に向かう。名古屋への直行便は深夜便である。
 そしてサプライズ。スーツケースを預けて、出発口に行こうとす
ると、「先生、ちょっといいですか?先生の生徒達がここの外で待
っています。」外に出ると10人あまりの先ほどの生徒がバイクで
空港まで見送りに来てくれていた。プレゼントなどをもらい、みん
なで記念撮影。熱い思いを胸に帰路につく。


 言わばボランティアの旅であったが、お金では得られない尊いも
のを逆にたくさん受け取った旅でもあった。本当にベトナムの地に
私の考えられる限りの「理想的」な学び舎を作ろうと気持ちを新た
にしたのであった。その責任感も感じさせられた。



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===編集日記=== 

  皆様に支えられて「日刊・中高MM」第3471号です。
 
 瀬尾公彦さんの「理想の学校作りへ」、お届けします。

 いつも思うのですが、迷ったら考えて結論を出し、行動するか、行動
 しないかを決めるのが通常のようですが、「人間」は不思議な生きも
 のですね。リスクを覚悟で行動する人間がいる。やむにやまれぬ思い
 がそれをさせるのだと思う。若いときは冒険できないが、いや若いと
 きこそ「迷ったらやる」では、なかろうか。謂わば、「若さ」という
 ものをいついつまでも忘れてはならない。「若さはエネルギー」。
 瀬尾さんの行動力に尊敬の思い頻りです。

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