夜窓より ☆私の考えなり流儀なり☆

日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』に連載中の教育への雑感をまとめておきます。夜間定時制高校の教師の視点です。

「夜窓より」 (16)

2012年03月02日 | 教育
「夜窓より」 (16)

瀬尾 公彦(愛知県)
seo@ksn.biglobe.ne.jp

2月、沖縄に修学旅行に行ってきた。愛知の定時制では結構飛行機を
利用している所が多いと聞く。人数の少ない分、座席が取りやすいとい
う利点がある。学校によっては修学旅行のない学校もある。定時制は職
員も単級校(一クラス募集)などでは10人に満たないくらいである。
その10人がどのような10人かによっていろいろと変わってくる。最
近の風潮である?教員が楽になる方向性で行けば、学校行事などが減少
していくのも当然である。生徒も様々なので、体育祭一つとっても、全
日制のようには一筋縄では行かない。運動自体が苦手な生徒の率も高い。
選手が決まらない。選手になっても、気が向かなければすぐ休む。学校
行事自体なかなか労力のいることである。各学校様々な工夫がある。か
つては行事にこそ意味を見いだして力を入れるタイプの教師もたくさん
いたわけだが。

 さて、その修学旅行。まず心配だったのは、集合時間に空港に集合で
きるか、と言うこと。自分一人で繁華街に出たことのない生徒もいる。
電車の時間まで調べて、予め詳しく説明する。何とか全員集合して、ほ
っと一息。次に気にかかったのは、この時期のこと、インフルエンザの
流行である。インフルエンザとわかり次第、飛行機には乗ることが出来
ないので、現地で発熱した者がいてひやりとしたが何とか熱も治まって
通院するほどでもなく済んだ。

 飛行機に初めて乗る者も少なくなく、大はしゃぎ。いきなり、CAを見
て「あの人無茶苦茶きれい」それだけで済めば良かったが、まわってき
た本人にきちんと「すごくかわいいですね。」と話しかける。「窓側窓
側、かわって」と言うバトルもあり、離陸するときは大声を出して、「
はえー、気持ちいい」と叫ぶ。「先生、@@が屁こいた。くせー」周り
が騒ぎ、確かに私の所まで臭いが届き「@@帰ったら謹慎な。」何かと
落ち着かない。

 「ひめゆりの塔」「首里城」「美ら海水族館」そして北谷で野球のキ
ャンプも見て、学校では見られないたくさんの笑顔を見ることが出来た。
今帰仁の城跡では見晴らしが良く、沖縄戦ではこの海に米軍の船が押し
寄せたのだと感慨深いものがあった。「さとうきび畑の唄」のDVDは一
応見せておいたが、やはり歴史的にも戦争のリアリティの最も感じられ
る県の一つであることには違いない。ひめゆりの塔で、神妙に少女達の
遺影などを見ていたのを見ると、何かを感じてくれたような気がした。

 或る生徒が「先生、Tシャツあげる」と言ってきた。「どうして?」と
聞くと、「土産物屋で無理矢理買わされた。」と言う。クラスでは幼さ
の残るまだアルバイトもしたことのない彼。そしてその友人もおとなし
く、2人共、Tシャツの他に、アクセサリー類など合計5千円くらい「買
わされた」と言う。いかにも簡単にだまされそうな二人だったので、悪
質ならば文句くらいは言ってやろうかと思って、じっくり聞くと次のよ
うな話であった。

「店員、若かったの?」「いえ、結構年いってた」
「一人ずつに来たの?」「そう、一対一」
「怖い感じの人?」「いえ」
「どんな感じだったの?断れる雰囲気ではなかったの?」
「最初は断りましたよ。」「相手、おばちゃんだった。」
「おばちゃん?ちょっとイメージ違うな。断ってどうなったの?」
「最初Tシャツいらないって断ったら、1枚二千円でもう一枚つけるから
って出してきた。」
「僕はサイズが違うって断ったら、別のサイズを出してきて・・・」
とここからは、もう向こうのペースで、断ってはいない感じで、これも
つける、あれもつける、という感じで押し切られたようだ。
これからは断るときはしっかり断らないとだめだよ、という勉強代とい
うことで、自分でいらないならお土産にしなさいということにして一件
落着。

 屋我地で、マングローブとカヌー体験をしたが、あいにくの寒さで私
も含めて震えていたが、終わってしまえばこれも良い思い出となった。
カヌーで「こいつ落とす」などと話していたのを係員が聞いて、「いき
なり落とすと寒いから、落とすなら最後だよ」という注意を真面目?に
守って、最後はびしょ濡れで海中を歩いて戻ってきた生徒達も。まあ落
ちていなくても水が入ってきて、全員下着まで濡れてしまっていた。

 国際通りの自由夕食もあり、ついてきた生徒達とステーキを食べたが
(と言ってもセットで1200円くらいからある)笑ってしまうような
ナイフやフォークの持ち方をしている者もいて、そこから教えて、とに
かく一つ一つが学習の場なのである。仕事をしている者も少なくないの
で、それなりにお金もあるわけで、お土産なんかもたくさん買い込んで
いた。「@@さんにも世話になっているし」そう言う気遣いの出来るの
が三年生であって、一年生の時にに比べれば随分大人びて来ている。夜
間定時制は四年生であるが、最近は三卒制度が出来ているので、修学旅
行は三年生で行うところが多い。

 マシンガントークや太宰治的独白を聞かされたり、いろいろと疲れた
が、個人的にも彼らの笑顔に包まれて過ごすのは心地よい旅であった。

 そして、旅行あけの日、欠席して、旅行にも参加した生徒の単位が切
れてしまった。旅行が楽しかっただけに本当にがっかりであった。この
時期なので、落とした科目は科目として、とれる科目だけ単位を取って
単位制の学校への転校の予定である。

 撮ったビデオを編集して、DVDにコピーして生徒一人一人に配る。多く
の者が気持ちの良い「有り難う」を言ってくれた。彼らが年を取って、
この笑顔の瞬間のあったことを思い出してくれればと思う。

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 静まりかえった教室の中
 先生の言葉が教室にあふれる
 人は普通そのように
 一方的に話しかけはしない
 しかしこれはこの日本だけではなく
 アメリカでも中国でもイギリスでも
 こういう事が行われているようだ
 必要なものが言葉であるとすれば
 先生、あなたは必要ないでしょう
 私はそっと手を伸ばして
 窓を小さく開ける
 すると閉めきられていた教室に
 充満していた言葉の澱のようなものが
 さぁーっと空に飛び出して行き
 教室が軽くなる
 そしてその中を私に向かってやってきた
 「暑いですか」という言葉にも
 笑顔でもって答えられるのであった 
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