1..道草の数々
“幼いときから「時間は借しんで使いなさい」と言われて育った私は、昨今のどこかせわしなく追い立てられるような世情についていけない。小・中学生の息子3人はいずれもテレビで録画した映画などの番組を見る際、「時間がないから」と倍速で再生するのが常で、そこまでして本当に見る必要があるのだろうか。1分の長さは昔も今も変わらないはずなのに・・・。
ふと思い起こすのは二十余年前、私が営業の仕事でよく京都を車で巡ったことだ。事前に地図で場所を確認しておいたはずなのに道に迷ってしまい、思いがけず有名な歴史的建造物や記念碑を見つけたことは一度や二度じゃない。あんな出合いの数々をくれた道草が妙に懐かしい今日この頃だ。”(9月16日付け中日新聞)
岐阜県各務原市の会社員・成瀬さん(男・54)の投稿文です。「時は金なり」、「時間は借しんで使いなさい」、「今という時間は2度とない」、事実でしょう。歳を取ると本当に1年の暮れのは早い。
さて倍速でビデオを見るのは本当に時間を大切に使っていることであろうか。同じものを半分の時間で見る、確かに効率的である。今やこれが一般化していると聞いて驚いた。そして、成瀬さんの息子さんはいつもそうしていると聞いて、そうなのだと知った。こうなると時間感覚が違ってしまう。知識を得るだけならそれで良いかもしれない。でも本物と印象は違うであろう。いつも偽物を見ていることにはならないだろうか。人の行動はとんでもないものになっていくものだと思う。そしてそうして得た時間を何に使うのであろうか。まさかゲームに熱中するのではなかろう。
成瀬さんは道草で得た出合いを喜ばれている。道草によって思いがけない出合いがあった。尊いのは何も計算尽くで生まれるものばかりではない。偶然の方が多いかも知れない。