寺さんの【伝えたい話・残したい話】

新聞記事、出来事などから伝えたい話、残したい話を綴っていきます。
(過去掲載分は「付録」の「話・話」を開いて下さい)

(第2668話) 読み聞かせ

2018年09月07日 | 活動

 “今ごろお母さん読んでいるかな、この作文。上手に読んで、お父さんに聞かせてね。私の父は七月で九十八歳、母は同じく九十二歳。二人で一生懸命暮らしています。先週の日曜日、父の入浴介助か終わり、片付けをしていて、ある光景を目にしました。母が独り言を言いながら、新聞を流し読みし記事をチョイスしています。
 記事が決まると父の横に座り、読み聞かせが始まりました。新聞を読むのが大好きだった父は、十年ほど前に病気で小さい文字が読めなくなりました。そこでこのような日常が始まったようです。「次行くよー」と言って本文に入ります。すると父は母の声に反応して、頭を前に振り「うんうん」とうなずき、真剣に聞いています。記事は戦争に関係することが多いようです。父は八十年ほど前のことを思い出しているのでしょうか。満州への出征やシベリア抑留を経験した父。内地で戦火を逃れ生き抜いた母は、まさに戦友です。
 二人で過ごした六十八年間の年月を思い、母の声が静かな空間を流れていく。あー、この時間が一日も長く続きますように、と心から祈る気持ちでいっぱいです。お父さん、お母さん、今のこの平穏な時間をゆっくり二人で過ごしてください。”(8月15日付け中日新聞)

 名古屋市の会社員・藤村さん(女・60)の投稿文です。「読み聞かせ」という言葉を聞けば、すぐに大人と子供の光景が浮かぶ。しかし、この投稿は90歳を超えた老夫婦の話であった。文字の読めなくなった夫に、妻が新聞記事を読み聞かせる。ゆっくりとした時間の流れ、麗しい光景と言えようか。それを見た娘さんには、二人の至福の時間に見えたであろう。この時間が長く続くことを願わずにはおられない。苦しい戦争時代を過ごした二人に訪れた老後、こういう時間を持てて本当によかったと思う。
 夫婦は共にあって夫婦である。先日妻と1泊2日のツアー旅行に出かけた。バス車内で、近くにいた人から「夫婦で旅行されているのを見ると本当に羨ましい」と話しかけられた。聞けばその人は奥さんを14年前に亡くされたと言われる。元校長で、90歳近くになられた今も元気に活躍されている。それでも、夫婦の姿は羨ましいのだ。配偶者を亡くした男は全く寂しいようだ。藤村さんのご両親のように、90歳過ぎても、100歳近くになっても夫婦共にありたいものだ。人生に勝者敗者という言い方は無いかも知れないが、それでも高齢まで夫婦仲良くそれなりに元気で過ごすこと、これがまず第1位の勝者であろう。社会での地位や名誉など、この下である。


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