関川夏央『おじさんはなぜ時代小説が好きか』を古本で購入。関川夏央という人はよく知らんのだけど、タイトルからして笑える本かと思って注文した。
ところが読んでみると、話題にしているのは山本周五郎や吉川英治、藤沢周平、山田風太郎、長谷川伸、村上元三など、いかにも“時代小説”の作家ばかり(まあ、当然と言えば当然だけど)。唯一馴染みがあったのは、山本周五郎が仙台藩のお家騒動「万治の変」を描いた『樅ノ木は残った』ーーこれは大河ドラマにもなったので、タイトルぐらいは覚えてるーーと司馬遼太郎の幕末ものの長編『燃えよ剣』の圡方歳三(NHKの『ファミリーヒストリー』で新撰組の名簿が出てきて、僕と同じ圡を使っているのを知った)と短編『奇妙なり八郎』の清河八郎(新撰組の前身・浪士組を構想)ぐらいだった。
「『燃えよ剣』の特徴は、それが青春小説であることです」と関川は言う。日本人が従来持っていた“大衆小説”のイメージを明るく裏切った、とも。“大衆小説”といえば性的描写が常套手段だけど、『燃えよ剣』には女性はほとんど出てこないし、出てきても唐突に現れて忽然と消える(同じ司馬作品『峠』の主人公・河井継之助は色事に耽りっぱなしだったけど)。男だけの世界、「それこそが『燃えよ剣』、あるいは司馬作品群が広く好まれた理由なのです」。
関川は作家の生い立ちや作品から、マジメに“時代小説”を紹介している。だから、期待に反して笑えるようなものではなかった訳だ。