出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

スリップへの書き込み-最終編

2007年06月27日 | 返本
わざわざ「返本」カテゴリーが作ってあるほど、返本(に関係する仕事や情報なども含めて)は日常的な事柄である。で、今まで「返品はキレイなまま戻ってきてほしい」と何度も書いた。返品率などの「情報的話題」以外のときは、ずっと「なんで汚いのか!」と怒っていたと思う。返ってきた本も「金を出して作ったうちの商品である」という認識だったからだ。

通販でもそうでなくても「買った物が思っていたのと違ったので返す」という行為をしたことがない。そのせいか、キレイなものなら返せる「こともある」というのが世の中の常識だと、出版を始める前まで思い込んでいた。言い訳するわけじゃないが(そうなんだが)、返品してくる相手が悪いとかどうとかの前に、返品とはそういものだという思い込みが強くて、頭が自然にそう反応してしまうのだ。

もちろん、本は委託販売で、本を預けて売っていただくのだということはわかっている。細かいことを言うとフリー入帳とかの話になってしまうが、「委託=返品可」なのはよーくわかっている。

単純に「汚い物は返すな!」とも言えない。汚くしたのは取次かもしれないし、書店かもしれないし、運送業者かもしれないし、本屋のお客さんかもしれないし、お客さんでもないただの人かもしれない。うちに持ってくるのは取次の返本おじさんだが、おじさんに「汚い本は返すな!」と言うわけにはいかない。

で、これまでは犯人が誰なのか個別のケース(本)では絶対にわからないし、より「クロ」なのは誰かわかってもしようがないし、そもそも返本を減らせばいいんだし・・・ってないろんな理由があって、どうにもならないストレスの解消に、ここに書いていたわけである。

が、最近ようやくあることに気づいた。気づいたというより、例によって「実際体験したおかげで、なるほどと身になった」というほうが正しい。返本の多さである。

もちろん、「巷の返品率の平均は4割」とか、本や業界紙に書いてあるようなことは知っていた。けど、うちレベルの出版社だと、週に1回数冊とか月に1回一箱しか返ってこないので、どうにも実感がわかなかったのだ。いや、4割という実感はわきますが、「とてつもない量の返本」という認識は薄かったのである。

先週、書店営業が苦手でほとんど行ってない状態(と、それによる悪影響=売り込めない、本のアドバイスをもらえない、読者から遠い、書店の実態や願望を知らないなどなど…)を打ち破るために、近所の書店でアルバイトを始めた。ある人からは「へー、それで生活費稼いでるの?」なんて嫌味を言われたが、さすがの私もそれはない。勉強のため、週数時間だけ。

で、その書店の毎日の返本を見て(といっても今日までに行った3回だけだが)、「とてつもない量」をカラダで実感したのである。

店員は、ドサッバサッと音を立てながらドンドン返す分を積み上げていく。ゆっくりしている時間もないし、決して楽しい仕事でもないだろう。

で、その姿を見ながら、委託販売はありがたいと改めて思った。売れなかった本にも1度はチャンスが与えられたわけだし、たかだか数円の返品手数料を払うだけで、改装すれば商品として使える物がうちまで返ってくるのだ。

と、そこまで考えて、返品手数料は取次に払ってるんであって、本屋さんに「置いておいてもらう料金」は払っていないことに気づいた。

厳密に言うと「返品を基準にした考え方はネガティブ過ぎ」とか「書店の売る努力とかなんとか」の話が出てきそうだが、本屋さんにとって無駄な作業であることは変わらない。

なので、方針変更。「スリップに書き込むな」とは、今後一切申しません。そりゃ、キレイなまま返ってきたほうがいいけど、絶対文句は言いません。あれは、「行ったり来たりするための切符」のようなもので、1回こっきりで全然構いません。

今さら何を…と言わないでください。実感しないとわからないバカなので。

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