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 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『晴れ、ときどき殺人』

2014-12-12 00:04:02 | goo映画レビュー

原題:『晴れ、ときどき殺人』
監督:井筒和幸
脚本:丸山昇一
撮影:浜田毅
出演:渡辺典子/太川陽介/松任谷正隆/神田隆/清水昭博/前田武彦/伊武雅刀
1984年/日本

「飛翔」を巡るアイドル映画について

 美空ひばり、江利チエミと雪村いづみの「三人娘」や森昌子、桜田淳子と山口百恵の「花の中三トリオ」には共演の作品があったが、不運にも薬師丸ひろ子、原田知世と渡辺典子の「角川三人娘」には共演作がない。渡辺典子にとって主演2作目の本作はまだ演技に硬さが見受けられるのであるが、やがてアイドルから本格的な女優へ至るうちに彼女の演技はナチュラルになる。しかしそれはあくまでも「女優」として一流になったということであり、『超能力研究部の3人』(山下敦弘監督 2014年)において秋元真夏、生田絵梨花と橋本奈々未が見せるアイドルとしての「ナチュラルな演技」とは似て非なるものであるということは既に書いた通りである。
 渡辺の硬さは演技だけではなく、レオタードを身に着けたダンスシーンにおいても見受けられるのであるが、それはあくまでも『フラッシュダンス』(エイドリアン・ライン監督 1983年)のパロディーであり、井森美幸の真似ではないことは渡辺の女優としての名誉のためにもはっきりさせておきたい。だからといって本作がいわゆるアイドル映画かといえば、必ずしもそうではない。
 主人公の北里可奈子の母親である浪子に脅迫電話をしたと誤解されて逮捕された青年が、取調室の窓を割って飛び出して転落死した辺りから本作は北里家の一軒家を舞台にした密室劇と化す。とりあえず飛び出すことを「飛翔」として見るならば、その後、北里家を訪ねてきた多田三津男刑事の執拗なくしゃみが「飛翔」し、台所では秘書の水原信吾と家政婦の石田マリ子の吹き出しあう紅茶が「飛翔」し、興信所員の岩下公一が殺された後に、可奈子が「今夜はもう遅いのでこのままお引き取りになってください」と言ったことに対して、水原信吾が帰ろうとして、円谷等志に「勝手な行動は許さん」と言われると、信吾は口にしていたものを吐き出し、それにつられて円谷正彦も飲み物を吐き出すという「飛翔」を見せる。そしてラストは上村裕三が作成した、『E.T.』(スティーヴン・スピルバーグ監督 1982年)ばりの空飛ぶ自転車で可奈子と共に「飛翔」して再び「密室」から脱出し、この一連の「飛翔」を巡る演出が冴えを見せ、ただのアイドル映画にしていないのであるが、皮肉なことに凝った演出を施した『超能力研究部の3人』がアイドルそのものを見せることになり、物語に沿って正当に演出された『晴れ、ときどき殺人』が結果的にアイドルの存在を無視することになってしまっているところが興味深い。


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