MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ザ・ホエール』

2023-04-11 21:00:57 | goo映画レビュー

原題:『The Whale』
監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本:サム・D・ハンター
撮影:マシュー・リバティーク
出演:ブレイダン・フレイザー/セイディ・シンク/ホン・チャウ/サマンサ・モートン/タイ・シンプキンス
2022年/アメリカ

「都合の良い」解釈について

 『生きる LIVING』(オリヴァー・ハーマナス監督 2022年)を観た後に、本作を観たために、本作こそ「生きる」ではなのかと思ったのだが、やはり人は死を目前にしないと「生きられない」ということはよく分かった。
 本作の冒頭で、大学で国語を教えているチャーリーがマスターベーションをしている最中に、急にトーマスが入ってきた時に、心臓発作を起こしたチャーリーがハーマン・メルヴィルの『白鯨』の感想文をトーマスに読ませる。てっきり「興奮」を抑えるために関係のないことに自分の気を向かせようとしているのかと思ったが、そのエッセイはチャーリーの娘のエリーが8歳の時に書いたもので、死ぬ前にもう一度聞きたいと思って読ませたのである。ラストではエリー本人が同じエッセイを読むことになるのだが、まずはチャーリーがそれほど大切にしているエッセイを改めて確認しておきたい。

 「著者のハーマン・メルヴィルによる驚くべき本『白鯨』の中で、著者は海辺を舞台に物語る。彼の本の前半で、自らをイシュメイルと呼んでいる主人公は小さな海岸の街にいてクイークェグという名前の男とベッドをシェアしている。主人公とクイークェグは教会に行ってから、モビィ・ディックという名前の白いクジラを殺したいと切に願っている片脚のないエイハブという名前の海賊が指揮している船に乗って旅立つ。物語の中で、海賊のエイハブは様々な苦難に遭遇する。彼は全人生を賭けてそのクジラを殺そうと努めている。これは悲しいことだと私は思う。このクジラは何の感情も持っていないし、どれほどエイハブが殺したがっているのか知らないのだから。彼はただの可哀そうな大きな動物なのである。そして私はエイハブも酷いと感じる。もしも彼がこのクジラを殺せられるならば彼の人生は良くなると彼は思っているけれど、実際に殺してみたところで彼には何の助けにもならないのだ。私はこの本ですっかり憂鬱になってしまい、登場人物たちに様々な感情を抱いた。何よりも私が最も悲しかったのは、クジラたちの描写だけの退屈な数章を読んだ時で、著者が彼自身の悲しい物語から、ほんのひと時でも私たちを助けようと試みていることを私は知っていたからだ。この本は私に私自身の人生を考えさせ、私に私の(父親)のことで喜ばせました。(In the amazing book Moby Dick by the author Herman Melville, the author recounts his story of being at sea. In the first part of his book, the author, calling himself Ishmael, is in a small sea-side town and he is sharing a bed with a man named Queequeg. The author and Queequeg go to church and later set out on a ship captained by the pirate named Ahab, who is missing a leg, and very much wants to kill the whale which is named Moby Dick, and which is white. In the course of the book, the pirate Ahab encounters many hardships. His entire life is set around trying to kill a certain whale. I think this is sad because this whale doesn’t have any emotions, and doesn’t know how bad Ahab wants to kill him. He’s just a poor big animal. And I feel bad for Ahab as well, because he thinks that his life will be better if he can kill this whale, but in reality it won’t help him at all. I was very saddened by this book, and I felt many emotions for the characters. And I felt saddest of all when I read the boring chapters that were only descriptions of whales, because I knew that the author was just trying to save us from his own sad story, just for a little while. This book made me think about my own life, and then it made me feel glad for my (dad).)」

 実際には最後の「父親(dad)」は書かれておらず、チャーリーが想像しているだけなのだが、これが本作の肝なのである。例えば、トーマスが教会からお金を盗んだ家出少年であるとエリーは教会と彼の実家にSNSで暴露するのだが、エリーの意図に反して全てを不問に付されてトーマスは帰宅を許されることになる。チャーリーとトーマスの聖書の一節に対する解釈の違いでも分かるように、本作のテーマは同じ文章でも解釈が正反対になる可能性についてなのである。自分に「都合の良い」解釈で「勝手に」幸せになることが良いのか悪いのかはともかく、他人がとやかく余計なことを言ってみても仕方がないことではある。


gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/shueisha/trend/shueisha-122121


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