原題:『おかあさん - たぬき屋の人々 -』
監督:九世光彦/澤本均
脚本:金子成人
撮影:鈴木秋夫
出演:森光子/小泉今日子/竹下景子/小林薫/渡辺えり子/イッセー尾形/左とん平/いかりや長介
1985年/日本
賛美歌で学ぶ性について
本作は静岡県の用宗町にある「たぬき屋」という旅館を舞台とした物語なのだが、主題となっているのは「まもなくかなたの」という賛美歌の俗謡である「たんたんたぬき」である。主人公で女将の雅江と長女の仲子と次女の梅子が「たんたんたぬきの金玉は、風も無いのにぶーらぶら」と揃って歌う光景は今のテレビドラマではあり得ない設定だと思う。
しかしこれが奇をてらった冗談ではない理由は、たぬきの金玉が風もないのにぶーらぶらしていることが、雅江の人生を翻弄し、前夫の常次郎は浮気で家を出て行ってしまい、再婚して梅子を身ごもったのだが、夫が急死して旅館の後を継ぐことになり、その後も雅江には男性に関する噂が絶えないのである。
それから10年後、18歳になった仲子は雅江と、母親の男性関係について口論になり、仲子が投げた湯飲みがたぬきの置物の金玉を直撃して金玉を破壊するのはそのような経緯からなのだが、さらに月日が経って28歳になる仲子もまた妻がいる野中令一と不倫関係に陥り妊娠までさせられ、最終的に仲居として働いているトク子と仲子と梅子のもみ合いに巻き込まれたたぬきの置物は頭も欠けてしまうのである。もちろんそれは男の頭の悪さも罰する暗示が込められているはずである。
そもそも雅江と常次郎との出会いは、20歳になったばかりの常次郎が吉原の遊郭で遊ぼうとして服を脱いだとたんに気を失ってしまい、運ばれていった先の病院のナースが雅江だったのだし、仲居をしているトク子は妻子がある山下との不倫関係を熱望するという倒錯さで、やたらと性にこだわっているのであるが、それを客観的に見ているのが18歳の高校生の梅子で、これは娘が性を学んで大人になるという物語なのである。
(栗原仲介「ブスな女」のシングルジャケット。今ではあり得ないギャグ)
Gather at the river - Willie Nelson