MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『草間彌生∞INFINITY 』

2019-11-27 19:20:45 | goo映画レビュー

原題:『Kusama: Infinity』
監督:ヘザー・レンズ
脚本:ヘザー・レンズ
撮影:板谷秀彰/ケン・コブランド/ハート・ペリー
出演:草間彌生/飯沼瑛/武藤美紀/キャロリー・シュニーマン/ヤマムラ・ミドリ/フランク・ステラ
2018年/アメリカ

時代を反映する「日本のゴッホ」について

 草間彌生は幼少時代から過酷な人生を強いられていた。婿養子だった父親の浮気調査として母親から父親の尾行を命じられ、見たくないものを散々見せられたであろう草間が男性不信になることは当然であろうし、それが統合失調症の発症の元になったといってもおかしくはないと思う。
 今では水玉模様が草間のメインモチーフとして有名であるが、若い頃は「ソフト・スカルプチャー」と呼ばれる男根状のオブジェもよく制作していた。しかしそれはもちろん男根が好きというのではなく、勃起した男根を「ソフト」の素材で制作することで強さと優しさを合わせ持った「理想の男性像」を象徴させたはずである。
 1957年に渡米し、1960年代後半はニューヨークにおいてボディ・ペインティングや裸で街中を走り回る「ハプニング」と呼ばれるパフォーマンスを先導したものの、日本においてはその過激な行動だけが報道され、反戦というメッセージまで伝えられなかったことから草間の地元の長野県松本市では「地元の恥」という汚名を着せられ自殺未遂もあったらしいのだが、これは当時だからということではなく、今の日本でも同様なことが起こったばかりである。
 さらにリチャード・ニクソン(Richard Nixon)がアメリカの大統領に就任した1969年あたりからアメリカ社会が保守的になり、草間は居場所を失ったこともあって1973年に日本に帰国したというのも、今の日本の世相とそっくりである。
 そんな草間が画家として再評価されたのは日本ではなく1993年のイタリアのヴェネツィア・ビエンナーレにおいてであり、この「逆輸入」により日本でも評価されるようになったのも相変わらずといったところである。
 モダンアートとしての草間の凄さは、例えば、地元の松本市の小学生が美術館を訪れると必ず草間の作品に集まるそうで、とかく難解な現代美術作品において余計な説明を必要としないのが草間の作品の特徴で、現役作家として最も売れている理由が分かる。


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