甲府市・阪本とし子(無職・70歳)
ある日スーパーへ買い物に出掛け、中学生になる孫娘の友人のお母さんにお会いしました。お母さん「お元気そうでよかったです」。私「はい、お陰様で、ありがとうございます」。
近ごろ車の中の温度が上がり生ものも買ってあるので、保冷のため細かく砕いた氷をいただこうと列に並んでいたのです。すると前の奥さんが「ハイ、どうぞ」と氷を入れた袋を渡してくださったのです。「まあ、ありがとう。お先にすみませんね」とうれしくなり、主人の運転する車へと乗り込みました。
ところが車中、とても複雑な気持ちになってきてしまったのです。最初の方は年寄りに優しく声を掛け、元気でいることを喜んでくださり、次の方はご自分の氷を後回しにして親切に渡してくださったことが、あの時はあんなにうれしかったのになぜか。「そうか、どこから見ても私は70歳だったんだ」と。
気持ちだけはまだまだと思っていたのだけど、最近腰は痛いし、ジワジワと加齢は感じていたのです。私だって若いころはお年寄りにはできるだけ親切にして差し上げてきたつもりだし、今自分がその年齢になって何を余計なことを考え出してしまったのか。「これからは年相応に人様のご親切には喜んで甘えさせていただき、素直に年を重ねていこう」。後になって変な考えを起こすなんてとんでもないこと。これが昨年暮れ古希を迎えた私なりの結論でした。
毎日新聞 2008年4月20日 東京朝刊
追申
私は外出する時は、電動車椅子に乗っています。近所の人は私が障害者であることを知っているので、やさしく対応してくれます。しかし一歩外に出ると、私のことを知っている人ばかりではありません。中にはとんでもなくつらく当たる人もいます。私は障害者だと思って、他人にしてもらうことが、当然とは思わず、いつも感謝の気持ちを心がけています。

| Trackback ( 0 )
|
|