翻訳者の散歩道

  ☆ 法律翻訳者の思考のあれこれ ☆
(「翻訳者になりたい人のためのブログ」を統合し「第ⅡBlog〇〇編」と表記)

「星の王子さま」に学ぶ翻訳作法

2007年05月14日 | 英語・翻訳
サン=テグジュペリの「星の王子さま」、原題は"Le Petit Prince"で、
直訳すれば「小さな王子」になるところをフランス文学者の内藤濯(あろう)さんが「星の王子さま」と名訳したことで有名です。

内藤濯さんは、その翻訳作法として

 『翻訳は単なる言葉の移し替えではない。原作者が思いをこめて書きあげた文章を的確な美しい日本語であらわすのは言うまでもないが、同時に声を出して読んだのを聞いても、美しいものに仕上げなければならない。』
とされています。

フランス語の原文を読み上げ、日本語の訳文を口述し書き取らせ、それを音読させて直していくという作業を繰り返されたそうです。
こうなると1日の作業は数行に終ることもあり、凡人にはなかなか真似のできないことではあります(汗)。

そして、訳文が出来上がった後にこだわったのが最初に書いたタイトル"Le Petit Prince"の訳!
「小さな王子」では訳文に合わない⇒「星の王子さま」だと語呂もよくピッタリ!
もっとも、これに対しては、タイトルを変えたために大人向きのはずが童話風になってしまったという批判もあったようですが、このタイトルあってこそ、後世に名を残す(名作or)名訳になったのでないでしょうか。

私自身はビジネス翻訳の世界に生きているので、このように格調高い文芸翻訳は想像の域を出ませんが、たしかにフランス語は音がきれいで、これに合わせて日本語訳をつけていくのは大変でしょうがやりがいのある作業だろうな…と、ちょっと憧れてみたりします(ちなみに、フランス語は第2外国語で学習したものの忘却の彼方に^_^;)

ビジネス翻訳でも、英語と日本語、推敲の際には読み上げていますが、法律なんぞ韻を踏んだりするわけがなく(^_^)、結構無味乾燥な世界かもしれません。

上記の内藤濯さんの翻訳作法に関しては、ご長男の内藤初穂さんの文章を参考にさせて頂きました。(学士会会報No.863) 

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