翻訳者の散歩道

  ☆ 法律翻訳者の思考のあれこれ ☆
(「翻訳者になりたい人のためのブログ」を統合し「第ⅡBlog〇〇編」と表記)

時効の起算点

2006年10月13日 | 法律

昨日(10月12日)に、赤ちゃん取り違えによる損害賠償請求につき、東京高裁で東京都(都の産院で出生、取り違え)に対して2千万円の損害賠償金の支払を命じる判決が出ました。(DNA鑑定により両親が実の親ではなかったことを知ったXとその育ての親が、当時の産院を経営していた東京都を訴えた。)

ここで時効の起算点の話をちょこっと(^_^)

 時効には①消滅時効と②取得時効がありますが、本件では①の消滅時効が問題になります。

 債権の消滅時効(10年、民§167Ⅰ)の起算点=債務の履行を求めることができるとき。このときから時効が進行=10年という期間のカウントが始まります。

 本件で問題になったのは→契約不履行による損害賠償請求の時効は成立しているか?=その起算点はいつか?(注:ここで「契約」とは、赤ちゃんを取り違えずに、親に引き渡すというもの)

<第一審>は、時効の起算点を

親が産院を退院した時(1958年)と判断=10年の時効が既に成立=契約不履行に基づく損害賠償請求を認めず。

これに対して、<第二審>(昨日の高裁)は、
時効の起算点を

Xが血液検査で親子関係がない疑いを深めたとき(1997年)=10年の時効はまだ成立していない=損害賠償請求を認める。

このように、「消滅時効の起算点=債務の履行を求めることができるとき」をどのように捉えるかによって、時効の成立につき180度違う結論に達します。(起算点を動かすことで結論がコロっと変わるので、「起算点はいつか?」はとても重要な問題です。)

 不法行為(赤ちゃんを取り違えて引き渡した)に基づく損害賠償については、第一審、第二審共に、20年が経過しており、損害賠償請求は認めず。(民§724)

民§724 不法行為による損害賠償請求権の消滅

民法は、損害賠償請求権の時効による消滅につき、不法行為に関しては特別規定を設けており

「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」から3年間、「不法行為の時」から20年を経過すれば消滅する、としています。

ちなみに、前半の3年間という期間の性質は時効期間であり、後半の20年間の期間の性質は除斥期間と解されています。(注:消滅時効と除斥期間とは性質が異なります。)
除斥はじょせきと読むのですが、変換ミスで?除籍期間というのを読んだことがありますのでご注意下さい(笑)

 素朴な感想

時効制度の意義にはいくつかありますが、そのひとつである

「権利の上に眠っている者は法の保護に値しない」からすれば、

出生後(病院側の過失により)取り違えられたということをXが知った時から時効のカウントが始まる、という考える方が自然であり、妥当だと思いますが、皆さんはどう思われますか?