参院選の本当の争点 池田信夫
注目に値するのは、自民党がマニフェストで「解雇規制を緩和すると同時に、企業における柔軟な経営を行える環境を整備するなど、企業の持続による雇用の安定につなげます」という政策を打ち出したことだ。みんなの党も「民主党政権の派遣禁止法案は、かえって働き方の自由を損ない、雇用を奪うものであり反対」と、昨年の総選挙で派遣労働規制に賛成したのに比べて少しスタンスを変えている。労働市場の問題はこれまでタブーであり、「クビを切りやすくする制度改正はけしからん」という労働組合の攻撃を受けるため、両党ともおっかなびっくりの慎重な表現になっている。
実は、財政赤字と労働市場の問題は表裏一体である。今まで自民党政権が増税を先送りして国債を増発してきたのは、実質的には若い世代から老人への巨額の所得移転である。派遣労働規制も、老人の「終身雇用」を守るために労働市場から若年労働者を排除するものだ。それは投票率の高い老人に迎合する、政治的には合理的な戦術である。愚かなのは、選挙に行かない若者だ。このような政治家の「老人バイアス」は、どこの国でも多かれ少なかれ見られるが、急速に高齢化が進む日本では、世代間の利害対立がもっとも激しい。生涯収入が世代間で7000万円以上違う国というのは、世界でも例をみない。老人のため込んだ資産は消費されないので需要は低下し、若者は「自分の年金は出ないかもしれない」と心配して節約する。このまま放置すると、日本が老人大国になって活力を失うことは確実だ。
そして団塊の世代が首脳陣を占める民主党は、明らかに社会保障の食い逃げをねらっている。「強い社会保障で強い経済が実現する」という支離滅裂な話は、老人の既得権を隠すレトリックだ。私は、選挙で争うべき本当の争点は、右翼とか左翼とかいう冷戦時代の対立ではなく、この世代間対立だと思う。特に労働市場の問題をどう扱うかは、政党の試金石だ。不公正で非効率な所得移転を阻止する系統的な政策を打ち出さないかぎり、自民党も公明党もみんなの党も、政権を取ることはできないだろう。 (アゴラ 6月30日 )
民主党の参議院選のポスターには、「元気な日本を復活させる」とある。労組支配で労働力という貴重なリソースの配置を不効率のまま硬直化させ、増税あるいは官営銀行で民間の資金をまきあげ政治家主導でばらまいても、経済の活力を削ぐだけだ。戦後の日本の経済成長も、マンガやアニメなどの分野における創造性も、すべては自由な競争のもとで民間の力が発揮されて達成されたものだ。最近の中国の経済成長だって苛烈な競争環境があってのものだし、韓国経済が元気を取り戻したというのも敗戦に相当するようなIFMショックがもたらした競争環境への適応による部分が大きい。民主党政権が主導するような、労組支配と政府介入のもとでは、労働力、資本、ノウハウなどの稀少なリソースの効果的な配分による成長など望めない。エコによる経済成長戦略とか言っているが、エコにかかわるイデオロギーや政治的な思惑が前面に出て、科学的事実の吟味もまともな経済的な思考も計算もできていない。民主党政権は悪夢のようだった鳩山政権の二酸化炭素排出25%削減の公約(現時点からは30%以上の削減)を見直そうとする様子はないし、成長戦略とやらの計算も出鱈目だ。だから、「元気な日本を復活させる」の実態は「日本の(未来を食い潰しジジババの)元気を復活させる」だろう。菅首相の強みは、こうした詐欺的なキャッチフレーズを、経済学の基本が分かっていないだけに、恥ずかしげもなく言えることにあるのかもしれない。
注目に値するのは、自民党がマニフェストで「解雇規制を緩和すると同時に、企業における柔軟な経営を行える環境を整備するなど、企業の持続による雇用の安定につなげます」という政策を打ち出したことだ。みんなの党も「民主党政権の派遣禁止法案は、かえって働き方の自由を損ない、雇用を奪うものであり反対」と、昨年の総選挙で派遣労働規制に賛成したのに比べて少しスタンスを変えている。労働市場の問題はこれまでタブーであり、「クビを切りやすくする制度改正はけしからん」という労働組合の攻撃を受けるため、両党ともおっかなびっくりの慎重な表現になっている。
実は、財政赤字と労働市場の問題は表裏一体である。今まで自民党政権が増税を先送りして国債を増発してきたのは、実質的には若い世代から老人への巨額の所得移転である。派遣労働規制も、老人の「終身雇用」を守るために労働市場から若年労働者を排除するものだ。それは投票率の高い老人に迎合する、政治的には合理的な戦術である。愚かなのは、選挙に行かない若者だ。このような政治家の「老人バイアス」は、どこの国でも多かれ少なかれ見られるが、急速に高齢化が進む日本では、世代間の利害対立がもっとも激しい。生涯収入が世代間で7000万円以上違う国というのは、世界でも例をみない。老人のため込んだ資産は消費されないので需要は低下し、若者は「自分の年金は出ないかもしれない」と心配して節約する。このまま放置すると、日本が老人大国になって活力を失うことは確実だ。
そして団塊の世代が首脳陣を占める民主党は、明らかに社会保障の食い逃げをねらっている。「強い社会保障で強い経済が実現する」という支離滅裂な話は、老人の既得権を隠すレトリックだ。私は、選挙で争うべき本当の争点は、右翼とか左翼とかいう冷戦時代の対立ではなく、この世代間対立だと思う。特に労働市場の問題をどう扱うかは、政党の試金石だ。不公正で非効率な所得移転を阻止する系統的な政策を打ち出さないかぎり、自民党も公明党もみんなの党も、政権を取ることはできないだろう。 (アゴラ 6月30日 )
民主党の参議院選のポスターには、「元気な日本を復活させる」とある。労組支配で労働力という貴重なリソースの配置を不効率のまま硬直化させ、増税あるいは官営銀行で民間の資金をまきあげ政治家主導でばらまいても、経済の活力を削ぐだけだ。戦後の日本の経済成長も、マンガやアニメなどの分野における創造性も、すべては自由な競争のもとで民間の力が発揮されて達成されたものだ。最近の中国の経済成長だって苛烈な競争環境があってのものだし、韓国経済が元気を取り戻したというのも敗戦に相当するようなIFMショックがもたらした競争環境への適応による部分が大きい。民主党政権が主導するような、労組支配と政府介入のもとでは、労働力、資本、ノウハウなどの稀少なリソースの効果的な配分による成長など望めない。エコによる経済成長戦略とか言っているが、エコにかかわるイデオロギーや政治的な思惑が前面に出て、科学的事実の吟味もまともな経済的な思考も計算もできていない。民主党政権は悪夢のようだった鳩山政権の二酸化炭素排出25%削減の公約(現時点からは30%以上の削減)を見直そうとする様子はないし、成長戦略とやらの計算も出鱈目だ。だから、「元気な日本を復活させる」の実態は「日本の(未来を食い潰しジジババの)元気を復活させる」だろう。菅首相の強みは、こうした詐欺的なキャッチフレーズを、経済学の基本が分かっていないだけに、恥ずかしげもなく言えることにあるのかもしれない。