すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

ふくやまけいこ「サイゴーさんの幸せ」

2005-08-07 09:03:49 | 書評
「本当に悪い人なんて、いやしない」という感じの物語


Narinari.comを、よく拝見させてもらいます。

サイトで紹介される話題は携帯、PC、ゲーム、野球、芸能、ドラマ等々、多岐に渡っています。
個人的には、興味のない話題の記事(野球とか)もあるのですが、それでも管理者の巧みな語り口で、苦もなく読めてしまいます。

あれだけの更新頻度で、あれだけのクオリティーの文章を書き続ける能力と根性は、いつも感心してしまいます。


そこで、何回かに渡って漫画が紹介されていました。
今回手にした「サイゴーさんの幸せ」は、そこで知ったものです。


ストーリーはと言いますと、銅像だった上野のサイゴーさんが、突然動き出して、町の難題を解決していく…………。
まぁこれだけでは、なにがなんだか分からないと思います。

ストーリーは、かなり独創的なので、正直なところ、「読んでみて」としか言いようがないです。(僕自身も、Narinari.comでの紹介からは、ストーリーを想像できませんでした)

が、登場キャラたちは、けっこうオーソドックスなもの。
 ・喧嘩っ早いけど不良というわけではない、夢を追う高校生の主人公。
 ・その彼に従う、「ヤンス~」とった感じの舎弟。
 ・生真面目でちょっと怒りっぽい、委員長タイプの主人公の幼馴染。
 ・夢を忘れ、仕事に追われてばかりの主人公の兄貴。
 ・汚い手段を使って地上げして、古い町を壊してビルを建て続ける敵役。で、ありながら、ちょっとドジで憎めない。
 ・その地上げ屋の娘。お嬢様タイプの美少女で、表はおしとやかだが、裏ではけっこう強引。主人公に、惚れてしまう。

てな感じ。
「地上げ屋」という言葉から分かる通り、全体的に、ちょっと古いです。

しかし、現代ファンタジー(←こんな言葉はあるのだろうか?)なんで、その古さは、ちょうどいい味付けとなっています。

で、印象に残った言葉。(おそらく、この本を読んだ人、全員の印象に残る言葉でしょうけど)
……「私の」って言ってしまったから
わたしは もう銅像に戻れないのです……
ふくやまけいこ「サイゴーさんの幸せ」374頁 ハヤカワコミック文庫
うーん。
なんか、ちょっと唐突な言葉なんだよね。

サイゴーさんが銅像であったのに意思を持って動き出した原因も説明が少ないのですが、銅像に戻れなくなってしまった原因も、同じように、はっきりとした理由は書かれていません。

銅像という無私の人間(?)の設定だからこそ、多くの欲望が錯綜する現世の問題を解決させる中心となったのは、分かりますけどね。


まぁ、そういう七面倒臭いことは考えなくても、楽しめる作品であることは間違いないです。
ちょっと人情に飢えている方には、よろしいのでは?


サイゴーさんの幸せ

早川書房

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