あるMOT(技術経営)に関する講演会でCTO(チーフテクノロジオフィサー)のミッションに関する議論があった.CTOのミッションは経営戦略と技術戦略とを一致させることである.ここまでは,あたりまえに聞こえるが,経営戦略と技術戦略を一致させるための「プロセス」を構築し,プロセスのオーナーとしてプロセスをメンテナンスすることこそが最大のミッションである,との議論に新しい気づきがあった.すなわち,自分の技術的な見識に基づき個々の意思決定をするのがCTOの本来の役割ではなく,意思決定のプロセスを構築し,プロセスに魂を入れるのがCTOのやるべきこと.ここで,プロセスの典型例が「ステージゲート」である.もちろん,具体的なプロセスの構築・メンテナンスはCTOの下の作業部隊が行うことになる.
ソーシャル・キャピタルとは,人や社会との関係を構築していく組織能力.この能力を企業のケーパビリティと考え,インタンジブルな資産と考える.第4世代R&Dマネジメントにおいては,「思い」を共有するネットワーク型の組織が大きな役割を演じるが,そのような組織をどのように構築するかに関して,ヒントを与えてくれる.リソースベーストビューの1つの具体的なリソースの1つとして,ソーシャルキャピタルを捕らえることができる.
大学と企業と学生がお互いに学びあいながら,スパイラル的に成長するのがコープ教育(co-op education).米国では100年の歴史があるとのこと.日本では,「インターンシップ」と言うとわかりやすいが,日本の現状では学生が「会社とは何か?」を知るのを企業がお手伝いする,同時に良い学生をリクルート意味で確保する,という認識が強い.ただ,企業のMOTケースを作る場合に,コンサル会社が入ると職場のガードが固いが,なぜか学生だと胸襟を開いて本音で何でもしゃべるという現象が顕著とのこと.これは一種のビジネスモデルかもしれない.東工大の「ケース教材開発」はその典型的な成功例.MOTベストプラクティスを企業間で共有するための媒介として「学生」の存在を位置づけることで,企業にとってもリクルート目的だけでない意味のあるインターンシップにならないだろうか.
米国のNII (National Innovation Initiative)が最終レポートを出しました.IBM出身の委員長の名前をとってIパルミザーノ・レポート」とも呼ばれています.
「人材」「投資」「インフラ」の3点で今後25年間の米国の競争力強化のための提案がさせているが,個人的に興味深いアイテムは,
(1)訴訟コストをGDPの2%から1%に下げる.
(2)イノベーションツールとして特許データベースを活用する
(3)産業界主導のロードマップでR&Dの優先度を決める
(4)健康データベースの確立と標準化
である.特に,健康領域の巨大なデータベースが構築されると競争力の源泉となりますね.
「人材」「投資」「インフラ」の3点で今後25年間の米国の競争力強化のための提案がさせているが,個人的に興味深いアイテムは,
(1)訴訟コストをGDPの2%から1%に下げる.
(2)イノベーションツールとして特許データベースを活用する
(3)産業界主導のロードマップでR&Dの優先度を決める
(4)健康データベースの確立と標準化
である.特に,健康領域の巨大なデータベースが構築されると競争力の源泉となりますね.
2005.01.30
イノベーションシステムの必要性
イノベーションを起こしやすくするための「制度=アーキテクチャ」に関する議論がある.国レベルの制度は,ナショナルイノベーションシステム(NIS)と呼ばれる.企業レベルのイノベーションシステムもあるだろう.しかしながら,世の中の過去のイノベーションはそのような「システム」の中から生まれたものなのだろうか?携帯電話の写真メールも当初は「家族の写真を撮るサラリーマン」を想定していたが,実際は「女子高生のシール交換の延長」としてブレークしたという話もある(Michael Bjon: Who decides the success of picture mail?).プロセスイノベーションの典型である「トヨタ生産システム」も,賢い経営者が意図して作ったもではなく,現場の試行錯誤の結果として生き残ったものという分析もある(藤本隆宏:能力構築競争).そもそもイノベーションとは既存の枠組み(フレーム)の外で生まれるものであり,フレームを規定することでイノベーションを阻害しているという言い方もできる.
ただ,偶然によるイノベーション創発は高度経済成長の日本では十分期待できたことかもしれないが,少子高齢化・安定成長の日本では,偶然はどんどんシュリンクしつつある.すなわち,高度経済成長下では,多少のブレ(不均一,分散,遊び,無駄)があっても,結果オーライでうまくいくケースが多く,逆に偶然の入り込む余地も大きかった.しかし,厳しい時代ではキッチリやる企業だけが生き残り,経営システムの収斂,多様性の減少が起こってくる.その意味で,社会としてはイノベーションが起こりにくくなってきているのかもしれない.
イノベーションシステムに求められるのは,偶然に頼らず偶然を生み出す仕組みといえるかもしれない.
イノベーションシステムの必要性
イノベーションを起こしやすくするための「制度=アーキテクチャ」に関する議論がある.国レベルの制度は,ナショナルイノベーションシステム(NIS)と呼ばれる.企業レベルのイノベーションシステムもあるだろう.しかしながら,世の中の過去のイノベーションはそのような「システム」の中から生まれたものなのだろうか?携帯電話の写真メールも当初は「家族の写真を撮るサラリーマン」を想定していたが,実際は「女子高生のシール交換の延長」としてブレークしたという話もある(Michael Bjon: Who decides the success of picture mail?).プロセスイノベーションの典型である「トヨタ生産システム」も,賢い経営者が意図して作ったもではなく,現場の試行錯誤の結果として生き残ったものという分析もある(藤本隆宏:能力構築競争).そもそもイノベーションとは既存の枠組み(フレーム)の外で生まれるものであり,フレームを規定することでイノベーションを阻害しているという言い方もできる.
ただ,偶然によるイノベーション創発は高度経済成長の日本では十分期待できたことかもしれないが,少子高齢化・安定成長の日本では,偶然はどんどんシュリンクしつつある.すなわち,高度経済成長下では,多少のブレ(不均一,分散,遊び,無駄)があっても,結果オーライでうまくいくケースが多く,逆に偶然の入り込む余地も大きかった.しかし,厳しい時代ではキッチリやる企業だけが生き残り,経営システムの収斂,多様性の減少が起こってくる.その意味で,社会としてはイノベーションが起こりにくくなってきているのかもしれない.
イノベーションシステムに求められるのは,偶然に頼らず偶然を生み出す仕組みといえるかもしれない.
例えば,同じ電機メーカーでも企業によってパーフォーマンスは異なる.これを経営戦略論では「Competitive Heterogeneity」と呼ぶらしい.直感的には,企業の体質や文化がパーフォーマンスの差になって表れているが,体質とか文化はなかなか真似できない.だからこそ,資本も技術も情報もグローバル化した時代において,競争力の源泉としての体質とか文化に根ざすケーパビリティの価値が高まっている.真似のできないコアコンピタンスを生み出すのが「中央研究所」のミッションならば,真似のできないケーパビリティの創造・構築も1つのミッションかもしれない.
「ISO9000」とか「ISO14000」と聞くと,よくわからないが面倒な作業が増えたと言う人が多い.「儲かるISO役立つISO」では,ISO取得の取得をきっかけに企業体質の改善に成功した中小企業の事例を紹介し,「やらされ感」でなく,「やるぞ感」でISOに前向きに取り組むためのノウハウを示している.
ある本(Managing Across Cultures)によると,米国では企業は株主のため,日本はお客様のため,欧州は従業員のためという文化的な違いがあるとのこと.確かに,日本のTQM(トータルクォリティマネジメント)では株主のことは何も言ってませんね.品質を高めることを第一義とする点は,一見当たり前のようですが他の文化圏の人には違和感があるのかもしれませんね.
企業のクォリティマネジメントの流派には,日科技連のTQM(Total Quality Management)/デミング賞,国際規格のISO9000:2000,社会経済性本部の日本経営品質賞などがあるが,プロダクトの品質からプロセスの品質,さらには経営の品質という方向性は皆同じようである.