老いは特権
敬老の日を前に
今日の天声人語は,老いをいかに生きるかという問いを発し,その答えとして,東京大学の小林武彦教授の,「老いは進化の過程でヒトが獲得した特権で,若い人たちを支えるためにある」という答えを引用している。
この答えは本質を突いている。岩波新書(1961年)に収録されている名著,アドルフ・ボルトマンの『人間はどこまで動物か』の中で,ヒトを人間らしくしている特徴として,成人に至るまでの時間の長さと,寿命の長さが挙げられている。
ヒトの寿命が長くなったのは,狩猟採集社会において,母親が採集に出かけた間の子どもの面倒を年寄りに依頼することが,進化上有利だったからという学説がある。
そういった何らかの理由によるヒトの長命化は,世代間の重なる時間を増大させ,しかも言葉による伝達があって,人間としての文化を発展させてきたと言うことができよう。
動物の老化と,ヒトの老化の違いは,それに要する時間の長さだけにあるのではなく,蓄えられた英知が次の世代に伝えられる機会が増大していることにある。これが,「進化で獲得した特権」である。
ともすれば,若い世代の世話になってと,肩身の狭い思いをさせられる老人ではあるが,特権を行使し,若者にわれわれの蓄えてきた英知を伝え,年寄りが誰かのためになっていることを若者に知らせて,未来に希望を持たせようではないか。リア王のように絶望せずに。
ソバの花
この花は短花柱花のようだ,阿見町にて撮影。
ソバが花を着けた。ソバの花には,雌しべが長く雄しべが短い「長花柱花」と,雌しべが短く雄しべが長い「短花柱花」の2種類があり,受粉はこの異形花の間で行われる。このような性質を異花形花といい,サクラソウの仲間にもみられる。
この性質が,自家受粉を妨げて集団に多様性をもたらすことを19世紀に指摘したのが,チャールズ・ダーウィンである。
彼は,「昆虫が吸蜜のために訪花した時,長花柱花では頭の方が雄しべに触れるので,花粉が頭部につき,次に短花柱花で吸蜜すると短い雌しべに受粉する。その逆に,短花柱花の次に長花柱花を訪問すると,お尻についた花粉で長いめしべの先に受粉できる」という仮説を提唱した。いかにもダーウィンらしい卓見である。
STOP WAR!