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観客席で思ったこと ~200文字限定のスポーツコラム~
 



※2014年11月に「TVステーションWEBサイト」に掲載したものを再録しました。


[2]コンパクトよりもレガシー重視の会場計画を!

■ 2020年東京大会の会場を見直し
 報道によれば、11月中をめどに、2020年東京オリンピック・パラリンピックの会場の見直しが行われている。招致に成功した猪瀬直樹前東京都知事の後任の舛添要一知事が、予算の効率的な運用、すなわち大会の準備・運営費の削減などのために、立候補ファイルにある会場計画に異を唱えたのだ。現在、再検討されている会場は、トライアスロン、バドミントン、バスケットボール、ヨット、カヌー、水球など。
 トライアスロンは、お台場海浜公園で行われる予定だが、そこは上空をヘリコプターが飛べない航空管制地域である。つまり、トライアスロン競技の模様を上空から撮影できない。また、お台場周辺の海の水質も、海水浴の基準を満たしていないという。事実だとしたら「アスリート・ファースト」が聞いてあきれる。東京の地図をながめただけで、会場を決めてしまったと言われてもしようがない。
 バドミントンとバスケットボール会場は、施設を新設するのを取りやめ、バドミントンは調布市のスポーツ施設へ、バスケットボールはさいたまスーパーアリーナへの変更を検討しているようだ。ヨット会場も新設予定だったが、トライアスロンと同じように空撮が難しいこともあり、千葉市の稲毛ヨットハーバーや神奈川・江の島が代替候補になっている。カヌー会場だった葛西臨海公園は、以前より自然破壊を危惧する声が多かったこともあり、隣接地に変更する可能性が高そうだ。
 なお、水球会場は、晴海に仮設する予定だったが、すでにある辰巳国際水泳競技場を使うことで国際水泳連盟も合意していて、変更は決定的だ。

■ 東京の売りは「コンパクト」
 もともと東京大会の会場計画の売りは、「コンパクト」。立候補ファイルには、「私たちの大会コンセプトは、大都市の中心でかつてないほどコンパクトな大会を開催し、スポーツと感動の中心にアスリートを据えることである」とある。意味がわかりにくい文章だが、要するに「アスリートが最大限のパフォーマンスを発揮できるように、環境を整える=移動距離を少なくする」ということだろう。
 しかし、本当のところ、コンパクトの恩恵を受けるのは、大会期間中、いろんな会場に顔をださなければならない国際オリンピック委員会(IOC)の委員や大会役員、メディア関係者なのだ。選手は、競技場が遠ければ、選手村とは別に近くに宿舎を構えるだろう。実際に、有力選手が選手村に入らないことは多い。観客はどうか。一般の観客が、1日にいくつもの会場をはしごして見るほど、高額かつ競争率の高い観戦チケットを入手できるとは思えない。アスリートや観客よりも、VIPや関係者のためのコンパクトなのだ。
 そのために、江東区晴海に造る選手村を中心に、半径8km以内にほとんどの競技会場を配置する計画にした。その結果、特に湾岸エリアに、仮設を含めて、いくつもの競技施設を新設しなければならず、また、一部の会場では、整備に大規模な自然破壊を引き起こすことになったのだ。しばしば、「レガシー(=遺産:施設やノウハウ・経験など大会後に残る有形・無形のものを意味する)」として施設の後利用などが取りざたされるが、それ以前の段階で、多くの問題を抱えていたことになる。2020年東京大会の会場計画は、開催を勝ち取るためだけの、まさに「絵に描いた餅」だった。オリンピック招致をミッションとする人たちが考えた計画なのだから当然かもしれない。「レガシーを考えるのは、招致委員会や組織委員会ではなく、開催地の人たち」と言い切る関係者もいる。

■コンパクトよりも重要なレガシー
 しかし、今、ようやくその計画にメスが入り、現実味のある計画に変わろうとしている(と思いたい)。この会場計画の見直し、再検討には、おおいに賛成だ。できることなら、会場とともに開催時期も見直してほしいところだが…。
 見直しの方向としては、すでに検討されているように半径8㎞にとらわれることなく、さらに広範囲に会場を配置するのがよいのではないか。会場を狭い範囲に集中させるから、インフラの整備なども、その狭い範囲とそこを中心とするものに限られてしまう。羽田や成田空港から都心部へのアクセスの改善や都心の地下鉄駅の新設などだ。しかし、広範囲にバランスよく会場を配置して、その間の交通・通信網の整備をすれば、より多くの都民、国民がオリンピックをきっかけとしたインフラ整備の恩恵を受けることができる。
 コンパクトのメリットが及ぶのは、短い大会期間中だけで、VIPや関係者に限られる。しかし、大会のために新設、整備された施設やインフラは、大会後数十年間、利用されるものだ。また、そうでなければならない。16日間の狂騒のためではなく、その後の50年を見据えた会場計画に重きが置かれるべきだろう。コンパクトよりもレガシーを重視した計画を、ぜひとも再設計してもらいたい。
 次回は、2020年東京オリンピックで実施される予定の競技について考えてみる。




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