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お勧め曲 ~K BUMP OF CHICKIN 中編~

2008-10-14 | お勧め曲
・・・あれから2年、僕は背の高い怪しい男と一緒に住んでいた。
男は“エカキ”と呼ばれていた。
真っ白い紙に、先の黒い木の棒を使って手品のように、風景を作り出していく。
それが誰かの気に入るものだった場合、エカキにお金が入るらしい。
そんなとき、エカキの顔はとてもうれしそうだった。
僕も、そんなエカキを見ているとなんだかとてもうれしくなるんだ。

「おい、ホーリーナイト。そろそろ帰るか?」
公園で日向ぼっこをしていた僕にエカキが話しかけてきた。
ホーリーナイトというのは2年前のあの日、エカキと僕が友達になったときに、エカキがくれた名前だ。

「お前はとても美しい色をしているなぁ。黒は高貴な色なんだぞ。」
家までの帰り道、腕の中の僕にエカキは話しかけてきた。
「黒・・・夜か。“聖なる夜”なんてどうだ?お前にぴったりだろ?」
不思議な安堵感に包まれていた僕は、うとうとしながら話を聞いていた。
「ホーリーナイト!お前は今日からホーリーナイトだ!」
突然の大声に眠りを妨げられた僕は、抗議の声を上げた。
エカキはそれを承諾の合図とでも思ったらしい。
「そうか!気に入ったか、ホーリーナイト!お前も気に入ったんだなぁ!」
僕の両脇を持って掲げたままうれしそうに大声を張り上げていた。
僕は正直、名前なんてどうでもいいと思っていた。
ただ、お腹が空いていた。


あくびをしながら全身をドーム型に伸ばした僕は、歩き出したエカキの後ろを付いていった。
エカキは脇にスケッチブックを挟んでいる。
どうやら昼寝している僕を描いていたらしい。
エカキは僕を見ながら、スケッチブックを黒く塗ることが多かった。
それまで描いていた風景画とかは結構な値段で売れていたけど、僕をモデルにした絵はなかなか売れなかった。
絵を見たお客さんの反応は大体同じだった。
「黒猫なんて不吉だ、こんな絵はいらない。」
そのセリフを聞くたびにエカキは悲しそうな顔をした。
そして、僕にこういうのだ。
「いつかきっとお前の良さをわかってくれる人が来るさ。こんなにキレイなんだもんな。」
そんなとき、僕はなんだか申し訳ない気持ちになって、一言だけ短く返すことにしていた。
「そうだね。」って。


でも、最近は絵がさっぱり売れていない。
僕に会う前に描いていた絵は、一枚を除いて全部売れてしまった。
最後に売れたのは秋の初めだったから、3ヶ月近くもお金が入ってないことになる。
それでもエカキは僕を描き続けていた。
「いつかお前の絵がみんなに認められる日が来るぞ。もう少しの辛抱だ。」
そういってエカキは「にっ」と笑った。
相変わらず風のような笑顔だ。
ただ、その顔は前よりも痩せていた。

「もうすぐクリスマスだな。ホーリーナイト。」
歩きながらエカキが言った。
「去年は二人で一本のチキンを食べたなぁ。あれはうまかったなぁ。」
僕の脳裏にエカキの部屋で食べたチキンの味が思い出される。
僕の名前が最もよく合う日だからってことで、手持ちのわずかなお金でチキンを買ってくれた。
とても美味しかったあの味を、今年も食べれるのかと思うと僕の小さな胸は高鳴った。

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