原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

受け控えるべきか悩んでいる方へ

2011-04-29 | 新司法試験制度・情報など
間もなく,5月。(私が合格したのは2年前の平成21年ですので)2年前のそのころの心境を(今となっては懐かしく)思い出します。去年(平成22年)は,5月下旬から開講されるスタ短特訓の準備をしていました。そして,ちょうどその頃,知り合いの受験生から「受け控えるべきか?」という相談を実に多くされました。ブログをお読みの方でも,同じように考えている人もいるかもしれません。

結論からいうと,原則として,受け控えることのないようにすべきであると思います。直前期というのが最も緊張感・集中力を持って勉強しますから,その「勢い」を妨げることはよくない,というのが私なりの意見です。

ただ,そうは言っても,受験のチャンスが限られている以上,合格の可能性がほとんどないのであれば,受け控えという選択肢もあり得ると思います。

難しいのは,その基準です。そして,私が思うに,その基準は,受験回数ごと異なるものかな,と。1回目の受験は,迷ったら受けて然るべきと思います。不合格の場合であっても,そこから得るものはあるし,何よりも一度本試験を経験しておくことがリベンジする時に非常に重要になります。本試験の受験経験がないと,当然ながら本試験のイメージができないのですよね。いかに本試験が過酷な状況で行われるか,正確な思考ができないといかに苦労するか,といった点を知っておくのは重要です。

1回目の受験で受け控えをする基準は,短答で歯が立たないか否かであると思います。短答の得点の振れ幅は,最大で,どんなに大きくても,実力プラスマイナス1割強であると思います。350点満点ですから,大きく振れて30~40点といったところだと思います。ですから,TKCや模試や答練の平均スコアが合格推定点から30~40点以上離れているのであれば,短答を通過することはかなり厳しいと思われます。215点から30~40点を引くと,175~185点となるので,このあたりがその具体的数字になると思います(ただ,TKCは本試験よりもやや難易度が高く,その点まで考えると特定の数字を出すのは難しいのですが…)。いずれにせよ,このあたりの点数だと,やはりまだまだ勉強不足の段階であり,仮に短答を通過しても論文が厳しいのではないかと思います。「いや,自分は論文は得意なのだ」と考える方もいるかと思いますが,かつて書いたことのあるように,短答知識がないならば,それは正確な法的知識・思考力がないのであって,論文「は」得意,ということは通常,起こりえないものだと私は思います。やはり腰を据えて勉強しなくてはいけない。

2回目,3回目の受験は,もう少し慎重になる方が多いだろうし,それはその通りであると思います。1回目の受験よりも,基準を上げて考えるべきだと思います。

いずれにせよ,それは試験前日に考えればよいことであり,どのような状況でも,試験前日まで,自分が立てた計画通り勉強していくことが大切です。着実に,求められる質・量の勉強をする以外に,合格の方法はないはず。そして,それを達成しているならば,さしあたり修習生バッジが,「今年」与えられるのです。

*5月2日まで,パソコンに触れない生活をすると思うので,次回の更新は5月3日以降になる予定です。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
要証事実の抽出 (TM)
2011-04-30 12:31:58
出題趣旨などで試験委員は、要証事実の的確な抽出を求めていると思うのですが、未だに初見の問題を見ると、非伝聞の典型例(言動自体・精神状況など)以外では、何を要証事実として認定すべきなのか迷ってしまいます。
訴因・罪名から構成要件を参考に考えてみるものの、なんとなく合ってたり合ってなかったり。50:50みたいな感じです。

そうすると結局、供述内容の真実性を確認するべき場面か否かも必然的に誤り、伝聞例外検討に進むのかor非伝聞で終わってしまうのかでも痛い目を見ます。。

要証事実の的確な抽出の仕方やその勉強方法について、何かアドバイスを頂きたいのですがよろしくお願いいたします。

(何故か伝聞マスターな人はこの部分は絶対に間違えない気がします。。)
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Unknown (匿名@横浜)
2011-04-30 17:48:48
たしかに、最大40点ぐらい上下しますね…笑いごとではないですし…いろいろあったのも事実ですが…
模試を受けた感想です。

スタ短とっていたとはいえ、もともと苦手なので…250ぐらいの人は場合によっては怖いことになると思いました。


はじめて受けますが、模試を受けただけで燃え付きかける大変な試験だなと…
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匿名@横浜さん (はら)
2011-05-03 09:24:56
そうなんですよね,一発勝負というのはやはり出来不出来の問題があります。不合理ではあるのですが,他面においては,「上に振れる」ことももちろんあるわけです。直前期の気の持ち方としては,こちらが正解です。250点の人なら,290点になる余地もあるわけです。実際に,そういう例も見ました。

模試で燃え尽きましたか。私も経験があります。当日は,かなりの部分で気力・体力勝負になります。いかに最後まで喰らい付くかが大事で,投げたら終わり,これが司法試験です。このことを,頭のどこかに置いておく必要があります。それを知ったことだけでも,模試を受けた価値はあると思います。

ラストスパート,頑張ってください!
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TMさん (はら)
2011-05-03 09:57:12
>出題趣旨などで試験委員は、要証事実の的確な抽出を求めていると思うのですが、未だに初見の問題を見ると、非伝聞の典型例(言動自体・精神状況など)以外では、何を要証事実として認定すべきなのか迷ってしまいます。

上記の発想の順序にやや誤りがあるでしょうか。要証事実に絶対の正解・不正解というのはないんですよね。

平成21年(2009年)の問題をみてください。実況見分で被告人が車を海に沈めた犯行再現がされています。検察は「車を海に沈めることができたこと(犯行の物理的可能性)」を立証趣旨とし,弁護人は「被告人が車を海に沈めて死体遺棄したこと(被告人が実行行為を行ったこと)」を立証趣旨と捉えて不同意としています。前者であれば,実況見分調書に記載された内容の真実性は問題とならない(要は物理的に車を海に沈めることができたとわかればいい)が,後者であれば本当に被告人がそのようにして車を沈めて死体遺棄をしたのかが問題になるわけです。前者の場合は,「…可能であること」が実行行為の存在を推認する間接事実になるわけです。その際に,言葉(調書記載事項)の内容は問題にならないことを類型化するために,「発言自体が問題なる」とか「精神状態の供述」などの言い方がされます。

とはいえ,立証趣旨には絶対の拘束力はなく,事実認定の問題の問題なので最終的には裁判所が判断するのですから,平成22年(2010年)の問題のように立証趣旨が明示されていない問題では,受験生がそれを確定することになります。この時の視点ですが,「この証拠からMAXでどこまで認定可能か」という視点を持つをよいです。平成21年(2009年)の問題では,検察はあくまでも物理的可能性を立証するにすぎないというのですが,弁護人は「いやいや,MAXで実行行為をしたことまで言えるだろう。だからそれを裁判官に晒すわけにはいかないよ」と言うわけです。伝聞性についての瑕疵は,一度「見て」「読んで」しまえば治癒できないわけですから,「~~まで認定可能である以上,立証趣旨は……と捉えるべきであり,そうすると調書中の--という部分の内容の真実性が問題になるので,伝聞だ」というような論調が望ましいのではないかと思います。

なお,「~~まで認定できる」の「~~」については,これは検察官が何の立証責任を負っているかから考えます。これは,TMさんも参考にされているように,(基本的には)構成要件事実の存在です。実行行為,結果,因果関係,主観的構成要件要素,そして,共犯であれば共謀などでしょうか。平成21年(2009年)の問題では,実行行為につき,検察は「それが可能であったこと」という間接事実として実行見分調書を使おうとした,弁護人としては実行行為を直接認定する自白調書として捉えた,こういう枠組みになっているわけです。

この時期にオススメできるのは,別冊法セミの「新司法試験の問題と解説」です。特に,平成21年(2009年)と平成22年(2010年)の解説と答案例に目を通してみてください。学者の先生が執筆されているので,構成・体裁は受験上あまり参考にならないのですが,考え方を学ぶうえでは非常に参考になります。
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Unknown (TM)
2011-05-04 00:47:27
貴重なアドバイスありがとうございます。
Tbを見つつその証拠の存在自体を要証事実としたときに意味があるのかないのかを考えるという手順でやっていても、結局意味があるのかないのかの判断がつかないという状態に陥っていました。(TB事実推認の足しになるのかならないのかが判別できませんでした。)

しかし、上記の「MAXどこまでか」という視点は21年の問題ではつかみやすいので大変参考になりました。
法セミ見ながらちょっと思考手順のトレーニングをしてみようと思います。
ありがとうございました。
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Unknown (はら)
2011-05-04 09:42:11
試験的には,その視点でよいと思います。実際は,証拠の提出者≒検察官が特定するもので,そこに特別なルールは存在しないものなのですけれど,それでは答案が非論理になっちゃいますから。

ただ,この点をあまりに気にしすぎて,立証趣旨が既に特定されている問題で,それを看過して厚く論じないでくださいね。答練の採点をしていると,稀にそういった答案に出くわしました。
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