原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

被告人も,受刑者も…

2011-04-28 | 日記
ここ最近,ちょっと気になるニュースがありましたので,紹介します。報道等でご存知の方も多いでしょう。

1.受刑者が総額2156万円の義援金

全国の受刑者が,自発的に寄付をしたそうです。法務省によると,受刑者が刑務所に入る際に預けた領置金や,所内での作業で得た作業報奨金から「自発的に」送金を申し出たため,刑務所が日本赤十字社や中央共同募金会への振り込み・送金を代行していると。法務省は通常,受刑者による寄付などは公表しないそうなのですが,今回は異例の公表だそうです。

2.大阪高裁が一審で実刑の被告人の震災ボランティアを考慮し猶予判決

大麻取締法違反の罪に問われ,一審で実刑判決を受けた被告人の控訴審判決で,大阪高裁は,被告が保釈中に東日本大震災のボランティアに従事したことなどを一審判決後の事情として評価して1審判決を破棄し,懲役2年・執行猶予5年を言い渡したそうです。

被告人は,一審で懲役1年6月(求刑・懲役2年)の実刑判決を受けた後,控訴→保釈中に,友人らと協力して募金や物資を集め,日本赤十字社などに送ったほか,高裁の許可を得て被災地の宮城県に入り,がれきの撤去作業などのボランティア活動に従事したとそうです。

裁判長は「1審判決の言い渡し時点では量刑が重過ぎて不当とまでは言えない」としたものの,ボランティア活動に触れ,社会内で更生する機会を与えるのが相当などと指摘して猶予付判決にしたと。被告は判決後,「今まで悪いことばかりしてきたので,少しでも人の役に立ちたい」と話し,来週から再び被災地に行く予定だとか。

…やっぱり,震災の被災地を案ずる気持は被告人・受刑者いえども同じなんですよね。刑裁修習や検察修習を通じて感じたことですが,被疑者・被告人・受刑者も皆同じ「人」であって,何かどこかで物事がうまくいかず,犯罪を犯してしまう。そして,多くは自分のやったことは悪いことだと認識し,反省もし,何かしらの方法で社会復帰なり社会貢献をしたい。ただ,一度レールをはずれてしまうと,それに戻ることは実際問題として非常に難しい。また,物事がうまくいかなくなって,警察や検察のやっかいになる…。現在,被害者保護が非常にクローズアップされていますが(そしてそれはもちろん非常に重要だが),罪を犯した者が社会復帰し,再び社会貢献できる体制・制度作りも同じく重要であると思います。

なお,2つめのニュースから,法律知識をちょっと確認。被告人は高裁で執行猶予「5年」の判決を受けています。この「5年」は執行猶予の最長期間です。執行猶予は3年くらいの判決が一番多く,4年だと結構厳しい,5年となると裁判官がかなり悩んだ末の猶予,被告人に相当な反省を求める猶予といった感覚でしょうか。

また,「1審判決の言い渡し時点では量刑が重過ぎて不当とまでは言えない」という判示に間接的に表現されているのですが,刑事の高裁(二審)は事後審です。一審をさらに続けるというイメージではなく,一審の判決を後からチェックするものです。ですから,原則として新たな証拠は提出できません。しかし,一審後に量刑に影響を与える事情が出てくれば,例外的にその証拠の提出を認め,証拠調べを行います。よくあるケースとしては,一審後に被害弁償がされて被害が回復されたので,実刑は重すぎるという高裁(二審)の判断でしょうか。今回,こういった理由で弁護人はボランティアをしたことを証拠として提出したのですね。事後審なので,被告人の出頭は任意とされている点も併せて確認できるとよいです。

それから,一審で実刑判決を受けた被告人がボランティアに行けたように,控訴されて裁判が確定していなければ依然として被告人であり(受刑者ではなく),当然,保釈できます。旧ライブドアの堀江元社長なんかを見てもそれはわかりますよね。問題として「文字で」聞かれるとちょっと「えっ?」と思う点かもしれないので,確認を。

受験生の皆さんは最後の追い込みの時期ですが,修習生は明日から10連休。「修習生は」というのは少々語弊があって,修習地・配属先によって取り扱いが異なるようです。修習中に何度か自由研究日という事実上の休みがあって,広島の民裁修習はそれが5月の2日と6日に設定されているので,全部つながって10連休。同じ広島でも,検察は違うらしい…。受験生の皆様,来年は長いGWですので,今年は必至の追い込みを!

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3 コメント

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相談です (BB)
2011-04-29 01:08:11
はじめまして。先生の講座は受講したことがないのですが、辰巳のHPからこちらを知り、以来毎日読ませていただいております。楽しくもあり勉強にもさせていただいております。

実は、受け控えをするべきか悩んでいます。ロー未修で入って、いわゆる現役の受験生です。今年合格することを目指して勉強をしてきましたが、短答の点が伸びず、合格する自信が持てません。受け控えをするべきでしょうか、またするかしないかの基準は例えば短答の点数ならどの程度に設定すべきでしょうか。先生なりのお考えをどうかお聞かせください。

お休みに入るところ大変申し訳ないのですが、何卒よろしくお願い致します。3年間何をしてきたのだと思うと同時に、悩んでいます。
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Unknown (はら)
2011-04-29 09:14:10
その点で悩んでいるのはBBさんだけではないと思います。個別的事情は様々あって,なかなかお答えしにくいところではあるのですが,あくまでも一般論として思うところを記事にまとめてみました。それを読んで頂いて考えてみてはいかがでしょうか。

回数制限制度,ホント厳しいですよね。とにもかくにも,受けるにせよ控えるにせよ,今はペースを崩さずに着実に勉強を重ねていくことが大事です!
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Unknown (BB)
2011-04-30 07:27:51
素早いご回答に心より感謝いたします。そのように検討してみます。

重ねて、ありがとうございます。
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