この章では、聖句主義土壌のない日本において、聖句主義「的」な自由思考空間が形成され
効力を発揮している事例を紹介し、かつ、それが日本で普及する可能性について考えてみます。
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バイブリシズム土壌は自由思考の土壌でもあります。
そして自由な思考は管理階層システムの中では不可能で、
それは自ずと任意連携空間を求めます。
ですから聖句主義土壌からは草木が芽を出すかのごとくに
任意連携システムが様々な形態でもって芽生えてくるのです。
前章でわれわれは米国という国家の中にその事例をみました。
翻って日本を見ますと、そのような土壌はありません。
むしろ歴史的に管理階層的な意識が非常に濃い土壌です。
だが、もしもその地において自由思考の空間が、強い力でもって作られたらどうなるか。
それはやはり英米で見られたような効果を上げるでしょう。
自由思考空間自体の効力はユニバーサルなのです。
そして日本にはそうした事態も生じています。それは企業という社会集団に優れて現れています。
セラミックメーカーから多角的に発展した京セラ社はその代表事例です。
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この企業では創業者稲盛和夫が試行錯誤を通して、ピラミッド体制の中に
複数の自由思考小集団を形成いたしました。
会社の前身は京都セラミックといいます。
これを創業した稲盛はファインセラミック新製品を次々に開発し商品化にも成功しました。
その結果企業規模は急速に拡大し、28名から始めた会社が5年もたたないうちに従業員が
100名。200名、300名へと増えていきました。
その間稲盛は,開発、製造から営業に至るまで陣頭指揮者として奮闘してきましたが、
さすがに身体がもたなくなった。
そこで権限委譲をして中間管理層を形成しましたが、彼にはピラミッド型組織を拡大するだけでは
解決しきれない問題が感じ取れました。彼は著書『アメーバ経営』(28~29頁)でこうのべています~
「従業員が100名のころまではひとりでやれたんだから、会社を小集団の組織に分けたらどうだろう。
100名を管理できるリーダーはまだいないかもしれないが、
20~30名の小集団を任せられるリーダーは育ってきている。
そういう人に小集団のリーダーを任せて管理してもらえればよいではないか」
~これが後に外部者からアメーバと呼ばれることになる自由思考小集団の始まりでした。
稲盛はこれを管理階層システムの中に形成する準備に着手しました。
その際彼は同時にこう考えました。
「どうせ会社を小集団に分けるなら、その組織を独立採算にできないだろうか。
会社をビジネスの単位になりうる最小の単位にまで分割し、その組織にそれぞれリーダーをおいて
まるで小さな町工場のように独立して採算を管理してもらえるように」
そこで稲盛は素人にもわかりやすい簡素な損益計算書を考案しました。
そしてこの簡易会計システムでもって小集団ごとに採算を把握させたのです。
彼はその成果を周期的に全社員の前で公表させました。
収益の高い集団に対しては全員で感謝の意を表するようにしました。
報賞はそれにとどめ、給与や昇進には反映させませんでした。
それでも社員の精神に創意と自発性が急上昇しました。
のみならず社員個々人にコスト意識、経営マインドが芽生えた。
さらにリーダーが育つようになった。稲盛はそう振り返っています。
<KDDIと日本航空への援用>
稲盛は後にこの方式でもって他の経営体をも活性化していきます。
後に日本電電公社(NTT)の通信事業独占に終止符を打ち、国際的にも異様に高い
通信料金を解消するという社会的課題が彼に課せられました。
これを受けて第二電電を創業した彼は、稲盛方式でもって、現在のKDDIに育て上げています。
最近では、経営破綻した日本航空の再建を依頼されて会長を引き受けました。
これもまたアメーバ方式でもってわずか一年間で大幅な黒字体質を実現し、
二年後には更生手続きを終結させています。
京セラはその他コピー機会社からホテルに至るまで経営不振に陥った企業を吸収し、
やはりこの稲盛方式でもって再建しています。