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BL小説・風のゆくえには~巡合3(慶視点)

2016年02月27日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


「あーー………」
 生徒会室の一角に用意された文化祭実行委員用のテーブルに突っ伏していると、バサバサと頭を書類で叩かれた。

「渋谷、大丈夫?」
「ダメです……」

 昨年、実行委員長を務めていて、今年は副委員長を引き受けてくれた鈴木真弓先輩に正直に答えると、真弓先輩はカラカラと笑い、

「まあ、あたしも去年そうだったから分かるよ。どうしても委員長に仕事集まっちゃうからね」
「一日36時間欲しいです……」
「残念ながら24時間しかないので。はい、これ目、通して」
「鬼だ……」

 ブツブツいいながら、新たに提出されてきた企画書に目を通しはじめる。
 実は、仕事自体は苦痛ではない。むしろ結構好きだ。ただ……

(浩介に会いたい)

 重症な浩介欠乏症だ……。
 いや、正確には、浩介には会えているのだ。同じクラスなのだから当たり前だ。
 そう考えると、昨年よりはマシなのかもしれない。思えば昨年の今ごろはまったく会えていなかった。

(でも、全然話してない)

 おれもおれで実行委員長の仕事に忙殺されているけれども、浩介も浩介でクラスの文化祭の準備で忙しいのだ。おれが学校に着くと、浩介の周りにはすでに誰かしらいて、挨拶すらできないことも多い。


 浩介は、企画が決まってすぐに、かなり詳細な計画表と役割分担を打ち出してきた。一緒に委員をやっている浜野さんも、大人しいけれども冷静で頭の良い女子なので、二人は仕事のパートナーとして相性は良さそうだった。

 喫茶店、ということだったけれども、結局はお団子屋さん、になった。
 メニューの選定・仕入れを担当するメニュー班、食事に使用する小物を担当する小物班、衣装を担当する衣装班、部屋のレイアウト・飾り付けを担当するする飾り付け班、ポスターを担当する広報班。以上5班にわかれてそれぞれ期日までに与えられた仕事をこなすことになっている。

 はじめは遠慮がちだった浩介も、日が経つにつれ、だいぶハッキリと意見を言うようになってきた。それでも、絶対に押しつけるような言い方はしないし、相手の意見をきちんと受け止めてくれるので、リーダーとしての信頼度は確実に上がってきている。

(おれも一緒にやりたいなあ……)

 でも、本部の仕事があって、クラスの方も写真部の方も何もできないのが現状だ。


「あれ、渋谷、今日写真部の活動日だろ?」
「あー……うん……」

 入ってくるなり、言ってきた安倍康彦、通称ヤスにおざなりに返事をする。
 写真部……行きたいけれど、今日中にやらなくてはならないことが山のようにあって……

「え、そうなの? 気晴らしに顔だしてくれば?」
「でも……」

 真弓先輩の言葉に心がぐらつく。写真部……浩介いるかな……

「行ってこいよ! 渋谷! 会いたいだろ~?」
「え?!」

 能天気なヤスの言葉にぎょっとする。な、なんで……
 あわあわとしてしまったおれに、真弓先輩がキョトンとする。

「え、なに、渋谷、写真部に彼女でもいるの?」
「えっいやそのっ」
「いるんですよーすっごい可愛い子が!」
「は?!」

 可愛い子? 今度はおれがキョトンとしてしまう。

「可愛い子って?」
「またまた~~。あの一年の子! お前狙ってんだろ~?」

 一年は、妹の南と真理子ちゃんしかいないので、自動的に真理子ちゃんのことになる。
 で、え? おれが真理子ちゃんを狙ってるって、なんだそりゃ。

「いや、あの子は……」
 否定しようとしたところを、ヤスが更にニヤニヤと、

「すっごい小さくて女の子らしくて可愛い子なんですよ~渋谷のタイプのドストライク!」
「え……」

 あ、そういうことか。
 昨年、おれがまだ浩介への恋心を自覚する前に、ヤスとそんな話をしたことがある。おれのタイプは、おれより身長が10センチ以上低い、女の子らしい子だ、と。考えてみたら、真理子ちゃんは、その条件をバッチリ満たしている。今まで気が付かなかった……

「へー渋谷、小さい子が好みなんだ? じゃ、あたしなんかまったく眼中ないって感じだね」
「え?! いやいやいや……」

 真弓先輩のムッとしたような声に慌てて首をふる。真弓先輩、おれより10センチ以上身長高いから……

「そんなこと言ってたのは去年までで、おれ、今は、身長とか全然気にしてない……」
「ああ、いいいい。とっとと行って、元気になって、また帰ってきなさい。仕事はそれから!」
「わっ」

 ひょいっと脇を掴まれて立たされてしまった。さすが元バレーボール部のエース。まるで子供扱いだ。
 それからヤスがおれの背中をドーンと押してきた。

「じゃ、渋谷、楽しんでこいよ~」
「その間に、安倍、今出てきてる請求書のチェックするから」
「昨日もしたじゃないですか?!」
「また新しいの出てきてんの!」

 二人がワアワア騒いでる間にそっと生徒会室を抜け出す。

(浩介……)

 久しぶりに、ちゃんと話せる……かな。


***


 写真部の部室に入ってみると、ビックリするくらいの量の写真がテーブルの上にしきつめられていた。

「うわ……すげえな」
「あれ、お兄ちゃん」

 南がおれに気がつき、手を止めた。

「本部は大丈夫なの?」
「いや……ちょっとしたら戻る」
「そう。大変だね」

 言いながら、ニヤッと笑うと、

「浩介さんならまだ来てないよ」
「…………。聞いてねえよ」

 前々からずっと思ってたんだけど……こいつ、おれの気持ちに気が付いてるよな……。

 南は中学に入る前から、本の趣味がおかしな方向に行ってしまい、今では友達と一緒におれと父には見せられないような本を作ったりしている。作った本は見せてくれないけど、その他のことは隠す気はないらしく、うちのリビングには男同士がイチャイチャしているような表紙の本が普通に置かれていて……

(思えば……浩介への気持ちを、悩みつつも受け入れることができたのは、そういう下地があったからなんだろうなあ……)

 南が気が付いているかどうかは、怖いから確認したくない。
 でも時々、さりげなくおれと浩介を二人きりになるように仕向けたりするところをみると……


「あ、渋谷先輩!」
 もう一人の一年生、橘真理子ちゃんが暗室から出てきた。
 あらためて真理子ちゃんを見てみる。確かに、おれよりおそらく10センチ以上小さい。そして可愛い。でも、実は腹黒いことをおれは知っている。

「これ、見ましたー? すごい良い写真なんですよ」
「うわ!」

 差し出された写真をみて思わず叫んでしまう。合宿の時の朝日の写真。素晴らしい色彩だ。

「こんな写真あったっけ?」
「お兄ちゃんが別のカメラで撮ってたらしくて、こないだ現像したんです」
「へええ………」

 めくっていき……

「!!」

 息を飲んでしまった。これは……

「これ、すごくいいですよね~。あーずるいなあ……」
「………」

 真理子ちゃんのつぶやきも耳に入らない。
 だって……この写真!

「浩介……」

 柔らかい、でも、うちに強さを秘めたような瞳。少し笑っている口元……
 なんていい表情してるんだ。なんて……

 見惚れてしまう。っていうか、この写真欲しい……。

「あーあ。これでお兄ちゃんに撮ってもらってないの私だけですよ!」
「え」

 真理子ちゃんの大きなため息に我に返る。真理子ちゃんのお兄さん、橘先輩は真理子ちゃんのことだけは頑なに撮ってあげないのだ。

 真理子ちゃんは、実兄である橘先輩に本気で恋をしている。それは人には知られてはいけない思い………おれと同じだ。そのせいか、真理子ちゃんには勝手に親近感を感じている。

「渋谷先輩なんて何枚あるんだ!ってくらい撮られてて、ホントにずるい!」
「まあまあ」

 ぶーっと膨れた顔が可愛くて、思わず頭をポンポンとする。

「橘先輩におれからも頼んでみるよ」
「そうしてください! 絶対ですよ!」
「わかったわかった」

 真理子ちゃん可愛いなあ。南もこのくらい可愛げがあったらいいのに……

 と、そこへ。

「あれ? 浩介さん?」
「え?」

 南の声に振り返ると、浩介が入り口近くに突っ立っていた。何か、ぼんやりとした表情をしている。 

「浩介?」
 呼びかけると、浩介はゆっくりと微笑んだ。切ないほど悲しい瞳をしているように見えるのは気のせいだろうか……


***


 最高に気が利くおれの妹・南様が「ジュース買いにいこ~」と真理子ちゃんを外に連れ出してくれたので、浩介と部室で二人きりになれた。

(南……さっきは『真理子ちゃんくらい可愛げがあったらいいのに』なんて思って悪かったっ)

 心の中で南に平身低頭で謝って、浩介と隣の席に座り、写真の振り分け作業をし始めてみる。この大量の写真を部活ごとにまとめているらしい。


 やっぱり元気のない浩介……何かあったんだろうか。

「どうした? なんかトラブル?」
「うん……」

 大きく息をつく浩介。やっぱりな……。

「おれでよければ相談のるぞ? つーか、たぶんおれが一番相談役に適任だぞ? クラスのことに関わってないから公平なジャッジができるし、実行委員長として何かアドバイスできることもあるかもしれないし」
「慶……」

 頭を優しく撫でてやると、浩介はふにゃっとした顔になり、ぽつぽつと話しだした。


 トラブルの内容は、「衣装班が予算を千円もオーバーしてしまった」という単純だけれども、頭の痛い問題だった。
 もう生地を切ってしまったため返品も不可能。よってどこかで千円も削らなくてはならない。一応予備費として500円とってあったので実質は500円でもいい。でもこれから何かあるかもしれないから、やはり千円削りたい。

「飾りつけとポスターは本当にギリギリの予算だから無理。となると、団子の仕入れ本数を減らすか、紙皿とかをもっと安いものにするか……でも……」

 浩介は、再び大きく息を吐いた。

「仕入れ本数減らしたら、すぐ店じまいになっちゃうし、紙皿もあんまり安っぽいのは嫌だよねっていって、浜野さん達とアチコチ探し回って、ようやくいいもの探しだしたのに……」

 浩介は日曜日も浜野さん達小物班と一緒に店回りしていたらしい。

「自腹切りたくなっちゃうよ」
「自腹切るのは禁止だからな?」
「うん……」

 はああ……とまたため息……。
 何か良い方法は……

「ちょっと予算書見せてくれ」
「うん」

 見せてくれた予算書に目を通す。かなり細かく予算が組まれているので、逆に何も動かせない事態に陥っているともいえる。でも、どこにも無駄のない適切な予算が当てられていると思う。さすがだ。

「これ……やっぱり小物班の予算を削るしかないな」
「だよね……」

 やはり浩介も思うところはここなのだろう。でも、一緒に探し回っただけに諦めきれない、といったところか。

「ああ、もう、自腹切ってあの紙皿買いたい。ホントに本物みたいにみえるお皿なんだよ」
「本物みたいに……」

 本物みたいに……

「なあ……」
 ふと閃いた。

「本物使うっていうのはどうだ?」
「え?」

 目をパチパチさせた浩介に畳みかける。

「あのな、自腹切ることは禁止だけど、今持っているものを使うのはOKなんだよ」
「今持ってるって……」
「一人2枚、家から皿を持ってくるだけで80枚になる」
「あ」

 はっとしたように浩介が口に手をあてた。

「なるほど……家で余ってるお皿とか湯呑とか集めるだけで何とかなるかも……?」
「ただ、食器に統一性がなくなるのが問題だな」
「あ……でも」

 浩介がピッと人差し指を立てた。

「テーブルごとに合っていれば問題ないよね。種類ごとに振り分けておいて、同じテーブルには同じ感じのお皿と湯のみで出すようにすれば……」
「ああ、なるほど!いけるな」
「うん。いける……」

 うなずき合い、拳をこつんと合わせる。 

「家庭科室のシンク使用の申請もまだ間に合うしな」
「いつまで?」
「明後日の朝」

 バッと浩介が立ち上がった。

「おれ、ちょっと美術部いってくる。浜野さん今日部活出るって言ってたから」
「おれも行く!」

 パズルが合わさるような感覚。二人でいれば何でもできる!っていう充実感がたまらなく気持ちいい。


 暗室にいる橘先輩に声をかけてから、2人で美術室に向かう。

「なあなあ、おれにも何かやらせてくれよ。一人蚊帳の外って感じでさみしいんだけど」
「え、でも本部の仕事……」

 心配げに振り返った浩介に、軽く手を振る。

「明後日が申請書類の最終締め切りだから、その処理が終わったらちょっとの間だけ時間が空くらしいんだよ」
「そうなんだ……あ!」
「え?」

 もう美術室の前まで来ていたのに、急に腕を捕まれ廊下の端まで連れていかれた。久しぶりの体の密着に、余計にドキドキしてしまう。

「な、何………」
「じゃ、モデルできる?」
「は?」

 モデル? 何の話だ。

「浜野さんが慶に絵のモデルをお願いしたいんだって」
「は? なんで? 意味分かんねーんだけど」

 眉を寄せると………ふいに、浩介が真顔になった。

「本当に、分からない……?」
「え?」
 ドキッと心臓が跳ね上がる。

「浩介……?」

 また、さっきのような、切ない、悲しい色になった瞳がこちらをジッと見つめながら……

「!」
 冷たい人差し指が、おれの額から眉間、鼻筋と辿りながらツーッとおりてきて、唇で止まった。

(うわ……っ)

 何……何だよ……っ

 体中の血が頭にのぼったんじゃないかというくらい、顔が熱い。動悸が早くなりすぎて倒れそうだ。

(浩介………っ)

 そんなおれの内心なんか全然気が付いた様子もなく、浩介は手を離してふっと笑うと、

「慶は本当に綺麗な顔してるもん。描いてみたくもなるでしょ」
「……なんだそりゃ」

 意味がわからない。描いてみたくなるって意味も、今、顔を触られた意味も……

 浩介は少し肩をすくめて言葉を継いだ。

「慶がダメだったらおれがやるんだよ」
「え」
「おれは完璧な平均的な顔だから、それもそれでいいらしくて」
「…………」

 浩介がモデル……?

 モデルってことは、ジーッと見られるってことだよな……
 浩介と浜野さんが二人きりで……浜野さんが浩介のことをジッと見つめ続ける……

(………冗談じゃない)

 そんなこと、許せるわけがない。

「おれがやる」
「え、いいの?」
「やる」
「………ありがと」

 強く言いきると、浩介がホッとしたように息をついだ。それから「あ、そうだ」とポンと手を打った。

「お団子の試食、一緒にしない? メニュー班と浜野さんで日曜日集まるんだけど空いてる?」
「空いてる! やる!」

 ようやくクラスの企画に初参加だ!
 せっかく浩介と同じクラスなんだから、少しでも一緒に活動したい。

 浩介はふんわりとした笑顔を浮かべると、

「良かった。慶がいてくれたら心強い」
「そうか?」
「うん」

 そして、優しい手がおれの頬に少しだけ触れた。

「やっぱり、どうしても、おれには慶が必要」
「…………え」

 それはどういう意味……

 聞く前に、浩介はふいっと背を向けて美術室に向かって歩いていってしまった。

 さっきせっかく感じたパズルが合わさるような感覚がバラバラと散っていく……

(慶が必要……)

 そう言いながら、背を向けるお前の心はどこにあるんだ? その悲しい瞳は何なんだ……?




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お読みくださりありがとうございました!
時間がない二人……もどかしい……
また明後日、よろしくお願いいたします!

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