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BL小説・風のゆくえには~月光4(慶視点)

2016年02月15日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 月光

 失敗したなあ……

 何度目かのため息をついてしまう。
 なんであんなことを言ってしまったんだろう。

『お前にとってのおれも、そうであってくれたら嬉しいんだけどな』

 これ、ほとんど告白じゃないか? 
 やっぱり浩介も変に思ったのか、その後、みんなで銭湯にいったんだけど、妙によそよそしかった。

 せっかくの銭湯……せっかくの浩介との銭湯……

 せっかくあれやこれやと楽しみに(決して下ネタ的な楽しみではない!)していたのに、浩介は脱衣所でもたもたしていて遅れて入ってきたかと思ったら、たいして風呂に浸かりもせずにさっさと上がっていってしまって……

 何が面白くておれ、中年の小太りのオジサン(顧問の中森先生、とも言う)と二人で風呂に浸かってるんだ? せめて橘先輩、入ってきてくれよ……。

 念を込めてシャワーを浴び続けている橘先輩の背中をジーっと見ていたら、ようやく入ってきてくれて、中森と話しはじめてくれたから助かった。

(あーあ……)
 ぶくぶくぶく……と鼻まで顔をつける。
 あれやこれや思うことが多すぎて……

(だいたい、浩介が悪いんだ!)
 文句もいいたくなる!
 6月の末に、バスケ部の美幸さんに失恋して以来、浩介は美幸さんに回っていた気持ちを全部おれに向けようとしてるみたいに、やたらめったら引っ付いてきているのだ。嬉しいけど……嬉しいけど、やっぱりちょっと困る、とあらためて思った。

 だって……友達でいようと決めたのに、変な期待をしたくなってしまう。
 そんな中で、あんな無防備な泣き顔を見せられたりしたら、もう自制が………

(でも、浩介、確実にノーマルなんだよなあ……)
 女性である美幸さんに恋をしていたくらいだ。男のおれを恋愛対象として見れるわけがない。

(だから、親友で……)
 いつまでも一緒にいるために、親友でいるんだ……


***


 銭湯から学校に帰ると、新たにOBが1人、OGが2人増えていた。毎年、合宿の時にOBが訪れるのは恒例となっているらしい。
 先にきていた五十嵐先輩が、留守番を買って出てくれて一人部室で待っていたおかげで、行き違いにならずにすんだようだ。
 
 元々夕飯として購入してあった弁当類と、先輩方が買ってきてくれた惣菜等ですぐに宴会がはじまる。
 マイペースな中森先生は、自分の分の食料を確保すると、早々に職員室に帰っていった。生徒と交流する気はサラサラないらしい。いると鬱陶しいだけなので助かるけど。

 はじめは、最近の写真部の活動のことなど、真面目な話をしていたのに、食事も終わり、おやつを食べはじめたあたりで、合宿のお約束が始まった。

「で? 新人ちゃん達は彼氏彼女いるの?」
「……………」

 どうして合宿の夜とか修学旅行の夜とかって、みんな恋の話をするんだろうか……。

「いません」と、おれ。
「いません」と、浩介。
「いません」と、南。
「いません。あ、好きな人はいるんですけど!」

 最後に真理子ちゃんがニッコリと答えた。
 真理子ちゃんは実の兄である橘先輩に密かに片想いをしている……。

「なーんだ。みんなだらしないなあ……」

 今春卒業したという女性の先輩が、呆れたように肩をすくめてから、橘先輩を振り返った。

「橘君はあの彼女とまだ付き合ってるの?」
「別れました!」

 橘先輩が答えるよりも前に真理子ちゃんがムッとして答える。
 へえ……橘先輩って彼女いたんだ……

「え、なんで? 美人な彼女だったよねえ? 振られちゃった?」

 不躾な質問にも関わらず、橘先輩は顔色ひとつ変えず、淡々と答えた。

「おれは進学しないからいいですけど、彼女は受験生ですから。恋愛は勉強の妨げになるので別れました」
「え、それどっちがいいだしたの?」
「オレですけど」
「なにそれ、最低~~!」

 うそーと叫ぶOG二人。

「そこを支えてあげるのが彼氏でしょ! 別れるなんて最悪!」
「やっぱ橘、最低~~」
「どうしてですかっ」

 本人でなく真理子ちゃんがムキになっている。

「学生の本分は勉強です! テスト前にもデートに誘ってくるような人なんだから別れて正解です!」
「橘妹、厳しいっ」

 あまりもの真理子ちゃんの剣幕に、OG2人も引いてしまっている。

「えー、私は橘先輩優しいなあって感心したけど?」
 おもむろに南が言った。

「だって、彼女の将来のために身を引いたってことでしょ? 本当にその彼女さんのこと好きなんだなあって」
「違うっ。そのくらいで身を引けるんだから、たいして好きじゃなかったんだよっ」

 真理子ちゃんがムスっとして言い返す。

「本当に好きだったら、何があったって離れるなんてできないでしょ?」
「えー、本当に好きだから、離れたんだと思うけど?」
「違う違うっ」
「でも、彼女にしてみたら別れたら勉強身に入らないよね~」
「いえてる!」

 OGも加わり、当の本人そっちのけで、女子だけが盛り上がっている。
 そんな女子達の恋愛話に辟易して、残りの男子で再び今年の文化祭のことについて話しをしていたのだけれど、

「炭酸とかないの? なんかキッツーい炭酸飲みたくない?」
「ああ、じゃあ、買ってくるよ」

 もう一人のOBの言葉に、一番の年長者の五十嵐先輩が立ち上がった。が、

「ああああっ。ダメです先輩っ」

 女子の中で騒いでいたはずの南が、五十嵐先輩にすがった。

「そんな、先輩に買い物なんて行かせられません! それは下っ端の仕事です!」
「でも、もう外暗いし、女の子に行かせるわけには……」
「大丈夫です! はいっお兄ちゃんっ浩介さんっ」
「え?」

 突然名前を呼ばれきょとんとする。

「買い物、2人でよろしくでーす」
「あ……」

 南……

 我が妹ながら……なんて良い奴!!

「もちろん!おれ達で行きます!」
「いや、オレ行くから……」
「いやいや! 大丈夫です! な?」

 五十嵐先輩の申し出に思いきり首を振ってお断りし、浩介を振り返ると、浩介もコクコク肯いている。

「じゃあ、渋谷、桜井、行ってきてくれるか?」

 橘先輩が立ち上がり、

「校門でて左まっすぐ行ったところの酒屋な? 領収書もらってきて」
「はい」

 お金の入った封筒を渡してくれた。
 この人、今も女子達が自分のことでわあわあ言っているのに、まったく動じてない。ポーカーフェイスが上手なのか、単に鈍感なのか……


 外はもうすっかり暗くなっていた。

「橘先輩に彼女がいたなんて意外じゃない?」
「だよなあ」

 銭湯でよそよそしかったのは気のせいだったのか、もういつもの浩介に戻っていてホッとする。

「どうなんだろうね? 橘先輩、まだその彼女のこと好きなのかな」
「うーん……」

 もしそうだとすると真理子ちゃん可哀想だな……と心の中で思う。
 真理子ちゃんの想いはおれしか知らない。
 相手に知られてはいけない想い……おれと一緒だ。

「まだ好きなのに、彼女の将来を思って別れたんだとしたら、相当えらいよね」
「お前だって同じだろ。美幸さんのこと好きなくせに、田辺先輩とくっつけてやって……」

 浩介は片想いをしていた美幸さんが、男子バスケ部キャプテンの田辺先輩と両想いだということに気がつき、キューピット役をしてあげたのだ。

「お前は……どうなわけ?」
「え?」

 ずっと、聞きたかったこと。意を決して聞いてみる。

「お前は……まだ、美幸さんのこと、好きなのか?」
「あー……」

 ドキドキドキドキ……と心臓の音ばかり聞こえてきて耳の中がぼわっとなる。
 そんなおれの気持ちなんて知らないまま、浩介は呑気に答えた。

「うーん……好き? かなあ? でも、引退して会えなくなったし、思い出すことほとんどないかも」
「え?!」

 思い出さないって………

「まあ、美幸さんにはもう田辺先輩がいるしね。おれがどうこういう話じゃないし」
「……そっか」
「それにさ」
「!」

 ふいにポンと頭に手を置かれ、心臓が飛び上がる。不意打ちやめろ……っ

 そんなおれの動揺にも気がつかず、浩介がニッコリと笑いかけてくる。

「おれには慶がいるし。ね」
「……え」

「おれ、恋より友情に生きることにしたの」
「なんだそりゃ」

 泣きたくなってくる。
 浩介の思いがおれの思いとは違うことはわかっているけれど……それでも、おれを選んでくれたことが嬉しくて。そして、思いが交わることはないということを突きつけられて、苦しくて……


 その後も、夜の雰囲気がそうさせるのか、珍しく浩介は饒舌だった。親の話をしてくれたり、昨日までの合宿の話をしてくれたり……
 夜道を歩きながらの、たわいのない話。まるでデートだ。

 やっぱり、浩介との二人の時間は、心地良くて、楽しくて……


 街灯に照らされて長く伸びる影……その影の、浩介の左手の先に、そっと自分の右手の影を合わせる。

 影だけみたら手をつないでいるみたい。

 本当に触れているかのように右手がジンジンと温かくなってくる。

(本当に、こうやって手を繋いで歩くことができたら、どんなに……)

 でもそれは無理。叶わない願いだから……

 せめて、影だけでも触れさせて。


「月がキレイだねえ」

 ふんわりと笑う浩介が、愛おしい。

「キレイだな」

 心から肯く。
 こうやって、一緒に同じものをみて、同じことを感じたい。ずっと、そばにいたい。

 だからおれは、お前の『親友』でいる。




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お読みくださりありがとうございました!

『あいじょうのかたち』をお読みくださった方で、記憶力のすっごい良い方はお気づきかもしれません。
ラストの影で手を繋ぐシーンは、『あいじょうのかたち23』で、慶が思いだして話していたその話です。

実はこのプロットを書いたとき(私が現役女子高生のとき!)は、『月が綺麗ですね』(夏目漱石が『I love you』を『月が綺麗ね』とでも訳しておけと言ったという話)って知らなかったんです。
単に、買いだしの帰りに影で手を繋ぐ、としかなかったので、今回はあえてその話に触れませんでした。

『月光』慶視点はこれで終わりです。
『月光』浩介視点があと2回あって、本終了となります。

また明後日、よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!こんな真面目な話なのに有り難いやら申し訳ないやら……。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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コメント (3)
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