goo blog サービス終了のお知らせ 

創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

風のゆくえには~ あいじょうのかたち24(慶視点)

2015年09月28日 22時30分49秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 スポーツジムの帰り道、上弦の月を見上げながら、高校時代のことを思い出していた。

 高1の秋から一年以上、おれは浩介に片想いをしていた。あの時はどんな形であってもいいから、とにかく浩介と一緒にいたいと思っていた。

 当時のおれが今のおれをみたら何て言うだろう。きっと「ぜいたくだ!」と怒りだすだろうな。

 ずっと好きだった浩介から、こんなにも愛されて、求められて、一緒に暮らせているというのに、他のことで頭を悩ませているなんて。

 もっとシンプルに考えよう。おれの願いはなんだ? それは浩介と共に生きること。それ以外何もいらない。
 だったらもう、他のことはどうでもいいじゃないか。

 ………。

 とは言っても……。

 医師の仕事をまっとうしたいし、おれのせいで人に迷惑をかけるのは嫌だし………。
 
 でも、浩介と一緒にいることは譲れない。

 やっぱりぜいたくなんだろうな。


***


『性的指向と医師としての腕は関係ない。二度とそんな話をするな。馬鹿馬鹿しい』

 外科の外村先生がそうガツンと怒ってくれたそうで、病院内での表立っての批判めいた声は落ちついた。看護師軍団は、西田さんの誘導のおかげか、わりと好意的な対応をしてくれているので、仕事自体に支障がでることはない。

 ただ、患者さんの中で噂は流れはじめていて……

 正面切って、幼稚園生の女の子に「男なのに男を好きなんて変だから直したほうがいいよ」と言われた時には、さすがに凹んだ。その子のママは、あわてて娘の口をふさいで愛想笑いしてくれたけど……みんなそういうこと言ってるんだろうなあ……。

 これで患者さんの数が減っていったら……病院自体に変な噂をたてられたら……考えだしたらキリがない。

 病院で平気なフリを演じている反動で、一度病院を出るとドッと疲れが押し寄せてくる。

 家に帰れば浩介がいてくれて、心配してくれていることも、愛してくれていることも分かっているのに、不安になる。いや、不安というか……もっとちゃんと見てほしい、と思ってしまう。もっと愛してほしいと思ってしまう。

 今、浩介と一緒にいるために、おれはこれだけ大変な思いをしているんだから、その分を埋めるくらいちゃんと愛してほしい……なんて、ヒドイことを思ってしまう。

 こんなあさましい自分は嫌だと思うのだけれど、我慢できない。でも、そんなことを言って、浩介に嫌われたくない、なんて今さらなことを思って、ドツボにはまっていく……。


 でも、カミングアウトして約10日後。

 その抑えきれなくなった思いの一端を浩介にぶちまげて、いつもよりも激しく体を重ねたら……なんか吹っ切れた。

 もう、なるようになれ、だ。
 おれは別に悪いことは何もしていない。堂々としていればいいんだ。

 今さらだけど、そんなことを思った。


**


 そう吹っ切れた翌日、土曜日のこと。


「やっぱり、渋谷先生じゃないとダメだわー」

 本日最後の患者さん。小学校一年生の男の子と幼稚園の年中の女の子のママである藤木さんが明るく言ってくれた。大柄で迫力のあるママなんだけれども、子供も負けず劣らず大柄で腕白。毎回「先生聞いてよー」と愚痴からはじまるママなのだ。

 今回は、風邪治りかけの二人を連れてきた。
 なんでも、火曜日の朝に二人一緒に熱がでてしまい、火曜日はおれが休みでいないため、駅前のクリニックに行ったそうなのだ。でも、そこでは二人が代わる代わるにギャンギャン騒いだせいでロクな診察もできなかったそうで……

「渋谷先生は怒るときはビシッと怒ってくれるから、うちの子たちも大人しーく診察うけてくれるんだよね。やっぱ男の先生ってのはそういうところがいいよね」

 二カッと笑う藤木さん。そして、ケロッと言い放った。

「そのくせ、女みたいな気遣いができるってーのは、やっぱりゲイだからなの?」
「……っ」

 ブッと思いっきり吹き出してしまった。ここまではっきりと保護者の方から言われたのは初めてでビックリした。後ろに控えていた看護師の谷口さんも「えっ」と驚きの声をあげる。

「あれ、看護師さん、知らんかった? 渋谷先生ってゲイなんだよ。ねえ? 先生」
「は……はい」

 思わず肯く。藤木兄妹は「ゲイってなんずら?」「芸能人ってことずらよ」と、流行っているアニメの方言を使ってボソボソ言い合っている。

 藤木さんに声をひそめて聞いてみる。

「あの……その話、どこから……」
「みんな言ってるよ?」

 引き続き、ケロリとしていう藤木さん。みんなというのはどこまでのみんななんだろう……

「で、みんなで言ってたんよ。先生がこれだけ色々気を回せるのはゲイだからだったんだねーって」
「………」

 なんだかよくわからない世間一般のゲイの定義……

「あ、先生」
 ふいに藤木さんがおれの左手を指さして首を傾げた。

「指輪、最近してないって噂聞いてたけど、ホントにしてないんだね」
「あ……」

 実は『男の恋人がいる』と掲示板に書かれてから、指輪をするのをやめてしまっていた。

「先生、結婚してたけど離婚したってこと?」
「あ、いえ……違います」

 ここまで話すのもなんだけれども、この際だからぶっちゃげる。

「結婚はしてません。あの指輪は彼とお揃いで作ったもので……」
「なんでするのやめちゃったの? 別れたの?」
「別れてません!」

 思わず力強く否定すると、藤木さんがケタケタ笑いだした。

「じゃあ、すればいいじゃん。そんな力いっぱい『別れてません』って、先生かわいいね」
「………」

 うまく乗せられてしまった…。

「ねえ、その彼と付き合ってどのくらいになんの?」
「高校の時からなので、24年……」
「え?!」

 谷口さんも一緒になって「え?!」と言う。

「ちょっと待って。先生、いくつなの?」
「……41です」
「えーーーー!見えなーい! しかも高校からずっとって長っ! 純愛な感じでいいじゃーん!」

 うわーこの情報はみんなに流さないとーと藤木さんはブツブツ言いながら立ち上がった。

「それじゃ、先生。彼氏によろしくね」
「……はい。お大事に」
 
 もうここまで言われると笑うしかない。

 藤木さん親子がにぎやかに出て行くと、谷口さんがブツブツと言いはじめた。

「藤木さんは、上の子が〇〇小で、でも下の子は××幼稚園で、△△小に上の子がいる子が多いから……、今の話、来週中にはここら辺一体の幼稚園小学校のママ達に伝わりますよ」
「谷口さん、詳しいね」

 ビックリして言うと、谷口さんはちょっと肩をすくめた。

「インフルエンザとか嘔吐下痢とか学校幼稚園単位で流行りますから、どの子がどこに通ってるかはチェックするようにしてるんです」
「ああそうか。なるほど」

 こういうところ、看護師さんには本当に助けられている。

「こういう噂もインフルエンザとかと一緒ですもんね」
「確かに……」
「でも、いい傾向ですよ。藤木さんはボスママなので、そのボスママが良いといえば、みんな良いに傾きます」

 ボスママ? なんだそりゃ。

 首を傾げると、谷口さんは苦笑しながら言いきってくれた。

「気にしないでください。先生は今まで通り、患者さんに向き合っていてくれればいいんです」
「…………。ありがとう」

 数秒の間の後、頭を下げる。

 そうだ。今まで通り。おれは何も変わらない。今まで通りでいいんだ。


***


 診察が終わったら電話してほしい、と戸田先生からの伝言があったため、電話してみると、

「桜井さんの実家の住所を教えてください」

と、言われた。もしかしたら、昨日、浩介の母親がクリニックを訪れたかもしれないらしい。戸田先生ではない先生が担当をしたそうで、今朝のカンファレンスで戸田先生が気がついたそうだ。

 浩介の実家の住所の市区町村まで答えると「やっぱり!」と戸田先生がはしゃいだ声をあげた。ビンゴらしい。


「桜井さん、ゴールデンウィークに渋谷先生のご一家と一緒に、近くの大型商業施設に行きませんでした?」
「ああ……行きました」

 ゴールデンウィークは、おれが病院に出勤しなくてはならない日もあったので、結局3日しか休みはなかった。

 それなので、一日は家で延々とウダウダして過ごし、一日は、浩介の勤務する学校の卒業生である目黒樹理亜の家へ、飼い猫を見に行き(そこで知り合った、三好羅々という19歳の少女がやたらと浩介にラインを送ってくるので、ちょっとムカついている心の狭いおれ)……

 そして、もう一日は、おれの母と妹の南の娘の西子ちゃんと4人で、近所の大型商業施設に行った。この近くに浩介の実家があるので、浩介のご両親と鉢合わせしたらどうしよう、と思ったのだが、浩介が「うちの親がこんなところにくるわけないでしょ」と言うので、みんなで車で行ったのだが……。

「桜井さんのお母さん、そこで桜井さんのことをご覧になって、自分も息子と一緒に買い物をしたいって思ったそうです」
「……………」

 ぐっと胸が詰まる。そこで話しかけてこなかった浩介の母親の気持ちを思うと……。

「そうするためにはどうしたらいいかってご相談くださって」
「そうですか……」

 まずは一歩前進だ。きっとうまく行く日がくる……。

「これから桜井さんの予約の時間なので、そのことをご本人にもお伝えしようと思いますけど、よろしいですか?」
「それはもう、お任せします」


 戸田先生は信頼のできる心療内科医だ。

 先日も、浩介がずっと不安に思っていたらしいことを、あっさりと解決してくれた。その不安というのは、

 どうしておれが浩介を好きになったのか?

 そんなことは、好きになったんだから好きってだけでそれ以上でもそれ以下でもないのに、浩介はその理由を知りたかったらしく……。

 戸田先生は、おれの「保護欲」がかきたてられたからだ、と言って、浩介を納得させた。


 でも、実はあとから、戸田先生にコッソリ言われた。

「保護欲云々の話は、桜井さんを納得させるためのこじつけみたいなものなので、あまり気にしないでください」
「………」

 そうだったのか!とおれまで納得させられていたからビックリだ。

 でも、こじつけでもなんでも、これで浩介が落ちついたのは事実で、瞳の奥まで穏やかになった気がする。そして、逆にこのカミングアウト問題でおれがボロボロになっているところをずっと支えてくれていた。

 この調子なら、ご両親との確執も、解決の方向に進んでくれるのではないか、と期待してしまう。
 今日、浩介の母親も一歩踏み出してくれたという話を聞いて、浩介はどう思うのだろう。

 ………と、思っていたのだが。

 2時半過ぎ、先ほど話したばかりの戸田先生から電話がかかってきた。

「桜井さん、まだいらっしゃらないんですけど、何か聞いてませんか?」

 予約は2時……。生真面目な浩介が遅刻をするとは思えない。何かあったんだろうか。


「まさか、まだ寝てんじゃねえだろうな……」

 昨晩、浩介がギブアップするまでやり続け、今朝も無理矢理叩き起こして一発抜いてから、ヘロヘロの浩介をベッドの上に置き去りにして出勤してきたからな……

 なんて絶対に人には言えない話を飲み込んで、浩介の携帯にかけてみる。呼び出し音はするけれど出ない……。

「…………」

 電車の運行状況をチェックしたが、うちからクリニックの最寄り駅までの電車に遅延情報はない。

 何かあったんじゃないだろうな……


 土曜日の診察は午前中で終わったので、あとの仕事はどうにでもなる。早退して家に様子を見に戻りたい。立ち上がり、谷口さんに声をかけようとしたところで、


「………あ」

 着信。メールだ。相手は浩介。

(ったく、ビビらせんなよ……)

 メールを送れるような状態なら、体に異常はないってことだな?
 ホッとしてメールを開き……

「!!」

 我が目を疑った。目を一回つむってから、ゆっくり開ける。そしてもう一度画面を見る……


「なんだこれ……」

 題名も本文も何もない。あったのは添付の写真だけ。

 そこには、裸で抱き合う、浩介と三好羅々の姿があった。



-----------------



以上です。
お読みくださりありがとうございました!

前半は前2回の裏話的な感じで。
そして、慶が吹っ切れた激しく体を重ねた話は、「R18・嫉妬と苦痛と快楽と」でした。

次回は樹理亜視点でいこうかな、と。
また次回もよろしければ、お願いいたします。

そして、クリックしてくださった数人の方々、本当にありがとうございます!
本当に本当に嬉しいです。ありがとうございました!!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風のゆくえには~ あいじょうのかたち23(浩介視点)

2015年09月21日 23時51分25秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 今さら気がついたことなんだけれども……

 おれは慶を「抱いている」というより「抱かれている」と感じることの方が多い。

 物理的にいうとおれの方が『する側』なのでおかしな話なのかもしれない。でも、その最も物理的な話の時に、よく小説の描写である「貫く」という感覚よりも、「包み込まれていく」という感覚になることが多いのだ。

 「抱いている」とか「貫く」と感じる時もないことはないのだけれど、それはたいてい自分が一方的に攻撃的な気持ちになっている時であって、きちんと気持ちまで一つになっているときは、包み込まれていく、とかそんな風に感じる……

「……んだけど、慶はどう思う?」

 慶の完璧に整った顔を下から見上げながら聞くと、

「なに冷静に分析してんだよ」
 慶はムッとしたように言い、繋いでいる手にますますぎゅうっと力を入れ、

「んな面倒くせえこと考えられないようにしてやる」
「……っ」

 ほら、包み込まれていく。捕らえられていく………。

「慶……」
 もう、慶のことしか考えられない………。


***


 慶のおれを思ってくれる気持ちは『保護欲』からきている。おれは慶のその欲求を満たすことのできる存在だ、と、心療内科の戸田先生に指摘されて以来、おれは驚くほど心が軽くなった。

 おれは慶に必要とされている。
 おれは慶と一緒にいていいんだ。

 今までよりも、もっと慶のそばにいたい。一分一秒でも離れていたくない。そう強く願っていたのだけれど………


『渋谷慶医師には男の恋人がいる』

 そう慶の勤務先の病院にメールがきて、大手口コミサイトにも同様の内容が載せられてしまったのは、5月の連休明けのことだった。

 それ以来、なるべく外では一緒に行動するのを控えることにした。
 せっかく一緒のスポーツジムに入会したのに、ジムの中でも行きも帰りも別々………。

 残念だけど、しょうがない。

 実は、日本を離れていた間もこんな感じだった。同性愛を認めていない宗教が主流の国にいたことが多かったため、一緒に住んではいたけれど、共に行動することは必要最低限にとどめていたのだ。

 日本では少しは自由に行動できると思ったのに………。
 誰がこんな書き込みをしたのだろう。同棲していることまで書かれていたということは、近所の住民かもしれない。誰かがおれ達が一緒に住んでいることを不快に思っているということなのだろうか………。 


 二度目の書き込みがあったのは、その一週間後のことだった。
 隠しきれなくなった慶は、ついに職場でカミングアウトしたそうだ。

 大半は表向きは好意的に受け取ってくれたけれど、皆が皆そうだったわけではなく………。
 あからさまに避けてくる人、嫌みを言ってくる人、逆に「実は自分も……」とこっそり打ち明けてくる人、様々だそうだ。

 患者さんも今は表立って動きはないけれど、今後こなくなる人もいるだろう、と慶はいう。やはりどうあっても、生理的にだったり、宗教的にだったり、受け入れられない人は受け入れられない。それはもう覚悟の上のことだ。


 慶の病院での立場が気になり、慶の病院でも勤めている戸田先生に聞いてみたところ、

「院長と外村先生がはっきりと渋谷先生の味方してるので、今、何だかんだ言ってる人達もそのうち言わなくなると思いますよ」

と、言われた。戸田先生によると、


『院長は知ってたんですか? 知っていたのに皆に言わないなんて無責任です』

 そう文句を言ってきた一部の職員に対し、院長はケロリと、

『この病院はいつから従業員のプライベートまで公表しなくちゃいけなくなったんだ? それじゃ、誰々は女子高生大好きです、とか、誰々は二次元にしか興味ありません、とか全部公表しなくちゃなんねえなあ』

と、言ってその職員達を黙らせたそうだ。そして、

『渋谷を辞めさせたい奴は、渋谷くらい顔が良くて腕もいい小児科医を連れてこい。そしたら考えてやる。まあ、そんな奴は日本中探してもいやしねえけどな』

と断言したため、実は慶とデキてるんじゃないかという噂まで出てしまったらしい。(……ムカつく)

 その後、病院の重鎮である外村先生が、浮足立っている職員たちに対して、

『性的指向と医師としての腕は関係ない。二度とそんな話をするな。馬鹿馬鹿しい』

と一喝したため、表立って話をする人間はいなくなったそうだ。


「まあ、人のうわさも何とやら、です。渋谷先生には今までの実績がありますから大丈夫ですよ」

 楽観的に言う戸田先生。
 でも慶の心中を思うといたたまれない……。


***

 普段、休みである火曜日は朝からスポーツジムに行くことの多い慶だけれども、今日は仕事を持ち帰っていて行けなかったとかで、夕食後に出かけていった。
 おれもその一時間後に行くと、ちょうど慶が泳いでいる姿をみることができた。でも、お互い声もかけず目を合わせただけ。
 本当は一緒にジャグジーとか入りたいのにな。帰りも一緒にプラプラ散歩しながら帰れたらどんなに楽しいだろう。
 でも、用心に越したことはない。しょうがない……。

 慶が先に出ていったのを見届けてから、おれも帰る用意をする。ため息が出てしまう。

「…………あ」
 携帯を確認すると、ラインが数件入っていた。職場の先生と、それから三好羅々。

 羅々は勤め先の学校の卒業生・目黒樹理亜と同居している少女。先日知り合ったのだけれども、なぜかよくラインを送ってくる。引きこもり気味らしいので、外との会話を欲しているのかもしれない。送ってくる内容はいつもたいして意味のないものばかりなんだけれども……

『月が綺麗ですね』

 ウサギのスタンプと一緒に送られてきた一文……。

「……なんだかなあ」
 思わず一人ごちてしまう。

 おそらく何の意味もない(あったら困る)のだろう。無難に『おやすみ』と書かれた猫のスタンプを送信した。


 携帯をカバンにしまい外に出る。日中の暑さに反し、散歩したくなるような過ごしやすい気温。わずかに見える星。そして、上弦の月……。

「確かに綺麗だな……」

 この月を慶と一緒に見れたらどんなに嬉しいだろう。
 慶に『月が綺麗だね』って言ったらどんな顔をするだろうか。……知らないかな。

 『月が綺麗ですね』というのは、本好きの人間ならみな知っている話だと思う。夏目漱石が『I love you』を『月が綺麗ね』とでも訳しておけと言ったという話。それと一緒によく語られるのが、二葉亭四迷の『死んでもいい』。この感性の素晴らしさ、同じ日本人として誇らしい。

 そんなことを考えながら、帰り道を歩いていたのだが……

「………慶」
 マンションに向かう遊歩道の途中にあるベンチに、慶が座っていた。ぼんやりと空を眺めている。
 月の光に照らされた横顔……なんて、なんて綺麗なんだろう……。

 息を飲んで見つめていたら、ふっと慶がこちらをみた。

「……月が綺麗だな」
「…………え」

 ドキッとする。

「なんだよ?」
「いや…………」

 他意はなさそうだ。知らないのだろう。息を吐き出し、慶のその綺麗な瞳に微笑みかける。

「慶の横顔の方が綺麗だよ」
「なんだそりゃ」

 慶は笑い、再び空を見上げた。
 一人分のスペースを開けて、ベンチの横に座る。真隣には座れないもどかしさ………

(………ホント綺麗だな)

 横顔を盗み見てため息をついてしまう。まるで人形のようだ。
 触れたいけれど、触れられない。でも触れたい………。

「…………」

 手を前に伸ばす。慶の影の頬に自分の手の影をふれさせる。すると………

「………慶」

 影の慶の手も伸びてきて、影のおれの手に触れている。不思議と本当に触れられているみたいにくすぐったい………

「……懐かしいな」

 ポツリと慶が言う。

「何が?」
 聞き返すと、慶は苦笑い、といった表情を浮かべてうつむいた。

「高2の夏休みに写真部で合宿しただろ」
「うん」

 まだおれが慶に対する恋愛感情を自覚していないころだ。

「その時に夜、買い出しに行ったの覚えてるか?」
「うん」

 二人で近くの酒屋まで飲み物の調達に行かされた。

「その帰り道、こんな風に」

 影の慶の手がおれの影の手をつかむような仕草をした。

「お前にバレないようにコッソリ、影で手をつないでた」
「……え」

 それは……。
 びっくりして慶を振り返ると、慶はふわりと笑った。

「健気だろー? 何しろずっと片思いしてたからな」
「………慶」

 再び、影で手をつなぐ。

「こんな日がくるなんて、あの時は夢にも思わなかったなあ……」
「慶……」

 慶の柔らかい微笑み。慶の優しいささやき。
 体中が満たされていく。

 おれ……愛されてるんだ……。

(慶……慶)

 大好き。大好きだよ。

 そんな言葉ではとても表しきれない。
 愛おしさで、どうにかなってしまいそうだ。

(愛してる)

 そんな言葉でも足りなくて……

「浩介?」

 あまりにも凝視していたので、慶が不思議そうに首をかしげた。

「どうした?」
「あ………」

 愛してる。愛してるよ、慶。

 体中が愛で満たされて、破裂しそうだ。

 慶……慶。

「月が……」

 震える声で、告げる。それが精一杯の言葉。

「月が、綺麗だね」
「…………」

 ふいっと慶が立ち上がった。月を背に、こちらを見下ろしている。美しい人……。

「………浩介」
「うん」

 震える手を胸に握りしめて見上げると、慶がふっと笑った。

「おれはさ」
「うん」
「死んでもいい、なんて言わねえぞ?」
「!」

 目を瞠ったおれに、慶がいたずらそうに微笑んでいる。
 知ってたんだ!

「せっかく両想いになれたんだからな。死んでたらもったいねえ」
「慶……」

 慶がひょいとカバンを肩にかけた。

「さっさと帰るぞ? ここじゃなんもできやしねえ」
「え」
「月が綺麗、なんだろ? だったらやることやろーぜ」
「……………」

 この人、毎度毎度誘い方に問題があると思うのはおれだけですか?

 でも……いい。もう、なんでもいい。

「いくぞ?」
「……うん」

 愛おしい姿の少し後ろを歩く。
 影で手を繋いでみると、慶が振り返って、にっと笑った。

「月、本当に綺麗だな」
「うん。綺麗だね」

 この月に誓おう。おれは何があってもこの人と一緒に生きていく。



------------


以上でした。
お読みくださりありがとうございました!
いつかは書いてみたかった憧れの「月が綺麗ですね」ネタ、ついに書いてしまいましたー。

このあと、R18大丈夫な方は、「R18・嫉妬と苦痛と快楽と」に飛んでいただいてから、24に行っていただけると話が分かりやすいかもしれません。

次回は順番からいくと慶視点です。そろそろ掲示板書き込みの犯人とも対決しないとだし。どうしよう。
また次回よろしければよろしくお願いいたします。

---

前回までにクリックしてくださった数人の方々、本当にありがとうございます!!
本当に有り難い……心の支えです。ありがとうございました!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風のゆくえには~ あいじょうのかたち22(谷口さん視点)

2015年09月19日 08時48分12秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

今回は看護師谷口さん視点で。

------


 渋谷先生はキラキラしてる。芸能人のオーラってこんな感じなんじゃないだろうか。毎日のように見ているのに少しも慣れない。

 先生は、患者さんの前では穏やかで優しいんだけれども、裏ではものすごく冷静沈着で、指示も的確でかっこいい。着任して一週間とたたないうちに、うちの病院のアイドルになった。

 ただ、小児科付の看護師の中では「一人一人の患者に時間をかけ過ぎている。もっと回転よく診察してほしい」という否定的な意見もあった。そのせいで昼休みもつぶれるし残業も多くなるし、文句をいいたくなるのは分かる。

 それに対して渋谷先生は「すみません。善処します」と真摯に謝ってくれた。
 ………けれども、何も変わらなかった。なんとなく、この人、お姉さんか妹がいるんだろうな、と思った。女性の話を右から左にうまく流している感じが女の扱いに慣れているというかなんというか……。

 二週間も経つころには、誰も直接は文句を言わなくなった。渋谷先生のあの眩しい笑顔で「いつもありがとう」なんて言われたら、誰も文句は言えないってのもあるんだけど……。


 患者さんの中でも着実にファンは増えている。

 中でも印象的だったのは、ユカリちゃんのママ。
 ユカリちゃんは2歳になったばかりの女の子。少し病弱でしょっちゅう病院にきている。ママはものすごく心配性で、何から何まで質問攻めにするので、前の先生も看護師も辟易していた。でも、渋谷先生は違った。

 ユカリちゃんがいつものように風邪を引いて病院にやってきた時のこと。
 渋谷先生は、丁寧に今までの経緯を聞き、今までの薬の効き具合をきき、ママの怒涛の質問にも丁寧に答え、ようやく安心したママが帰ろうと立ち上がったところ、

「待ってください」
と、ユカリちゃんママを再び座らせ、

「ちょっと、失礼します」
 びっくりした顔のユカリちゃんママの頬を手で囲った。

「え」
「え?!」

 ユカリちゃんママが真っ赤になり、看護師2人がぎょっとしている中、渋谷先生はユカリちゃんママの目の下を引いてジッとのぞきこんだ。そして、

「口開けてください」
「は……はい」

 大人しく口をあけたユカリちゃんママの口の中を見ると、

「お母さんも熱ありますよ? 大丈夫ですか? 喉もそうとう赤いですよ」
「え………」

 ぽかんとしたユカリちゃんママ。

「今日、保険証お持ちですか? 受診されていった方が」
「あ……いえいえ」

 ユカリちゃんママがぶんぶん首をふった。

「まだ母乳あげてるから薬飲めないし、それに病院代払えません。ユカリは乳児医療あるからいいけど、私は……」
「そうですか……谷口さん」
「は、はい?」

 いきなり名前を呼ばれビックリして返事をすると、

「こないだくれたあののど飴、まだありますか?」
「は、はい」
「もらってもいいですか?」
「はい……」

 言われるまま、ごそごそと戸棚から取り出す後ろで先生の声が聞こえてくる。

「食欲もないんじゃないですか? うどん、うちにありますか?」
「あ……はい」
「それじゃ、今日のお昼はうどんにしましょう。薄めの味付けにして、うどんのスープも全部飲んでください」
「え……」
「それから、どんぶりにお湯と梅干いれて、ごくごく飲んでください」
「え」

 渋谷先生、飽きてきたユカリちゃんにシールを渡しながら、話を続ける。

「たくさん水分取って、汗をたくさんかいて、ユカリちゃんと一緒にたくさん寝てください。ユカリちゃんもお薬飲むのでよく寝てくれると思います」
「でも、旦那の夜ご飯が……」
「旦那様には、『39℃の熱があって手が震えて夕飯は作れない』って連絡してください」
「え?」

 ぽかんとしたユカリちゃんママに、渋谷先生はニッコリとほほ笑みかけた。

「男って、具体的な数字に弱いんですよ。漠然と具合が悪いっていってもピンとこないんですけど、39℃とか手が震えてるとかいうと、そりゃ大変だ!ってなりますから」
「あ………」
「あ、谷口さんありがとう」

 飴を差し出すと、先生はあの眩しい笑顔を浮かべた。

「はい。これどうぞ」
「え…………」

 キョトンとするユカリちゃんママに飴を手渡す渋谷先生。

「少しでも喉の痛みがやわらぎますように。ママが一番大変ですよね。一緒に乗り越えましょう」
「あ………」
「ユカリちゃんも、お薬ちゃんと飲んで、たくさん寝て、バイキンさんやっつけようね?」
「ん」

 恥ずかしそうにママの胸に顔を埋めたユカリちゃん。

「あ………ありがとうございます……」
 ユカリちゃんママはユカリちゃんをぎゅうっと抱きしめながら、深々と頭を下げた。


 この話は、あっという間に広がり(恐るべしママ友ネットワーク)、渋谷先生人気に拍車をかけた。

 その後もバレンタインでもたくさんチョコをもらったり、福祉祭では渋谷先生目当てのお客さんがたくさん来たり、とにかくその人気はとどまることを知らなかった。患者数も増えて毎日忙しいのに、先生は患者さんの前では少しも笑顔を絶やさない。この人、いったいどれだけ精神力強いんだろう。


 心療内科に通院中の女の子が院内で手首を切ってしまった際、その傷口をあっという間に完璧に縫合した、という話も看護師の間で人気が上がる要因となった。うるさい外科の外村先生が「上手く縫えてる」とほめたというのだから相当なものだ。

 芸能人みたいなオーラのキレイな顔で、医師としての腕も良くて、患者さんにも優しくて、スタッフにも気遣いができて、それでいて、怠惰が原因のミスには厳しくて(個人的に渋谷先生の最も良いところはここだと思う。優しいだけじゃなくて、締めるところはきちっと締めてくれる)。理想のお医者様だ。こんな完璧な人がこの世の中にいるもんなんだな、と感心するくらい完璧。完璧すぎて、疲れないのかな……と思っていた。

 でも、福祉祭の時に、私は渋谷先生の本当の顔を見てしまった。
 高校時代からの友人という男の人が大怪我をしてしまったときの渋谷先生……。先生があんなに焦るなんて。そして、実はあんなに言葉遣いが悪くて、蹴ったりするなんて。そして……あんなに愛おしそうな瞳をするなんて……。私達に見せている顔は、医師としての仮面なんだろう。

 これは私だけの秘密にしておこう。と思っていたんだけど……
 
「渋谷先生、実はゲイだって噂知ってる?」

 5月の連休が明けてしばらくしてから、そんな話が出回りはじめた。掲示板に書き込みがあったとかなんとか……
 先生が結婚しているとウソをついていたのが許せない、なんて話が出たので、思わず言ってしまった。

 先生は、自分が結婚しているなんて一度もいったことがない。
 相手はおそらく福祉祭の時に怪我をした高校の同級生という人。あの渋谷先生が動揺して、手の震えを止めるために自分の手首に噛みついたんですよ、と……。


 先生が勘違いされているのが許せなくて思わず言ってしまったのだけれど、あとからものすごく後悔した。
 案の定、この話も、あっという間に広がってしまい……週明け月曜日の夕方には看護師全員知っていたと思う。口コミ掲示板に再び書き込みがあったこともあり、みんなフワフワソワソワしながら渋谷先生に接していた気がする。


「渋谷先生……」
 その日の帰り道に待ち伏せをして、駅に向かう渋谷先生を呼び止めた。白衣を着ていない渋谷先生もすごくカッコいい。

「あれ? 谷口さん?」
 全然、何の構えもなくこちらをみてくれる先生……。なんだか申し訳ない。

「どうしたの?」
「あの………」

 怒られるのを覚悟で、福祉祭の時のことを皆に話してしまったことを告白し、謝罪すると、渋谷先生はキレイな瞳をパチパチとさせた。

「別に謝らなくても……本当の話だし」
「でも………」

 ……あれ?

 でも、と言いかけて、あれ? と思う。

 本当の話、というのは、手首を噛んだのが本当の話ってこと? それもあるけど、もしかして……

「あの……本当っていうのは……」
「うん。谷口さんの予想当たってるよ。あのとき怪我した奴がおれの……」
「…………」

 渋谷先生、言いかけてから、うーん……と唸った。

「なんか、彼氏っていうのいまいちピンとこないんだよなあ。恋人? なんかそれもなあ……。相方……違う」

 ブツブツ言いはじめた先生……

「パートナー……家族。ああ、家族ってのもいいかもなあ……」
「…………」
「あ、ごめん」

 はたと先生が我に返った。

「うん。まあ便宜上『恋人』ってことで」
「はい……」

 こうもハッキリ肯定してくれるとは……。渋谷先生は困ったように頬をかいている。

「みんなにもちゃんと言った方がいいのかなあとは思うんだけど……でも聞かれもしないのに言うのも変な話というか……不快に思う人もいるだろうし……」
「不快だなんてそんなこと思いませんよ」

 思わず言うと、渋谷先生は「ありがとう」とにっこり笑ってくれた。

「色々気をつかわせてごめんね」
「いえいえいえいえ、とんでもない!」
「今、おれのせいでみんな浮わついちゃってるよね。何とかしないと、とは思ってるんだけど……」
「じゃ、一つ案があります」

 言いかけた渋谷先生の横の電柱から、ひょいっと人影が現れた。

「に……西田さん」
 ビックリして私も渋谷先生も飛び上がってしまった。出てきたのは先輩看護師の西田さん。ものすごい噂好きで情報通なおばさん。どうやら西田さんも、渋谷先生を待ち伏せしていたようだ。

 西田さんがあの押しの強さ全開で渋谷先生に迫ってくる。

「また掲示板に載ったらしいですし、もう隠すのは限界だと思いますよ」
「………」
「渋谷先生は本当のことを言ってもいいって思ってるんですね?」
「はい……」

 こっくりと肯く渋谷先生。西田さんもうんうん肯き、

「それなら、明日、私が『渋谷先生に聞いたら、噂は本当だと言っていた』という話を流します」
「え……」
「でも、プライベートのことだし、あまり根掘り葉掘り聞くのもねえ……みたいな感じに」
「…………」
「明日先生お休みなので、おそらくこの話は一気に広がると思います。水曜日先生がいらしたら、誰かしらが『本当ですか?』と聞いてくるでしょう。そうしたら先生は肯けばいいだけです」
「でも……」

 戸惑ったように眉を寄せた渋谷先生に、西田さんが断言する。

「みんなが浮わついているのは、噂が本当かウソか確かめたいからですよ。本当だってわかればとりあえず落ち着きます。先生は多くは語らず、いつものあの眩しい笑顔でニッコリしてればいいんです」
「………」

 渋谷先生、助けを求めるように私を振り返った。いや、そんな顔で見られても……。でも、確かに西田さんの案は理にかなっている。

「えー…と、はい、私も西田さんの案に賛成です」
「そう……そっか……」

 渋谷先生は何度かうなずいてから、西田さんに頭を下げた。

「それじゃ……それでお願いします」
「お任せください」

 Vサインをする西田さん。本当に大丈夫なんだろうか……。不安になって渋谷先生を見ると、もっと不安そうな先生と目が合ってしまった……。


**

 翌日、西田さんが流した噂はビックリするほど早く病院中に行き渡った。

 そしてその翌日の昼休み……。
 看護師数人で渋谷先生を取り囲むことになった。私も素知らぬ顔でそのうちの一人として後方から様子を見守っていたのだけれど………

「本当ですか?」
 緊張した問いかけに、渋谷先生は、憂いを帯びた瞳を皆に向けた。

「今まで黙っていて申し訳ない。みんなに何て思われるか不安で言い出せなくて……」

 知っていた私ですら、きゅんっとなる真摯な瞳……。

 ……はい。終了。その場にいた全員、その破壊力全開の瞳にやられてしまった。


 そのあとはもう、みんなが渋谷先生の味方だった。否定的なことを言った男性職員の一人は、女性陣にボコボコにやり込められていた。

 でもこれは先生が今までにみんなの信頼を得てきた証拠だと思う。
 患者さんの中にも掲示板を見てしまった人はいて、噂になっていたようだけれども、それを理由で通院をやめた人はいないようだった。むしろその噂を聞いて、興味本位で病院を訪れ、渋谷先生のファンになって帰っていった親子もいるくらいだ。

 世の中には色々な考えの人がいるので、関係ないのに真偽のほどをしつこく確認してきたり、中傷の書き込みをしたり、中傷の文書を送ってきたりする人もいたようだけれども、院長や病院職員が過剰に反応せず受け流していたら、そのうちそれも止んだらしい。はじめの書き込みの犯人も結局分からず仕舞い。でも追及することはしないそうだ。


「谷口さん、ありがとうね」
 ある日、渋谷先生にあらためてお礼を言われた。

「いえいえ私は何も。それに先生にやめられたらみんな困りますから」
 そう言い返すと、渋谷先生はふわりと笑ってくれた。

 渋谷先生が結婚してようと男の恋人がいようとそんなことは関係ない。渋谷先生は、理想のお医者様。それだけのことだ。



---------------


以上です。
看護師谷口さん視点でした。
谷口さんが考えるほど簡単にはいかない問題なので、当事者である慶は色々と大変です。
今回、イチャイチャもラブラブもなく物足りない回でしたが、いつか書きたかったお医者さんとしての慶の姿がかけて満足です。

慶が小児科医師を目指すキッカケになったのは、
高2の終わり、島袋先生という小児科医師との出会いでした。
なので、慶の医師として姿は、島袋先生そのものです。島袋先生の真似っこです。
「一緒に乗り越えましょう」は島袋先生がよく言っていたセリフでした。

長々とここまでお読みくださり、ありがとうございました!
そして、前回までにクリックしてくださった数人の方、本当にありがとうございます!!
幸せすぎて鼻血がでそうです。本当にありがとうございました!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風のゆくえには~ あいじょうのかたち21(慶視点)

2015年09月16日 15時42分01秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 噂されている、と気がついたのは、ゴールデンウィークが終わって一週間ほどたった時だった。

(とうとうバレたってことか)

 おそらく、おれがゲイだということがバレたのだろう。覚悟はしていた。

 内緒話をされている、というのは分かるものだ。看護師の中でいつもと全く変わらない対応をしてくれているのは、谷口さんくらいで、あとの人は腫れ物にでも触るように接してくる。被害妄想ではない、と思う。

 どこからバレたのか……。戸田先生のクリニックに浩介と一緒に訪れたことを知られたのかもしれないし、目黒樹理亜の勤めるバーにカップルとして飲みに行ったのを見られたのかもしれないし、同棲しているマンション近くに関係者がいるのかもしれないし、考え始めたらキリがないので、考えるのはやめた。

 患者数に減少はないところをみると、患者さんたちには大々的にはバレていないのだろうけれども、何人か微妙に態度が違うと感じられる親御さんはいた。こうなるともう時間の問題だ。


 呼び出される前に、自分から院長室を訪ねたところ、

「ちょうど呼ぼうと思ってたんだよ」

 入室するなり、峰先生に言われた。
 峰先生はおれが大学卒業後勤めていた病院の先輩医師で、現在はこの病院の院長である。おれがゲイであることは峰先生には話してあった。もしそれで病院に不利益なことが起こった場合は即座に首を切ってもらってかまわない、とも言ってある。

 峰先生が首の後ろをかきながら、うーーんと唸った。

「ちょっと言いにくいんだけどさ……」
「……はい」

 やはり、そうか。峰先生の気まずそうな顔をみて、ぐっと息を詰める。

「覚悟はしてました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。引継ぎに関しては……」
「引継ぎ? 何の話だ?」

 眉を寄せる峰先生。

「お前まさかやめるとか言うなよ? 勘弁してくれよ」
「え?」

 今度はこっちが眉を寄せる番だ。

「だって、峰先生、今、言いにくいって……」
「あー、だからな。今、お前の噂流れてるの知ってるな?」
「はい……だから」
「それ、オレのせいなんだよ」
「え?!」

 なんだって?!

 言葉に詰まったおれに、峰先生が話してくれてことによると……

 連休明けに、病院あてにメールがあったそうだ。

『渋谷慶医師には男の恋人がいる』

 事務局から連絡を受けた峰先生は、担当者に口止めをして、そのまま放置したのだという。忙しくてそんないたずらメールに構っている暇はなかったそうだ(そこを、判断ミスだった、としきりに謝ってくれている)。
 すると、その3日後に大手口コミサイトにまったく同じ文章の書き込みがされてしまったそうで……。それはすぐに削除依頼をして消してもらったが、患者でも目に止めた人はいるだろうし、この病院の職員の中にも読んでしまった人間はいて……

「そのメールを送ってきた人っていうのは……」
「それが分かんねえんだよ。口コミに載ってすぐにそいつに連絡を取ろうとしたけれど、すでにアドレス削除されてて」
「そう……ですか」

 一瞬、浩介の母親の顔が浮かんだけれど、すぐに打ち消す。あの世間ずれした人が、口コミサイトに投稿、なんて考えられない。いったい誰が……

「すみません。ご迷惑おかけして……」
「別にお前がかけてるわけじゃねえだろ」

 峰先生が肩をすくめる。

「イケメン先生は今やうちの稼ぎ頭なんだから、辞めるとかいうのはやめてくれよ?」
「でも……」
「そういうのを目の敵にする奴もいるけど、今はもう、世の中の流れは容認派が多数だからな。この病院内でも95%の人間が問題ない、と言っている、らしい」
「95%? 聞いたんですか?」
「草の者に調べさせたんだよ」
「草の者って……」
 看護師の西田さんだな、と思う。おせっかい気味の彼女は、病院内で顔が広く、情報収集能力にたけている。


「と、いうことで」
 峰先生がポンと手を打った。

「そろそろカミングアウトしてみるか?」
「…………う」

 詰まってしまう。覚悟していた、とはいえ、大々的に公表することでどのような弊害がおこるかは計り知れない……。

 おれの戸惑いを感じ取った峰先生、ふっと笑顔を浮かべた。

「まあ、お前のタイミングでいいからな。オレは今まで通り、『プライベートは本人に任せてあります』って答えるからよ。って、なんかホントに芸能人みたいだな、お前」
「すみません………」

 深々と頭を下げる。下げても下げても下げきれない気分だ。


**


 エレベーターに乗る気になれなくて、プラプラと階段で降りていき、普段は通らない給湯室の前を通り過ぎようとしたときだった。

「渋谷先生、院長室呼ばれてるみたいだよー」
「うっそー。やめさせられちゃったらどうしよー」

 聞いたことのある女の子数人の声が聞こえてきた。これは通りにくい……。とっさに階段の方に引きかえしたが、そこでも会話が聞こえてきたので、思わず立ち聞きをしてしまう。

「ねえ、本当なのかなあ? 渋谷先生に……」
「やめてよー。超ショックなんだけどー」

 やっぱり、ショック、なんだ……。そりゃ歓迎はされないよな……。

「でも先生、奥さんいたよね? 前にきたじゃん。すごい美人の……」
「あの背の高い、女優さんみたいな人ね。偽装結婚ってやつかなあ?」
「違う違う。奥さんですか?って聞いたら違うっていってたもん」
「え、そうなの?」

 良かった。誰かがあかねさんのことを訂正してくれている。でも、また話が戻ってしまった。

「じゃあ、やっぱり、あの掲示板に書いてあったのは本当ってこと?」
「男の恋人と同棲してて……って?」
「えーヤダー」

 ヤダ……かあ。そうだよなあ……。

「私はあり!」
「え、マジで?」

 お。いきなりの援護射撃。

「だって変な女と結婚してるより、相手男のほうがまだいいもーん。渋谷先生美人だし、全然ありあり!」
「あ、それ言えてる」
「うそー」

 けらけらけら、と笑う彼女たち。うーん。これは喜ぶべきなのか……と思っていたところで、

「でも、私は、許せないな」

 突然、怒ったような声があがった。この声は小児科担当の子だ。

「だって先生、私達を騙してたって事でしょ。結婚してるって指輪までして」
「そういえば……そうだよね」
「男の恋人がどうのとか言う以前に、私はそっちが許せない」
「…………」

 それは……。弁解するために、今出て行ってしまおうか……と思ったところで、

「それは違うと思います」
「!」

 ものすごく冷静な声が響いてきた。谷口さんだ。冷静に言葉を続ける谷口さん。

「渋谷先生が結婚してるって、渋谷先生の口から聞いた方っていらっしゃいます?」
「え?」

 一斉にきょとんとした声。

「結婚してるんですか? とか、奥さんの手料理ですか? とか聞いても、渋谷先生、一回も肯いたことないですよね?」
「………そういえば」

 さ……さすが谷口さん。気が付いてくれてたんだ。
 そう、おれはウソはつきたくないので、一度も結婚の質問に対して肯定したことはないのだ。

「でも、それでもさ、私達がそう言ってるのを否定しなかったじゃないの」
「本当のこと言いたくても言えなくて、でもウソはつきたくなくて……ってことじゃないんでしょうか」

 シンッとなる……。

「谷口さん……何か知ってるの?」
「ねえ、たにぐっちゃん、やっぱりたにぐっちゃんもあの人かなって思ってない?」

 谷口さんの同期の子の声だ。

「え、何何?」
「福祉祭りの時にケガして、渋谷先生が連れてきた人がいるんですけど……」

 彼女は、浩介の縫合の手伝いをしてくれたのだ。

「渋谷先生、すごい仲良さそうだったよね」
「うん……それに……」

 谷口さんが、ポツリポツリと話しはじめる。
 浩介が怪我をした際に、おれが動揺して手の震えが止まらず、止めるために自分の手首に噛みついた、という話……

「え……」
「あの冷静沈着な渋谷先生が……?」

 再びシンッとなる給湯室……。

「すごい……きっとその人が相手だよ……」
「そうだね……」
「だから」

 谷口さんがポツンと言う。

「男性同士っていう理由で隠さないといけないって……変だよなって思って」
「でも……」
「ねえねえ!その人どんな人?!」

 暗くなりかかった雰囲気を壊すように、誰かが明るくいいだした。
 ホッとしたように谷口さんとその同期の子が言う。

「高校の同級生っておっしゃってました」
「背、けっこう高かったよね」
「ってことは、渋谷先生が……」
「あ、それはどうでしょう。その方すごく物腰柔らかな感じでしたし……」
「えー見てみたーい」

 きゃあきゃあと再び騒ぎ出す女の子達……。
 しばらくは通れないようだ。諦めて階段をのぼり、上の階からエレベーターに乗ることにする。

(カミングアウト……)
 やはりきちんとするべきなんだろうか……。まだ、答えは出せない。


***


「そのメールって、まさか……」
 夕食後、迷った挙句、メールの話をしたところ、案の定、眉を曇らせた浩介。

「おれの母親が……」
「いや、それはないと思うぞ。掲示板に書き込みなんてお前の母さんができるとは思えない」
「でも」
「メールもフリーメールだったっていうし、無理だろ」
「…………」

 心配そうな顔をやめない浩介の額を指ではじく。

「考えすぎだ。どうせ誰かのイタズラだよ。掲示板の書き込みもその一回だけだっていうし」
「そうかな……」
「まあ、ネットってやつはこわい……って、何だよ?」

 コーヒーのおかわりを取りに行こうとソファから立ち上がったが、浩介に腕を掴まれ再び座らさせられ、胸に引き寄せられた。

「慶……みんなに言うの?」
「………。まだ迷ってる」

 後ろからぎゅうっと抱きしめられるのはとてつもなく心地よい。

「別に悪いことしてるわけでもねえのに、何で躊躇しちまうんだろうな」
「うん……」

 うなじのあたりに唇が添ってきて、素直に体が反応してしまう。浩介のものも固くなっている……。

「お前……暇なのか? 昨日もやったじゃねえかよ」
「んーだって昨日は今日慶が仕事だからってさっさと終わらせちゃったじゃん」
「さっさとって」
「今日は明日休みだから、ゆっくり……」
「ん」

 振り返り唇を合わせ……ようとしたところで、テーブルの上の浩介の携帯が鳴りだした。

「……携帯。携帯鳴ってるぞ」
「んー……いいよ」
「いいよじゃねえよ。急ぎの連絡だったらどうすんだよ」
「えー……」

 渋々、携帯に手を伸ばす浩介。でも、見たと思ったらすぐにまたテーブルに戻した。

「何?」
「三好さん。ライン」
「ああ……」

 三好さん、というのは、浩介の勤める学校の卒業生・目黒樹理亜が、現在一緒に住んでいる女の子、三好羅々、のことだ。二人はバーのママである陶子さんのマンションで同居している。
 連休中に樹理亜に誘われてマンションに猫のミミを見にいった際に、三好羅々に頼まれてラインの交換をした浩介。それ以降、頻繁に連絡があるらしい。

「よく来るな」
「んー……別に返事を求めている内容ではないんだよね。でも外に何かを発信するっていうのはいい傾向だと思うんだけど」
「…………」

 三好羅々は一切外に出ないらしい。中学時代に引きこもりの経験がある浩介、放っておけないのだろう。

「ねえ、やっぱり慶もラインやろうよ。便利だよ」
「やだ」

 先月、浩介がラインをはじめて以来の何度目かの誘いをバッサリ断る。

「こうやって、ピーピーピーピー鳴られるの鬱陶しい」
「鬱陶しいって」

 苦笑する浩介になんだかイラッとする。
 また、携帯が鳴ってる……。浩介が再び携帯を手にするのを見て、更にイラついて、思わずつぶやいてしまった。

「……お前、ラインはじめてから携帯触ってる時間増えたよな」
「え」

 びっくりしたような顔をした浩介。

「そうかな」
「そうだよ」
「そうかなあ」
「そうだよ」
「…………」
「…………」

 数秒の間のあと………浩介が携帯の電源を落とした。

「……別に電源切れなんて言ってねえぞ」
「うん……」 

 浩介の手がゆっくりと頭をなでてくれる。そして、おりてくる浩介の唇。ついばむようなキスのあと、おでこをコツンと合わせた。

「もしかして、嫉妬してる?」
「…………」

 浩介、ちょっと嬉しそう。なんか悔しい……。

「ちが……」
 違う、と言いかけたけれど、でも、今さらかっこつけるのもあほらしくて、噛みつくみたいなキスを返す。

「そうだよ。なにしろおれは、独占欲が強くて嫉妬深くて束縛したがり、だからな」
「慶……」

 ぎゅうっと強く抱きしめられる。おれも回した腕に力をこめる。浩介の腕、浩介の息遣い……

「………いやか?」
「まさか。そういうところも大好き」
「ん」

 合わせた唇から愛が伝わってくる。幸せすぎて蕩けそうだ。


***


 再び、口コミ掲示板におれのことが書き込まれたのは、この翌日のことだった。




----------------


以上です。
安定のラブラブ。幸せな感じ。羨ましい。

こんな真面目な話にも関わらず、読んでくださっている方、クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!!
今日も先ほど自分のポイントを見て、数人の方がクリックしてくださったことを知り、うわっ!びっくりしたっ!ありがとうございますー!!と画面に向かって叫んでおりました。クリックしてくださった方本当にありがとうございます!こんな幸せなことはありません。本当にありがとうございました!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風のゆくえには~ あいじょうのかたち20(浩介視点)

2015年09月14日 14時18分16秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 カップルカウンセリング、というのを受けることになり、慶が休み時間を調整して勤務先の病院を抜け出してきてくれた。仕事モードが残っている慶、カッコいい。

「なにニヤニヤしてんだよ?」
「慶があまりにもかっこよすぎて……って、痛いって」

 クリニックの駐車場で、愛しさ募って頭のてっぺんにキスしたら、普通に蹴られた……。


『慶を殺してしまうかもしれない』

 そう告白してからちょうど2週間過ぎた。
 でも、今までとまったく変わらない。変わったことといえば、おれがスポーツジムに入会したことぐらいだ。

 お前も運動しろっての、と慶にブツブツ言われるので、お付き合い程度に何かしらはやるけれど、あとはサウナとスパ。サウナでボーっとして、汗がジワジワと出てくるままにしていると、体の中の汚いものも流れ出てくれるような錯覚に陥ってスッキリする。

 スポーツジムでは、色々な人から慶の噂を聞いた。陰で『王子』と呼ばれてる(ここでは天使じゃなくて王子らしい)とか、あの美貌とオーラは芸能人じゃないのか? とか……

 つくづく思う。なんでこんな人がおれを選んでくれたんだろう? おれなんかのどこがいいんだろう?
 愛されていること、必要とされていることは、痛いほどよく分かっているけれども、疑問と不安はずっと離れない。
 ずっと昔に「一生懸命なところが好き」みたいなことを言ってくれたことがある。でもそんな奴は世界中どこにでもいる。なんでおれが、の不安は消えてくれない。慶のお母さんは「直感」だと言ってくれたけど、慶はおれの何に直感を感じてくれたんだろう……?


**


 主治医の戸田先生は、いつもパンダみたいな目をしている。あのメイクをするのにどのくらい時間かかるんだろう。女性は大変だ。

「渋谷さん、これ、桜井さんにお見せしてもよろしいですか?」
「え?! あ、はい……」

 一瞬動揺した慶。なんだ? と思ったら、おれも先週書かされたプリントだった。鬼のようにたくさんの質問が、一問一答形式でかかれている。消しゴムの使用禁止で、書き間違った場合は二重線で訂正する。それを先生の見ている目の前で、秒を計られながら書かされるので、考えている時間はない。それこそ直感で次々と答えていく感じだ。
 慶は一昨日、病院でこっそりやったらしい。戸田先生は火曜と木曜だけ慶が勤務する病院でも診察を行っているのだ。

「桜井さんもよろしいですね?」
「あ……はい。もう何を書いたのかもほとんど覚えてないんですけど」

 目の前に出されたものを、見比べてみる……。

 パートナーの長所・短所。おれは、『男らしい・ケンカっ早い』と書いている。慶は……

『料理がうまい・めんどくさい』

 め、めんどくさいって……。しかも、長所・料理がうまいって……おれの長所、そこ?!

「あれ? お前も途中までしかやってないんだ?」
 慶がプリントをめくって言う。そう。途中で「時間です」と切られてしまって全部は答えてないのだ。

 戸田先生がニッコリと言う。

「それ、残りの問題は意味ないんです。これが最後と思うと答え方変わってきてしまうので、わざと問題は多く書いてあります」
「なるほど……」

 まだまだ問題ある……と朦朧としながら最後の方は答えていたもんな……。

「これって、これ見て何を……」
「そうですね。一通り目を通していただいて、お互い質問などあったらしてみてください。今まで知らなかったことを知ることができるかもしれません」
「知らなかったこと……」

 慶がおれを好きになった理由、とか? でも、そんな質問なかったよな……。

『第一印象、一生懸命』

 グサッとくる。やっぱり慶は、一生懸命なおれのことを好きになったんだよな……。おれも慶の目にうつるそんな自分が好きで、そんな自分でいるよう心掛けていた。でも今は………。

「第一印象、光。光ってなんだ?」
「え」

 慶の質問にハッとする。ああ、こういう風にいちいち悩むところが短所『めんどくさい』なんだろうなおれ。
 頭を切り替え答える。

「光は光だよ。慶は光ってたから」
「ああ……目黒さんもそんなこと言ってたな」

 目黒樹理亜の名前を慶が口にすると、戸田先生が、

「さっきまで樹理ちゃんここにいたんですよ? 引っ越したからこちらの方が近くなったって。樹理ちゃん、良い顔になってきましたね」
「ああ、私も電話でしか話してないんですけど、だいぶ元気になったというか……」

 二人が話している横で、おれは気になる他の項目もチェックしていく。

(直してほしいところ、運動不足。なんだかなあ……)

 ちなみにおれは『ムードを知らないところ』と書いてある。時間制限のある中で急いで書いた答えなので、本心が出ている気がする。

(印象に残っているパートナーの顔……)

「え」
 ちょっと意外な答えだったので、思わず一人ごちると、戸田先生がすかさずツッコんできた。

「何に驚きました?」
「あ、この、一番印象に残っている顔ってやつで……」
「あーそれなー……」

 慶はなぜか鼻に皺を寄せている。戸田先生が逆から見て、

「えーと? レギュラーになれなくて泣いた時の顔……バスケットをなさってたんですよね?」
「はい……レギュラーになれなくてって……高1の時?」
「あー、まー、そうだなー」

 慶は頬をかきながら、なぜか気まずそう……

「いや、これは書いてから、後でやられた……って思いましたね」
「そうですか?」

 ちょっと嬉しそうな戸田先生。話が読めない……

「意味が分からないんだけど……」
「分かんなくていいから」

 慶が赤くなってる。ますます知りたい。

「戸田先生?」
 戸田先生を見上げると、先生はニッコリとして人差し指を口元に立てた。

「この答え、たぶん、渋谷さんが桜井さんに惹かれたキッカケ、ですよね?」
「え」
「あー……」

 慶、耳をふさいだ。むーっとした口をして目をつむっている。

「え? そうなの? ………え?!」
 そんな話、聞いたことがない。一年以上片想いしていた、ということは若い頃よく言われたけど……

 戸田先生が、ちょっと得意げに慶に問いかけている。

「ここまで、怒涛のように昔のことを思い出す質問と相手のことを掘り下げて考える質問を繰り返して、その上でポンッと聞いた質問なので、一番心に残っているものがちゃんと答えとして出てきたのではないかと? ねえ? 渋谷さん」
「やだなあ……何でもお見通しって感じですね……」

 慶がこめかみをぐりぐり押している。ホント………なんだ。

 高1の夏……レギュラーになれなくて悔しかったのに泣かずに笑ってたおれを、慶が「泣け!」と言って思いっきり殴ってきたんだよな……。思えばあの頃から慶は手や足がすぐでる人だった……。でも、おかげで泣くことができた。あの時おれは慶の腕の中で気がすむまで泣いた。

 おれは「泣くな」と言われて育った。泣くと物置に閉じ込められるので、子供のころから何があっても泣かないようにしていた。いまだに、慶の前以外で泣いたことはない。涙がでないのだ。

 その、泣いた顔が、惹かれたキッカケ……?

「うそ……」
「うそじゃないですよ? それが渋谷さんの本心です」
「戸田先生、ホントに恥ずかしいからもうやめません?」
「いいじゃないですか。これって結構重要なことですよ? ねえ、桜井……、桜井さん?」
「浩介?」

 二人に声をかけられ、はっと我に返る。息をするのを忘れていた。

「あの……」
 疑問が頭の中をぐるぐる回っている。

「一生懸命なところがって話は……」
「それは初めに会った時の印象だろ? おれあの時、お前のこと羨ましいって思ったんだよな。一生懸命できることがあって」

(……それは慶みたいになりたいって思ったからだし)

 心の中のつぶやきは、あえて口には出さなかった。
 おれがバスケをはじめた理由は、慶に会うためだった。慶のようになりたいからだった。その話は昔、慶にもしたことはあるけれど、おそらく慶はそんなに重い話だなんて思ってないだろう。でも、おれにとっては人生を180度変える決断だった。

「それじゃ……」
「友人として、一生懸命な桜井さんに好意を持っていたけれど、その泣いている顔をみて恋に落ちたってことですよね?」
「え」

 戸田先生の確認に、慶が頭を抱え込んだ。

「だから、そうやって文章にするのやめてくださいよ。恥ずかしい……」
「慶……」

 否定しない。否定しないってことは………

「まあ、恋愛において、相手のどこが好きかとか、どうして好きになったか、なんて追及するのはナンセンスなんですけどね。渋谷さんだって、そうして恋してからは、桜井さんの一生懸命さも恋愛としての好きに変化していったでしょうし」
「だから、文章にするのやめてくださいって」

 頭を抱え込んだままの慶。顔が赤い。
 戸田先生がふいに口調をあらためた。

「これからお話しすることは、これまで何度か渋谷さんとお話しさせていただいたことと、心理テストや今回のアンケートを元に私が出した結論なんですが………、渋谷さん、違っていたら訂正してくださいね」
「いや………」

 慶は観念したように顔を上げると、

「どうせ合ってますよ。あーだから心理士っていやなんだ……」

 いいながら、コーヒーを持って窓辺に移動してしまった。
 戸田先生は少し笑ってから、再びおれを真正面から見据えた。

「桜井さんは、渋谷さんがどうして自分を選んでくれたんだろうってずっと不安に思っているんですよね?」
「………はい」

 素直に肯く。

「でもそれって先ほども申し上げた通り、ナンセンスなことなんですよ。恋愛なんて本能でするものですから、理由なんてあってないようなものです」
「…………」

 そうなんだろうけど……でも……

「でも、桜井さんはすべての物事に理由をつけないと納得できないタイプの方なので、ここできちんと理由を申し上げます」
「え!」

 理由、分かるのか?!
 びっくりして慶を振り返ったが、慶はコーヒー片手に窓の外を見つめたまま………何かのCMのようだ。

 戸田先生の声だけが部屋に鳴り響く。

「渋谷さんが桜井さんに惹かれた理由は、先ほども申し上げた通り、桜井さんの涙、です」
「涙……」
「表面上はニコニコしている桜井さんから流れでた内面の感情の美しさ、とでもいいましょうか」
「………」
「ようするに、渋谷さんは桜井さんの本質そのものに惹かれたということです」
「………」

 意味が分からない……

「意味が分からないって顔してらっしゃいますね?」
「あ………」

 戸田先生は軽く笑うと、ちらりと慶に目をやった。

「桜井さんは、渋谷さんの長所に『男らしい』とお書きになってますけど、それは私も同意見です。渋谷さんは大変男らしい方だと思います」
「はい……」

 慶は聞いていないような顔をしてコーヒーを飲んでいる。戸田先生が続ける。

「渋谷さんは、男らしくて、とても保護欲の強い方なんですよ」
「保護欲?」
 聞き慣れない言葉。
 
「ええ。守りたい、という気持ちです」
「………」

 守りたい……

「おそらく、桜井さんの涙が直感的に心に響いたんでしょうね」
「………」

「つらい経験をしてきた桜井さんだからこそ持ち得た繊細な魂が、真っ直ぐで男らしい渋谷さんの保護欲をかきたてた、とでも言えばいいでしょうか?」
「…………」

 保護欲……

「だから、渋谷さんは桜井さんのことを全身全霊で守りたい、と常に思っている。桜井さんは渋谷さんにとって、その思いを満たしてくれる心地よい存在なんですよ」
「………」

 ふっと戸田先生が笑顔になった。

「まあ、分析するとそんな話になりますが、渋谷さんご自身は、そんな難しいことは考えていらっしゃらないでしょう。ただ単純に、好き、守りたい、一緒にいたい、ってことですよね?」
「そんな人をアホみたいに……」

 黙って聞いていた慶が苦笑した。

「でも正直、なんで、なんて考えたことないんですけど、思い返してみれば、あの日を境に意識するようになった気はするんですよね」
「え……」
「だから先生がおっしゃってることは合ってるんだと思いますけど……」
「そうでしょう?」

 嬉しそうな戸田先生。

「お二人ってすごくお似合いのカップルなんですよ? 渋谷さんは保護欲の塊みたいな方、桜井さんは愛に包まれたい方、利害がガッチリ一致している。そして、二人とも独占欲が強くて嫉妬深くて束縛したがりで」
「散々な言われようだな」

 慶が笑いながらこちらに戻ってきた。

「でも、四半世紀もたって今さら、ですね。こんな話」
「そうですね。でも、桜井さん、ようやく納得できるのではないでしょうか?」
「え?」

 慶のきょとんとした顔……

「納得ってそれはどういう……」
「あ………」
「浩介?」

 慶の手に背中を触れられ、そこから慶のオーラが伝ってきて、そして……

 ふいに、本当にふいに、それはやってきた。頭の中が白く光る。

「浩介?」

 慶の声が遠くから聞こえてくる。そんな中で、戸田先生の言葉が渦を作りはじめた。

『直感的に心に響いた……』
『繊細な魂……』
『真っ直ぐで男らしい性格の渋谷さんの保護欲を………』
『全身全霊で守りたい、と常に思って……』
『心地よい存在………』
『利害がガッチリ一致して……』
『二人とも独占欲が強くて嫉妬深くて束縛したがりで……』

「……っ」

 一気に……きた。25年分のフラッシュバック。渦に飲み込まれそうだ。

『泣け!』

 慶の声……慶の眩しい瞳……

『ずっとずっと好きだった』
『おれはどんな浩介だって大好きだからさ』

『お前以外、何もいらない』
『一緒にいこう。自由への道を』

『おれはどんなお前でも好きになった自信あるぞ?』
『いつでもおれはお前のもんだろ』

『お前がいるところにおれはいる』
『お前は一生おれのそばにいろ』

 ……………!

「慶!」
 
 思わず立ち上がり叫ぶと、慶がキョトン、と返事をした。

「なんだよ?」
「あ…………」

 力が抜けてまた座り込む。なんだ、これ……なんだ……? 手の震えが止まらない……。

「大丈夫か?」
「あ……うん」

 なんとかうなずく。

「桜井さん」
 戸田先生の静かな声が聞こえてくる。

「納得、できましたか?」
「あ………」

 肯く前に、慶がムッとしたように言う。

「納得って、じゃあ、この四半世紀、おれの思いは届いていないってことですか? もっと早くこういった……」
「いえいえ。届いてますよ」

 戸田先生が軽く手をあげた。

「桜井さん、自分が愛されている自信はあるんですよ」
「………」
「でも、それって実は非常に珍しいことで、桜井さんのようなタイプの方がここまで他人からの愛を確信できるっていうのはよっぽどのことなんです。渋谷さん、相当すごいですよ」
「え………」

 慶が勢いをなくして、頬をかく。

「もっと早く、とおっしゃいましたが、おそらく例えば1年前にこのお話を桜井さんにしても納得はできなかったと思います。今のこのタイミングだから、心にストンと落ちてきた……違いますか?」
「は…………」

 慶…………
 振り返ると澄んだ目をした慶がじっとこちらをみている。

「おれ……慶と一緒にいていいんだね……」
 思わずつぶやくと、

「ばかじゃねーの。何いまさら言ってんだよ」
 心底呆れたように慶に返された。

「と、いうことで」
 ポンッと戸田先生が手を打った。

「これでカップルカウンセリングは終了です。あとは二人で勝手に完結してください。目の前でのろけられるのはごめんですからね」
「………」

 戸田先生のサバサバした言い方に、顔を見合わせ吹き出してしまう。


 慶が惹かれたという涙が、おれが慶に出会う前までの辛い日々の結晶であるのなら、もう、その日々を許したい……許したい。おれは慶に出会えた。慶に愛された。だから、あの日々は無駄ではなかった、と思いたい。


「また来週、いらしてくださいね?」
 戸田先生が人差し指を口元にあてた。

 そうだ。これからが本来の目的の治療の、本当のはじまり……なんだろう。
 おれはこれから、両親と向き合わなくてはならない。


--------------------


以上です。長々長々書いてしまいました。
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございます。
冒頭の、頭のてっぺんにキス→蹴られる、というシーンが、
「あいじょうのかたち16」で、樹理亜が目撃したシーンでした。


真面目な話が続きます。
それにも関わらず、読んでくださった方、クリックしてくださった方、
本当に本当にありがとうございます!!嬉しすぎて涙がでます。

わりと真面目に、愛情の形とは?とか考えることがあります。
若い頃には分からなかった形……20年後にはまた違う形に気が付くこともあるのかもしれませんが。
でも、今出来る限りの最良の形を、登場人物たちに選ばせてあげたいと思っています。
お見届けいただけましたら幸いです。

お読みくださりありがとうございました。また次回よろしくお願いいたします。
次は、慶にトラブル?が起こります。たぶん。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする