《試練》――現在史研究のために

日本の新左翼運動をどう総括するのか、今後の方向をどう定めるのか

貴重な記録が満載だが、欠点も

2015-11-26 22:13:36 | 書評:『革共同政治局の敗北』
貴重な記録が満載だが、欠点も
ひまわり博士(編集者・ライター)
2015年6月18日
『革共同政治局の敗北 1975~2014 ─あるいは中核派の崩壊』 水谷保孝/岸宏一 著 白順社刊 3200円+税
ブログ:「ひまわり博士のウンチク/本と雑誌」から転載
http://blog.goo.ne.jp/gallap6880/d/20150618

《管理者コメント》タイトルは勝手ながら管理者が付けました。

 著者の1人、水谷保孝さんから案内があり、出版を知った。水谷さんは現在、「図書新聞」の企画部部長で、書評などの掲載を無理矢理お願いしてずいぶんお世話になっている。
 元革共同中核派の中心的な幹部で政治局員であった水谷さんは、2006年の党内クーデターおよびそれに係るリンチ事件を機に離党している。共著者の岸宏一さんも同様である。
 
 「’70年安保」改訂反対闘争の敗北から、全共闘運動が挫折した最大の原因は、大衆からの支持が得られないどころか反発さえ買ったところにある。
 広範な労働者など無産階級の現実を客観的に見ることなく、都合よく解釈し、党員からの反対意見を一切聞き入れなかった。それがすべてであると思い込み、セクト主義に陥った末、正義を勘違いしていた。現在の革共同中核派も、その路線をほぼ継続していると見ていい。言ってみれば思考回路は安倍政権と何ら変わらない。
 
 2006年の「3.14Ⅱ」(革マル派による1975年の本多書記長虐殺事件「3.14」と区別するために「Ⅱ」を加えてある)以降、反対派の粛正がエスカレートし、その中で2人の杉並区議会議員(結柴誠一、新城節子)の辞職勧告にまで発展した。二名が「都政を革新する会」(通称「都革新」革共同中核派)を離党し、その後無所属区民派として区民から多大な支持を得、高位当選を続けていることは周知の通りである。
 
 本書はこれまで知られていなかった事実が多数盛り込まれており、革共同の内部告発の書と言える。関係者のほとんどが実名で記されていることも衝撃的である。
 ドキュメンタリータッチで詳細に描かれた事象の数々は、一読に値する。
 それにしても、著者の身の安全は保たれるのだろうか。ちょっと気がかりである。
 
 貴重な記録が満載のであるが、しかし本書にはいくつかの欠点もある。まず、離党した側からの表現が主体になっており、現在「革共同」を名乗っている側からの意見はつまびらかとは言えない。また、著者が以前、中核派機関誌「前進」の編集長を務めていたことが影響しているのか、そもそも「前進」の欠点である独りよがりの説明不足は否めず、一定の基礎知識がないと意味不明な個所が多分にある。「前進」の読みにくい文体が垣間みられることも影響しているかもしれない。
 
 また、これは編集技術の問題だが、組版が荒っぽい。1ページ20行でも上手くやればもっとすっきりと読みやすくなる。四六判450頁近い大冊で、できるだけ詰め込んで定価を下げようとする努力は認めるが、点在する誤字誤用もあいまって、編集組版の粗雑感はぬぐえない。
 
 東京新聞の三八広告で2刷とのこと。けっこう売れているようで喜ばしい。しかしその広告の隣に『松崎明著作集』はなかろう。東京新聞も多少は気を使ってほしいものだ。(松崎明は革マル派である)

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