序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

劇団芝居屋第36回公演「通せんぼ横丁」三場-1

2018-12-11 21:47:30 | 覗かれる人生芝居


     すっかり夜の帳が降りた横丁。

佐知 「ねえ、さっきの話ってカアサンの旦那の事なの?」
由美子 「元よ、元旦那」
佐知 「ああ、そうか。画伯って言ってたけど、画伯って絵
描きさんの事でしょう」
由美子 「そう、絵描きさんだよ。だって画伯だもの」
陣五 「ああ、サッチャン知らねえのか、カアサンが此処で
店やったいきさつ」
佐知 「聞いた事ないね」
由美子 「そうか。カアサン、滅多に自分の事しゃべらない
からね」
陣五 「いや、俺もよ、倉爺がウチに来て酔っぱらった時に
チラって聞いたり、美樹ちゃんから断片的な事聞いただけな
んだけどよ。カアサン、その旦那さんと別れた後に倉爺の世
話でここで店始めたんだってよ」

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誠二 「その画伯の名前は何ていうんですか」
由美子 「ええと確か、結構分かりやすい名前だったよね。
ええと・・」
陣五 「確か・・・そう、太郎だ」
由美子 「そうそう、太郎、太郎。芸術は爆発だ、の太郎」
誠二 「苗字は?」
陣五 「苗字は・・・ええと」
誠二 「まさか宮本じゃないですよね」
由美子・陣五 「そうそう、宮本」
陣五 「宮本だ、宮本」
誠二 「宮本太郎ですか?」
由美子 「そうだよ、宮本太郎だよ」
誠二 「えっ、カアサンの元旦那さんって宮本太郎だったん
ですか」
陣五 「なんだ、誠二知ってるのか」
誠二 「ええ、そりゃ。絵画に関心のある人間だったら知っ
てる人は多いでしょうね」
佐知 「そんなに有名なの」
誠二 「宮本太郎は国際絵画界にデビューしたのは遅かった
んですけど、次々と大きな賞をとって画壇に衝撃を与えた画
家ですよ」

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佐知 「大家さん、今晩は」
由美子 「コンバンハ」
陣五 「倉爺、オバンデス」
誠二 「お邪魔してます」
勝利 「いや、みなさん遅くなってすいません」
陣五 「いや、待ってました。倉爺、今夜はゆったり見られ
ますよ」
勝利 「ああ、そうですね」
佐知 「大家さん、お友達ですか」
勝利 「ええ、よろしく」

勝利 「行かないのか」
太郎 「俺は此処にいる」

美樹 「(光子に)・・・ねえ、お母さん。言いたいことがあるんだったら聞くだけは聞く
って約束してくれたわよね。・・お父さんも言いたいことがあるんでしょう」

     頷く光子と太郎。

光子 「・・・(溜息)痩せたわね」
太郎 「そうか?」
光子 「調子が悪いんだって?」
太郎 「・・・うん、まあ」
光子 「・・・どうなの具合は」
太郎 「あまり良くない」
光子 「そう・・・どんな病気なの」
太郎 「胃ガンだそうだ」
     驚く美樹と勝利。
     凍る光子。
美樹 「!!胃ガンって・・・」
勝利 「太郎、お前・・・」
太郎 「すまん、言えなかったんだ」

勝利 「ああ、そうか。私も迂闊だった。友永さんは外科治
療の権威だった」
光子 「ど、どういう事ヨ!」
太郎 「・・・いや、驚かしてすまん」
美樹 「誰でも驚くわよ、いきなり胃ガンだなんて」
太郎 「まあ、そうだろうな」
美樹 「・・・お父さん、病気の事はちゃんと言ってね。そ
の・・胃がんはどんな具合なの」

太郎 「フランスの医者はステージ三って言ってた」
美樹 「ステージ三!?」
太郎 「しかしどうも向こうの医者は信用できなくてな。ど
うせ切腹するんだったら日本の医者がいいと思って帰ってき
た」
勝利 「ステージ三って・・・太郎、お前大変じゃないか」
太郎 「そうらしいな。来週友永さんのとこで手術の予定だ」
光子 「勝ちゃん、ステージ三って何の事」
勝利 「ガンの進行具合ですよ。三はかなり悪いって事で
す」
光子 「それって命に関わる事なの」
勝利 「放って置けばそうなるでしょうね」
太郎 「おい、勝利。光子を脅かすなよ」
光子 「死んじゃうの、あんた」
太郎 「いや、そう決まってるわけじゃない」
光子 「だって、だって胃ガンなんでしょ」

     狼狽える光子。

美樹 「お母さん、落ち着いて」
光子 「でもお前、胃ガンなんだよ・・・」
美樹 「だからどんな具合かお父さんの口から聞こうよ」
光子 「そうか、そうだね」

美樹 「ねえ、お父さん。それって今すぐどうこうなるって
事ではないんでしょ」
太郎 「ああ、そうだ」
美樹 「それでその友永ってお医者さんは手術をすると治
るって言ってるの」
太郎 「まあ、五分五分だそうだ」
光子 「あんた、大丈夫なの!こんな所に居ていいの!」
勝利 「そうだよ、今日の所は引き上げた方がいいと思う
よ」
太郎 「いや、五分五分って言われたからこそ、現実に会っ
た今話さなきゃならないんだ」
勝利 「だけど身体が・・・」
太郎 「いや、そんな事はどうでもいいんだ。勝利。おめえ
も友達ならいい加減に俺の気持ち判れよ、俺は気まぐれでこ
こに来てる訳じゃないんだ!」


三場ー2に続く。
撮影鏡田伸幸


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