
『ピレネーの城』
巨岩石の上に石化した城があり、全体空中に浮いているという作品。
空気より重い物が浮くという状態は、《不条理である》と結論付けられる。しかし、人智は飛行物体(飛行機)を造り、空中に飛ばしている。
つまり、重力を上回るエネルギーがあれば浮くわけである。
しかし、巨岩石が火山の爆発エネルギーにより飛んでくるということはあっても、浮いて留まることは有り得ない。
想像を絶する光景、奇跡である。
この景色を可能にしたものは、ピレネーの城に象徴される《力》ではないか。石化(相応な年月の経過)してなお残された王国の潜在エネルギー。
地上からは巨岩石の影に隠れて仰ぎ見ることのできないピレネーの城は幻でもある。
物理的現象を凌駕する精神的な現象。人は律に従う。人は育てられた観念に忠実である。二足歩行から今日の人間社会を築き上げた人智のエネルギーは巨岩石をも空中に浮かべるほどのエネルギーを秘めている。
人間の歴史は物理的現象=自然の理をも覆すほどの勢いである。
そのエネルギーが巨岩石を引き寄せ宙に浮遊させている、その光景を地上の人は幻日のように心の中で眺めている。
是か非か、マグリットは屈折した心理をもって巨岩石を空に浮かせている。放つべき言葉はなく、無言の風景であり、幻の城である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
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