
『会話術』
湖と林が交錯しており、その盛り上がる(盛り下がる)曲線が《Amour 愛》という文字を浮かび上がらせている。
水平線は絶対の真理であるが、それが空中にまで延びている不条理、物理法則の崩壊。
第一、二十六日(下弦の月)の月が南中するのは真昼であって、その時刻には星は見えない。
大きな林(森)の背後に建屋が見えるが、遠近法に従えば大き過ぎ、窓などの規格を考えると暴力的な巨大さである。
暗い背景に、純白を示す鳥(白鳥)は奇妙であるし、《愛》というテーマにしては迫る相手を袖にし、そっぽを向いている。
全てがちぐはぐでかみ合わない情景を『会話術』と称している。真実の律がどこにも見えず、本質をことごとく外している。一見美しく静謐なムードであり、個々を切り離し部分的に見ればある程度の納得はできる。
しかしそれぞれの主張に差異がある。
それぞれが騒がしく主張し世界の律を混迷に陥れている、愛とはかくも混沌の迷いの時空にあるものなのだろうか。
愛の中に、深く潜行し支配する会話術は、むしろ混迷をきたす魔術かもしれない。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
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