
絵画作品は自己表現ではあるが、鑑賞者の鑑賞に堪えうることを基底に置く。他者の眼差しの圧は見えない審判である。物語性あるいは共感できる美の神髄、伝えることで返ってくる賞讃が制作の糧になる。この関係を結ぶことが絵画の役割でもある。
この甘美ともいえる心酔に冷たく反旗を翻したチョコレート粉砕器。
基本である彩色の美を度外視し、構図やモチーフへの配慮もなく、ムーブメントは物理的に合致せず、重量感(存在換)は薄い板状に開いた猫足という軽薄な造りで危惧される状況に平然と置いている。凝視すればするほど鑑賞者に不安が過る。(これでいいのか)と。
何を描いても自由であることは承知しているが、あたかもそのように描写している点が腑に落ちない。そのように描いてそのようではないように意図して描いている。
静かなる反旗、沈黙の決別。
デュシャンの絵画制作への終焉を熟考を以て描いた『チョコレート粉砕器』、まさに自分に残る甘さ(未練)への粉砕の断行である。
写真は『DUCHAMP』より www.taschen.com
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