若林奮の作品は並べて、任意の時空である。過去を内包し未来の時空へ変化していくに違いない時間を想定している。
一刹那、現象としての提示、そういう気がする。つまり必ずしも完成形として固定されたものではないという印象である。
継続される時空に安定はなく、観念的な計測も否定を余儀なくされるような冷徹な観測である。
日本列島が走る犬(狼)に変容される…これはどういう意味を持つのだろう。無機的な地盤が有機質の動物に牽引される。無機も有機も合体し変化していく、切り離せない関係性の中に未来はあるし、今までもそうであったのかもしれない。
気づかない存在の条理。大胆な見解ではあるが、獣の身体が列島に重なり、九州に至る先には女人の素足が縛られた形に変容している。エロス、性を露わにした発想は、見る者を惑わせる。
決して融合するはずのない異質な物との合体は、習得された観念をひっくり返すほどの威力を持ち、それは物質世界を解体する破壊力でもある。
《全否定》のエネルギーは、むしろ再生のエネルギーを挑発している。列島と言う地盤の上に共存する生物、性による連鎖の歴史、この小さなスケッチの中にはとてつもなく大きな主張がある。
(写真は神奈川県立近代美術館/葉山『若林奮 飛葉と振動』展・図録より)