逃げ水3
2023-05-15 | 創作
子供達が学校で宿題を公表すると、凄い話題になりました。
おじいさん達は本当に逃げみずがおったのかと驚き、若い人はそんなの知らないと大騒ぎです。
毎日のように逃げみずを見せて欲しいと人々が押し寄せるのです。
あんまり人が押し寄せるので、警察が出てきて交通整理をする始末です。
碁敵の家は路地の奥にある小さな家なので、人が来ると混雑して危ないので、そのうち立ち入り禁止になってしまうほどです。
最初に苦情を言ってきたのが、メディアに出ている動物学者の人達です。
「そんな貴重な動物だと、ワシントン条約違反の可能性があるので、すぐに野生に戻せ」と言うのです。
何も知らないのに野生が一番という自然保護の人達です。
私たちの回答はたった一言。
「逃げみずってご存じですか」
何も知らない人達が貴重な動物だと言うことで、保護動物とかってに決めつけているのです。
正直ワシントン条約なんて見たこともないのにと思ってます。
「希少動物なら保護するのが当然」と言う人達には「あんなの一杯いますよ。捕まえられないだけで、うじゃうじゃいますから。欲しいと思う人は、今頃だと道路にキラキラ光るところがあるので、捕まえれば良いでしょう」と言ってやったのです。
「金魚さん、道路でキラキラしているのは陽炎で逃げみずではないから、あんなのどれだけ探しても見つからないですよ」
「陽炎も逃げみずも分からない人達だから、あれでいいのですよ」
次に困ったのは、逃げ水が自分たちのモノだと言ってきた人達です。
自分が飼っていたのにいつの間にか逃げ出したというのです。
そんなわけないじゃないですか。
でも、毎日のように来て騒ぐのです
「では、あなたたちのモノだという、証拠を見せてください」
「証拠なんて」
「あなたたちのモノだというのでしたら、捕まえることが出来るでしょう。捕まえて持って帰れるのなら、あなたたちのモノだと認めますよ」と碁敵が言うのです。
「大丈夫ですか、大勢で囲んだら逃げみずと言っても、つかまっちゃうのでは」
「大丈夫ですよ、金魚さん。まあ、見ててください」
碁敵は自分のモノだという人達を裏庭に連れて行ったのです。
裏庭と言っても五メートル四方の小さな庭ですし、回りは板塀で囲われてますから、逃げみずと言っても逃げられるところは少ないのです。三人で三方を囲んで片隅に追い込んでいきます。しかも、手には段ボールの紙を持って囲んでいるのです。
あんな風に囲まれたら、逃げみずと言っても捕まると思いました。
ところが、三人が光っているところに網をかぶせて捕まえようとしたら、網の中は空っぽでした。
確かに光ってるモノに網がかぶるところが見えたのに、網の中は空っぽだったのです。
キョトンとしている人達に、捕まえることも出来ないのに自分のモノだってどうしていうのですかと碁敵が追い詰めるのです。
自分のモノだと言っていた人達は「私のところから逃げたみずじゃないみたいですね」と苦しい言い訳をして帰って行きました。
碁敵と私は大笑いです。
「でも、どうして逃げ出したのですか、確かに網の中で光っていましたよ」
「目の残像ですよ。危険が迫っていると思うとみずは光を強くして、目の残像を残すようにして、最後の瞬間に光を消して移動するのです。しかも、体を半分ほどの大きさに出来ますから、一瞬いなくなったように見えますから、まぁ、普通の人には捕まるはずがないのです」と碁敵が自慢げに言うのです。
そのうち一本の期待していた電話が掛かってきました。
ペットショップのオーナーだという方から、逃げみずをペットとして売り出せないかというのです。
私たちには待望の電話でした。一度、見せて欲しいと言われたので、人が多い昼間より、夜に来ていただけないかとお願いしました。
「それに夜の方が、素敵な逃げみずをお見せできると思いますので」
と碁敵が答えました。
上記画像の出典は逃げ水2に表記