夕焼け金魚 

不思議な話
小説もどきや日々の出来事
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ひび割れた窓ガラスが

2015-06-28 | 創作

友達から聞いた話です。
友達が部屋で寝ているとカリカリと壁を引っ掻くような音がしたそうです。
友達のアパートの壁はトタン張りで猫などが時々引っ掻いてそんな音を立てていたので、音自体は聞いた事のある音だったそうです。
でもカリカリという音が、少しずつ近づいてくるのだというのです。
まさかトタン張りの壁を上ってくる物がいるとも思えなかったのですが、やはり徐々に近づいてきたというのです。
恐る恐る窓を開けて、下を見たのだそうです。
でも下を覗くと暗い闇があるだけで何もなかったというのです。
それでもカリカリと壁を引っ掻く音は続いて、目を懲らして見ていると急にカリカリカリカリと壁を引っ掻く音が大きくなって、壁の下の方から白い顔をした老婆が壁に両手足をくっつけて壁を這って来たそうです。
びっくりして慌てて窓を閉めると、窓ガラスに老婆が手足を窓に貼り付いて中を覗き込んだと言うのです。
目をカット見開いて真っ赤な口を開けて、部屋を覗き込んできたと言うのです。
声も出せずに後ずさりしていると、お婆さんの顔が小さくなったというのです。
どうしたのだろうと思うと見る間に顔が大きくなってきて、窓ガラス一杯に顔が広がってきて、ビシッと言う音とともに顔がひしゃげるのです。
身体ごと窓ガラスにぶつかってきたのです。
アパートの窓ガラスは防火地区という事で金網が入っていて少しぐらいの物がぶつかっても割れないようになっていたのです。
しかし、おばぁさんが何度も顔をぶつけてくるので窓ガラスにヒビが入ってきたというのです。
どうしようと思っているときに遠くの山が紫色に見えたと言います。
日の出でした。
朝日が昇り始めると、お婆さんは「運が良いのね」と言うと真っ赤な口から赤い舌でチロチロ出すと、窓から真っ直ぐ後ろに飛び退いて薄明るい夜明けの虚空に消えてしまったそうです。
「いやあ、あの時は怖かったよ」と言う友達の顔が引きつっていました。
「それでこの部屋を引っ越しする事にしたのか」と手伝いをしながら聞いたのです。
「そうだよ、あのひび割れ見たらこんな部屋に住んでいられないと思うよ」とカーテンで覆われた窓を指さすのです。
「そんなに怖かったのか」と言ってカーテンを引くと大きな窓ガラス一面にひび割れが入っていて、そのひび割れが大きな口を開けた老婆の顔に見えました。
友達が引っ越ししたところは、新築の五階建てのマンションで最上階の部屋でした。
「ここならまさか登ってくるものもいないだろうし、窓ガラスにぶつかってくる事もないだろう」と笑っていたのです。
前のアパートも二階ですから、二階が五階に変わっても何の解決にならないのではと思ったのです。

後日談ですが、引っ越して暫く経った頃、友達のご両親から問い合わせがありました。
友達が行方不明になっていて何か知らないかというのです。
家賃が滞納になって大家さんから連絡が来て、何処に行ったか誰も知らないというのです。
両親が部屋に入ると彼の荷物が置きっぱなしになっていて、窓ガラスが割れていたそうです。
五階というのに、なにか大きな物がぶつかって来て窓ガラスが割れたみたいに、破片が部屋に飛び散っていたそうです。
割れた窓の壁には、誰の悪戯か黒い手型と足型が下から点々と付いていたと言います。


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