夕焼け金魚 

不思議な話
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裏美人の娘さんに教えた電話ボックス

2017-08-20 | 創作
蒲田の裏美人が訪ねてきたのは、実は二人の娘さんがこの街の美術大学に入って住んでいるのだそうです。
「金魚さん、この街では誰も知った人がいないから、あの子が困ったら助けってやって欲しいの」と言うのです。
無口な旦那も知らない人じゃないし。
「困ることなんか、あっても友達とかいるから心配無いのでは」とは言ったのですけど。
「私達のお願い聞いてくれないの」と凄まれてしまいました。
「分かりました。時々様子見て、報告しますから」と言ってなんとか納得して東京に帰って貰ったのです。
裏美人の娘さんには、裏美人と一緒に行って挨拶を交わしました。
さすが裏美人の娘さんで、この街でも一番価格が高いと言われているマンションに住んでいました。
裏美人を駅で見送ったとき、娘さんと一緒な食事をしたのです。
「金魚さん、お母さんを叩き伏せたんですって」と言われたのには参りました。
「叩き伏せるなんて、お母さんが転んだのを助けようとしたら手がねじれただけですよ」
「そういう風に言うんだ、私も覚えておこう」と言われてしまいました。
綺麗でしかも裏美人のテクニックを若いのに駆使するから、もうおじさんメロメロになってしまいました。
「そんな風にして、男友達、メロメロにしちゃうんだ」
「別にそんなつもり無いのだけど、お母さんの真似するとそんな風になるみたい」と笑って言うのです。
末恐ろしい娘さんです。
「でも、お父さんの身体なのにお母さんみたいな事するのおかしいのかな」と言うのです。
「いえ、貴方の家では身体はお父さんと言いますが、本当はお父さんの身体がお母さんで、お母さんの身体はお父さんなのです」と訳の分からないと事を言ってしまいました。
それでも、裏美人との約束ですから困ったときは助けなければなりません。
そこで少し酔い覚ましの意味もあって、夜の公園に連れて行ったのです。
「金魚さん、こんな寂しいところに連れて行ってどうするの」とニコニコして言うのです。
「心配しなくても、何もしませんから。貴方のお母さんに殺されます」
「そうなの、私は期待していたのに」と言うのです。
ダメです。これが彼女の手なのですから。おじさん、玩具にしてはいけません。
公園の角にそこだけ明るくなったところがあります。
電話ボックスです。今頃は珍しい昭和の丹頂型電話ボックス。
頭が赤いので丹頂鶴に見立ててそう言うそうです。
中には受話器を握りしめて一生鶏鳴話している女の子がいました。
近くのアパートの子です。あの子にもこの電話ボックスのことを話してあったのです。
二人で暫く見ていると、電話ボックスのドアを開けて女の子が出てきました。
目には一杯涙をためていました。
「こんばんは」と声をかけると私に気づいて会釈してくれました。
「どう、電話ボックス役に立ちましたか」と聞くと「ものすごく役に立ちました」と言うのです。
彼女の話だとおじいちゃんが危篤だと連絡が来てから、ずっと田舎に連絡しているのに誰も出てこなかったというのです。
「本当に困ったときにここにおいで」と私から聞いたことを思い出してここに来ると、公衆電話が急に鳴り出したというのです。
周りには彼女しかいなかったので、電話に出てみるとなんとおじいちゃんからの電話だというのです。
懐かしくて色々お話ししたけど、最後に「これでお別れだけど、元気に暮らすんだよ」と言われたら涙が急にポロポロ出てきたというのです。
「なんとなく、お爺ちゃん、亡くなったのだなぁって分かったけど、最後元気でねと言ってくれたから」と言って別れていきました。
「金魚さん、今までお爺ちゃんとお話ししていたのでしょ。どうしてお爺ちゃんが亡くなったっていうのかしら」
「まぁ、そういう電話だからです。本当に話したいと思っている人とお話ができる電話。そんな説明でよろしいですか」
「本当に話したい人と話せる電話、相手がどこにいてもできるの」
「はい、まあ、そういう電話だと言うことです。本当に困ったときに、困った人が来ると見つかる電話ボックスですから、貴方が明日探しに来ても見つかりませんから」と教えておきました。
翌日「本当に電話ボックス見つけられませんでした」と言う報告が入ってきました。
裏美人の娘さんが、あの電話ボックスを使うことがない方が良いのですけど。


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